【DQ11夢小説/シルビア】Nightmare On ― ユグノア跡地にて
前回の短編「Flow」で、ダーハルーネ事件後に捕らえられた夢主・エルザは、デルカダール軍の手で尋問と葛藤を味わいました。
本作「Nightmare On」はその直後、ユグノア跡地での追撃戦を舞台に描かれます。
敵として再会した勇者一行。
恩人シルビアとの一騎打ち。
「殺せない自分」と向き合うことで、エルザがどんな決断を下すのか──。
切実でありながらもどこか温かい、再出発のための一歩を描いた短編です。
Nightmare On ― ユグノア跡地にて
ユグノア王国跡地にたどり着いたのは日が沈んでからだった。
そのままの流れで悪魔の子らの捜索が始まる。
と言っても比較的すぐに彼らは発見された(逃亡者の自覚がないのか、
堂々と何らかの儀式を行っていたらしい)のだけど。
悪魔の子を捕らえるために編成されたのは部隊の人数は30人弱。
内グレイグさまを含めた15名程度は、先ほど目標に向かって行ってしまった。
取り残された私たちその他の兵隊たちはグレイグ将軍が出陣前に残した命令に従うこととなる。
『悪魔の子の仲間たちを探し出し捕らえよ』
とはいうものの、仲間たちもやはりすぐに見つかった。
カミュくん、ベロニカちゃん、セーニャさんにシルビアさん。あと知らないおじいさんが増えていた。
人数的には圧倒的にこちらが有利だが、ダーハルーネでの彼らの戦いぷりを見るに油断は決してならない。
ガルシア副隊長が声を張る。
「囲め!断じて逃がすな!!自分の首が大事ならばな!!」
ボリュームこそ非常にやかましいが、しかし真理。悪魔の子討伐はおそらくデルカダール軍でも最優先事項。
何せグレイグさまもホメロスさまも、あの虫も殺せなさそうないかにも無害な男の子を捕らえるのに
躍起になっているのだ。
こんなバカらしい話はないが、しかしそんな仕事を現に負わされている
そして今任務を達成する大チャンスというわけだ。
それを失敗したら多大な責任を負わされることは子どもでもわかる。
うん、絶対に失敗できないやつだこれ。
無実の兵士たちはせいぜい失職くらいで済むのだろう。
一方私は以前にダーハルーネでこの人たちを助けた罪で、本当の意味で首が飛ぶのだ。
「ほっほ。ゆっくりと感傷にも浸らせてくれんとは。…ずいぶんと無粋なやつらじゃの」
たっぷりと蓄えた髭を弄りながらおじいさんは笑う。
しかし目は全くの素――いや、怒りを湛えてさえいる。
そしておもむろにガルシア副隊長に杖を向けた。
電撃のように予感が走る。
「くそっ!」
避けて、なんて言えなかった。
それよりもガルシア副隊長とおじいさんの間に飛び込むように割って入った方がはるかに早かった。
結果として、おじいさんのドルマの闇は私を穿つ。身体を内部から焼かれる感覚に、顔が歪む。
痛みこそある、が――。
「アタマを叩けば手っ取り早いと思ったが…いやはや、中々ホネのあるのがいるようじゃ」
生まれつきの体質で、私は攻撃呪文全般にかなり強い。
当然痛みまで消えるわけではないが、味方を戦闘不能にするよりはマシだ。
そして目論見どおり私はほとんど無傷だった。
ガルシア副隊長はぽかんとしていたがすぐ我に返る。
短くすまんと言われた。仮にも私は罪人だというのに律儀なことだ。
「お褒めに預かり光栄です、おじいさん」
「おじいさんなどと他人行儀な呼び方はやめておくれ別嬪さん。ロウでよい」
「ベッピンだなんて、ロウさんお上手!」
おもむろに振った剣をロウと名乗ったおじいさんはやすやすとその杖で受けた。
恰幅の良い体格をしているとは思ったが、腕力の方も想像以上のものがある。
「して、お主の名前も聞いてよろしいか?」
攻め手だったはずの私の剣はあっさりと弾かれてしまう。
そこからはロウさんのターン。次々と振りまわされる杖を剣で受け、時には躱しながら後退する。
予想すらしていなかった猛攻に半ばパニックになる。
「わっ…ちょ」
名乗るどころではない。
やがて、背中に何かが当たる。岩盤。
後退はこれ以上できない。
「ワシの見立てじゃとお前さんにラリホーは効かん。悪いが少し痛い思いをしてもらうぞ」
ロウさんが杖を振り上げる。
この瞬間しかなかった。
悲鳴をあげるようにメラを唱える。
威力こそ低いが虚はつかれたのだろう。直撃したロウさんが僅かに怯んだ。
その隙に、転がるように彼の間合いから逃げる。
「…呪文耐性に高速詠唱か。中々おもしろい才能に恵まれておるようじゃの」
私の方に向き直りながら、ロウさんはそんなことを言う。
「ロウさん分析はやーい。大抵こっちから説明しなきゃだめなんだけど」
本音だった。私は生まれつき魔力量だけは相当多い。
といってもほとんど自発的には生かせないのだけど。
ロウさんが指摘した能力は、そのいずれもそれに追随するおまけのようなものである。
さらに言えば彼の言う通りあまり一般的ではない特性だ。
「年寄りをナメるでない。…しかしここでその才能を摘んでしまうことが残念じゃ」
ロウさんが穏やかに笑い、そして構える。
当初こそ魔法使いか賢者の物腰だったが、今はどちらかというと武闘家の雰囲気を纏っていた。
杖も多少短いだけの棍のように見える。
ただ者ではないことはやはり明確。
まあ、勇者さまたちと一緒にいるくらいだしなと思いつつ私も剣を構える。
「…名乗り遅れました。私、デルカダールのエルザ。しがない傭兵やってます!」
「お主ほどの魔法戦士が、そんなわけなかろ!」
剣と杖がぶつかる。痺れる衝撃。
さっきは高齢だからとなめていたのもあって遅れをとったが、同じ轍は踏まない。
しかし、近接職の人間が近接職用の武器を使って先手を打ってまで、
杖一本で迎撃する老人相手に互角までにしか持ち込めない。
なんとも情けない話だった、しかしやり直しはできない。
ていうかなんで誰も助けてくれないんだと思ったが、
よく考えたらデルカダール兵も含め誰も私を助ける義理なんてなかった。
四面楚歌というやつか。ははは笑えない。
「エルザ!?今エルザって言ったわよね!?」
しかし今一度戦闘は中断される。
私がロウさんに斬りかかったことを契機に各々戦闘が始まっていた。
そういうわけで直前、イオの爆発があったためだ。
その比較的近くにいた私もロウさんも直撃こそしていないが、
爆風に煽られたせいで一度体勢を立て直す必要があった。
イオを唱えた本人がそれを意図していたのかはわからない。
いずれにしてもその表情は驚きと憂いで満ちている。
「声は確かに似てるって思ったけどまさか…。ねえなんで?
ダーハルーネではあたしたちを助けてくれたじゃない!?」
自称大魔法使い・ベロニカちゃん。
魔物の呪いのせいで小さな子どもの姿になってしまったというけれど、
そこについてだけは正直あまり信用していない。
だがしかし、その泣きそうな幼い姿はこちらの裏切りに対する罪悪感を煽るのには十分すぎた。
「なんと。知り合いであったか、お主たち」
「ちょっとした事情があって」
困惑するロウさんに説明するのはこんなもので良いだろう。
本当に大した話ではない。
ダーハルーネにおいて、デルカダール軍に捕まったカミュくんを助ける勇者様たちのの手伝いをした。
手段は主に陽動、時にはデマを用いて軍を引っ掻き回して彼らを動きやすいように工作した。
動機はシルビアさんへの恩返し、それだけ。
かくして彼らは無事船に乗ってどこかへ逃げおおせた。
しかしその一方で私はへまをして捕まってしまい、
命と引き換えに今こうして彼らの前に立ちふさがっている。
「私はね、今デルカダールに雇われてるの」
初対面で、どこの馬の骨かもわからない私にも良くしてくれた彼らに責任を感じてほしくなかった。
何より悲劇のヒロインになどなりたくなかった。
だから喋らなくていい。私の情報はいらない。剣を構える。
二対一。
ロウさんだけでも苦戦しているのに、これはあまりにも不利が過ぎる。
…いや、むしろチームとしてはプラスだ。
厄介な魔法系を二人も足踏みさせられると考えるのだ、ポジティブに考えなきゃ。
バイキルトとピオリムを自分に唱える。
ついでに周囲を見渡す。
敵の倍以上いたはずのデルカダールの兵士たちは、だいぶその数を減らしている。
「ほら、私傭兵だから。こういうのは仕方ないんだよ。
自然の摂理つーか、これが仕事だし」
ベロニカちゃんは純粋だ。
自分たちより金を選ばれたのだと理解するや否やみるみる顔が怒りに染まる。
実際にはもちろんそんなこと思ってはいないのだけど――いや、変な言い訳はみっともないか。
「信じらんない!絶対許さない!!カミュ!!手、空いてるんでしょう!?」
それでも攻撃魔法主体の自分では私相手には不利だという分別は残っていたのだろう。
大声で物理攻撃が得意な仲間の名を呼びながら踵を返す。
明らかな判断ミスだ。
「…敵に背中見せるとか、ずいぶんと余裕ね」
ギラでベロニカちゃんの行く手を遮る。
彼女は子どもらしからぬ表情で歯噛みして向き直る。
「お主も、の」
とほぼ同時、私もベロニカちゃんと同じミスを犯していたらしい。
ロウさんに背後をとられていた。
「まっ――!」
とはいえ乱戦は得意分野であり、そんな迂闊なことを私はしない。
このおじいさん、ただ者ではない雰囲気さえ殺して私の背後に忍び寄ったのだ。
暗殺者かよ!!
「待たぬ」
杖で殴り飛ばされる。
その力たるや、一瞬身体が宙に浮いたくらい。
それでも頭をぶつけることはなんとか避け、代わりに肩を強く地面に打ち付ける。
激痛に悶えながらも、起き上がる。
本当はすでに休みたかったが、追い打ちをかけられては堪らない。
「…もう止さんか?ただでさえワシに勝つには実力がまだまだ足りぬ。
その上エルザ、お主の剣からは迷いしか感じられん」
「マジでやめてロウさんそういうの」
魔力の保有量に関しては凡人の範疇には決して収まらないものがあるという自負の一方で、
私はその一割も自発的には活用できない。
もっと直接的にいえば私は自分のレベルに反し上級呪文はほぼ使えないし、
回復呪文に至ってはホイミすらできない。
だからって戦意を喪失するわけにはいかなかった。
「迷ってようとなんだろうと、こっちは止まれないんだ」
剣をかまえる。失敗即死という言葉がのしかかる。
…けれども本当にこれで良いのだろうかという疑念も確かにあって。
違うだろ、と強く自分に言い聞かせる。
生き汚くなれ、自己中心的であれ。
そうでなければ、死ぬのは私だ。
単純に処刑されるだけならまだマシな方で、これでも悪魔の子と繋がっていた身。
あの残酷なホメロス将軍が、今更タダで死なせてくれるとは到底思えない。
そんなプレッシャーに圧し潰されかけていた時だった。
「ロウちゃん、ベロニカちゃん。ここからはこの子のお相手はアタシがするわよ」
…私は今度こそ絶望する羽目になる。
「シルビアさん…!」
対して好転した戦局に、ぱあっとベロニカちゃんの顔が明るくなる。
「カミュちゃんじゃなくてごめんなさいね。でもカレ、むしろ忙しそうだったし」
シルビアさんが手伝ってあげてと微笑むと、ベロニカちゃんは大きく頷いて去っていく。
「…逃さないっ」
魔法使いを野放しにはできないと先ほどと同じくギラを唱えようと振り上げた手を、
ムチで器用に絡めとられる。
「させるわけないじゃないのよん、エルザちゃん。
アナタ自分がどういう状況に置かれてるかわかってるのかしら?」
シルビアさんは冷たく言い放つ。
彼に気を取られている間に、ベロニカちゃんは行ってしまった。
続いてロウさんも。
今参戦している兵士たちに対魔法使いが得意な人は、それこそ精々ニ、三人しかいない。
早くここから逃げないと、こちらの負けが確定する。
程なくイオやヒャダルコが飛び交うようになる。いよいよ時間がない。
無駄だとは思うが、一応訴えてみることにした。
「放してもらえませんか」
「理由がないわ」
「逃げないって約束します。斬りはするけど」
「このアタシ相手に面白いこと言うわね」
意外なことに、シルビアさんはそれでムチを解いてくれた。
約束を速攻反故にして逃げても良かったのだが、これでも昔彼にお世話になった身。
「シルビアさんも本当にお上手!」
そこまでは腐っていないと、引っ込むムチを追うように斬りかかる。
もう一度繰り出すまでにはいくらシルビアさんでも時間がかかる。
間にあわない。
そう判断したシルビアさんは、即座にムチを捨てる。
旅芸人でありながら、抜刀術というのを彼は身につけているらしい。
まるで見えない速さで剣を抜くと、そのまま私の一撃を受ける。
そしていくらおとめだといってもそこは男女の腕力差。
力任せに私の剣を弾いてしまった。
「ちっ」
しかし私もそれではさすがに怯まない。充分に想定内だ。
徒手空拳の戦いに自信がないが魔法がある。
ギラ。
しかし撃つ相手はシルビアさんではない。
ダメージは知れているからである。
だから、自分自身だ。瞬きより僅かに長く、目を閉じる。
そして魔法の炎を身にまとうおよそその一瞬――強い光がシルビアさんの視界を襲う。
「う、ぐ」
呻いた。
目を開き、剣を持ったシルビアさんの手を蹴りあげる。取り落とす。
がちゃんという落下音を聞くことなく、そして剣を拾いにいくこともなく、
まっすぐにシルビアさんにタックルする。
迷いなく。それが功を奏して、彼と共に地面に倒れ込む。当然こちらが上だ。
手探りで、装備とは別に身につけている短剣を取り出す。
冒険者なら誰でも常備しているような平凡な作業用ナイフ。
盗賊や旅芸人が使うのとは違い決して武器になるようなものではないが、
今ばかりは話は別だ。
しっかりとそれを握り、振り上げる。
これをシルビアさんの喉にでも突き立てればひとまずは終わる。少しでも勝ちの目は見えてくる。
「やらないの?」
視力を取り戻したらしいシルビアさんはこちらを見据え、挑発的に微笑む。
気づけば手が震えていた。
魔物を倒すことには慣れていたが、人を殺すことに関しては当然初めてだ。
ましてやそれがそれなりに言葉を交わした上に恩人。
ただ戦うだけというならばともかく、まともな神経で殺せる相手ではない。
…少なくとも私には。
「やるよ!やる!!やるに決まってる!!!」
しかし、人としての矜持はあの時剣と引き換えにグレイグさまのテントに置いてきていた。
ゆえにできるはずだった。
それでも怒鳴るようにしなければとてもそう宣言できなかったけれど。
何を油断しているのか、単にできるわけがないと舐めているのか。
「シルビアさん!アナタはとっても素敵なひとだけど!!
こんなつまんない女のつまんないナイフでつまんなく死ぬのよ!!!」
シルビアさんはそれでもまるで無抵抗だった。まだ薄っすらと微笑んでさえいる。
何がおかしいんだ。こっちはこんなにも必死なのに!
バカにしてるのか。ふざけるな。わざと怒りを噴き上がらせて、それに身を任せる。
「覚悟してっ!!」
その強い言葉はむしろ自分に向けていた。
ナイフを今一度振り上げ、振り下ろすために。
気づけば絶叫していた。
喉を振り絞らん限りに理性を飛ばさなければ、到底成せる業ではない。
かくしてそこまで徹底した人生初の殺人は。
「…なんて。できるわけないよ」
失敗に終わった。
ナイフは短い刀身なりに地面に突き立っていたが、それは無意識で、とても意識的な行為。
滂沱として涙が零れてくる。
次々と、大量に、際限なく。
終わった。
たぶんすでに僅かにしか残されていなかったデルカダール軍勝ちの目を、完全に自分が潰した。
このまま城に帰ればなんの戦績もあげていない私は、
予定通り大罪人のレッテルを貼られたまま処刑だろう。
「私の負けです、シルビアさん」
けれど、これで良かったのかも知れない。
そもそも、自分とこの人たちの命を天秤にかけようとしたのが間違いだったのだ。
だってどう考えても勇者様たちの方が世界にとっては重要だ。
私が脅かして良いものではないというのは、彼らと関わったからこそ直感、そして確信までしている。
たぶんあの時グレイグさまに斬られるのが正解だっただろう。
そもそもなんであの時生き汚くなってしまったのか。
かえって苦しむだけだったのに。
そんな後悔をしながら地面に手をつき、ゆっくりとシルビアさんの上から後退する。
雨が火照った体をいよいよ冷やし始めるその折、ふと思いつくままにお願いしてみた。
「よかったら、私のこと殺してくれませんか」
「嫌よ。絶対に、嫌」
シルビアさんはゆっくりと身を起こしながら柔らかく拒絶した。
予想できた答えだったからもちろん特に驚きもなくて、
ただそうですかと返すのみになる。
そして視界は闇に包まれた。
「シルビアさん…!?」
厳密には違った。眼前の物が近すぎて何も見えないというやつ。
「ごめんなさいね。今のエルザちゃんを見てると、こうしたくなっちゃったの」
なぜか私は抱きしめられていた。
あれなんで?シルビアさんおネエさまなのに?
もしかして女性もいける口なの?
ていうか今戦闘中なのに?と唱えられてもないメダパニがガンキマリする。
「ねえ、教えてちょうだい」
低くて落ち着いた声音が、それに反して多少なりとも動揺してたのだろう。
早くなった鼓動が、それでも優しく背中を撫でる手が、私から安らぎ以外の感情をやんわりと奪っていく。
「どうして、エルザちゃんはこんなことになったの?
アタシたちと別れてから、アナタに何があったの?」
悲劇のヒロインになりたくない。
その一心で墓場(入れるとは思ってないが)まで持っていこう、
と決めたのにその優しい追及で平気で揺らいでしまう。
それでも喋ってしまっていいかな、と思えてしまうような甘い甘い誘惑だった。
教養のない私では、たとえ己自身にあった出来事でも説明するとなると中々困難だった。
ただでさえ複雑な上、そもそも話として不十分な点も少なくなかったと思う。
しかも泣きながらの説明だったのでますますわかり辛かったに違いない。
それでもシルビアさんは途中で遮ることなく話を聞いてくれた。
それがとてもありがたくてまた泣いた。
そうしていても、話はいつか終わりを迎える。この戦闘が終わったのと同じように。
「私のことと、私が知っていることは、これで全部。…もし思い出せることがあればまた話すよ」
「そう、よく話してくれたわね。それにしても…」
何か考え込むように黙り込む。
あまりに唐突で少し不自然な気すらして、思わず問いかけてしまう。
「シルビアさん…?」
「え、いえね、デルカダールの兵士ちゃんも随分と心が狭いのねって、思って…」
嘘だ、即断ずる。
自分で言うのも難だがダーハルーネでやらかしたことは、かなりの大罪である。
要はそういう問題ではないわけだ。
それをシルビアさんがわからないはずもないから、そんなことを思ったのは嘘である。
…かといって私にそれを追及する資格などないのだが。
「…一緒に船ちゃんに乗っていればこんなことには」
ふと、シルビアさんがそんなことを口にする。
後悔している様子だった。こちらには嘘は含まれていないように見えた。
基準がよくわからない。
「無理ですよ。私、ダーハルーネで次の日仕事のアポ取ってたし。すっぽかせないよ」
「しっかりしてるわねぇ」
「それで結局ポカして捕まって、お客さんには悪いことしちゃったけど」
信用ガタ落ち、嫌になる話だと愚痴りたいが、
自分の置かれている状況を思うとそういう場合でもなかった。
「…シルビアさん。ありがとうございます…だいぶ落ち着きました」
少し名残惜しいがずっと抱きしめていてくれた彼からそっと離れる。
「どういたしまして」
と微笑むシルビアさんに笑い返し、これからの意向を思いつくままに話す。
「私、このままデルカダールに帰ってもどうせ処刑されるから。
…だからこの隙に、このまま逃げようと思ってます」
「確かに今がチャンスかしらね」
一緒に勇者様の仲間たちを襲ったデルカダール兵士たちは、
把握しているだけでもすでに大半がやられている。
おまけに戦闘力が圧倒的に最強のグレイグ将軍は悪魔の子探しに躍起になっている。
今は夜。小康状態に入ったとはいえ雨も降っている。こんなチャンスはなかった。
「今度は失敗しない。また会いましょう。みんなには次に会えたら、改めて謝るから…」
「ええ」
「だから、手を離してください」
いつの間にか、そしてなぜかシルビアさんにしっかり手首を掴まれていた。
その意図がわからなくて困惑して、そんな懇願しかできない。
胸騒ぎのように心臓が鳴る。さっきからなんでだ、と思う。
シルビアさんは恩人だ。けれどそれ以上でも以下でもない。
いやきっと。彼はイケメンだからドキドキしているのだ。
服装以外はまるで王子様みたいに気品もある。
そんな人に急に抱き締められて手まで握られたら、女性ならきっと誰でもテンパる。
そう、私も例外なく。
なぜかそんな言い訳じみたことを心で羅列していた。
「違うの、これは」
そしてシルビアさんの口調は思ったよりも固く、ひどく真面目で。
「ねえ、もしエルザちゃんさえ良かったら――」
「シルビアさん!!生きてる!?」
威勢のいい少女の声が雰囲気を容赦なく切り裂いた。
「あ、良かった。無事だったのね…で、なんでいちゃついてんの」
ベロニカちゃんは私たちの様子を見て顔をしかめる。
そうか、彼女にはそういう風に見えたのか。
なんて思いながらシルビアさんを見る。彼は苦笑して私の手を解放した。
「別にそういうわけじゃないのよ、ベロニカちゃん。アタシ、この子を説得してただけだもの」
「そうよね!シルビアさん、カミュと違ってまじめだもん!で、結果はどうだったの?」
ベロニカちゃんはシルビアさんに謎の厚い信頼を見せつつ私を睨んだ。
完全に怒らせたらしいというのは明白で、とにかく私は頭を下げなければならなかった。
「さっきはひどいことして、本当にごめん!もうしない…っていうか、しろって言われても無理」
「ふうん」
ベロニカちゃんは少し考えた素振りを見せ。
「悪いって思ってるなら今度何か奢りなさいよね」
と、感情豊かな彼女にしてはずいぶんと素っ気なく返してきた。
「ありがとう…」
「別に。まだ許してないし」
ぷいっと拗ねたようにそっぽを向くベロニカちゃんに、あらあらとシルビアさんは微笑むのだった。
✍️ あとがき
お読みいただきありがとうございました。
原作本編とはあまり関わりのない夢主ですが、要所要所で絡んでいくタイプの女の子です。
ここから彼女は始まるのか、それとも始まらないのか──見守っていただければと思います。
「夢小説ってこれで合ってるのかな…?」と自問しつつ、また次回お会いしましょう。
💌 作品を気に入っていただけたら、OFUSEからの応援も大歓迎です。
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