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『ON THE WAY - 明日に向って-』 いつも旅人、夢から夢へ

最近家族のものが転職をし、早朝から家を空けることが多くなった。「寝てていいよ」とは言われても早くから支度をし出掛けていく様を見ていれば、やはりどうしても一緒に目が覚めてしまう。そもそもここ数年、夜更かしをするより朝早く起きることが多くなった事もあるせいか、一緒の早起きを全く迷惑と思うことはない。むしろ自分の時間より早く起きて朝の時間をゆっくり楽しむことができるのは、日々の安らぎと思えて、むしろ感謝しているくらいである。

こういった原稿を書くことも朝に行うことが多い。夜はどうしても仕事の疲れが蓄積しているせいかなかなか集中出来ない。その点朝は、頭の中がクリアになっているので、いろんなことが頭に浮かんでくるし、何よりも空気が爽やかなのが心地よい。日々の喧騒、社会への苛立ち、自分の仕事あれこれ、思うことは多々あって人知れず眠れない夜を過ごしたり。そんなことも全て朝になればリセットされるし、どんな嫌なことがあっても一度冷静になって考えることが出来る。時間の使い方って大事だなあと思ったり。自分の年齢とか体調とか、気持ちの持ち様とか、その他いろんなこと全て、変わっていくことを受け入れることで、やることとやれることの移り変わりを自分で受け止められるようになれば、人生は豊かになる。そう思っているからこそ、こういった朝の時間は有意義であるし、ありがたく思えてくる。

岸田智史5作目のアルバム「ON THE WAY - 明日に向って -」は、70年代終盤に発表された作品。前作「モーニング」とシングルヒット「きみの朝」以降、注目されることを余儀なくされ、各メディアへの露出も多くなり、本来のライブ活動と相まって、多忙を極めた頃の作品である。でもだからといって彼本来のナイーヴさや、前作で芽生えたタイトなサウンド志向が失われることはなく、むしろそれまでのキャリアで培ってきたものを柔軟に作品に取り入れ、非常にバランスの良いアルバムに仕上がっている。

本作は、アコースティックなサウンドを基本としながらも、全体的にはバンドサウンドを主としたアルバムであり、同時にソングライターとしての資質を遺憾無く発揮した作品である。そもそも岸田智史の本来の立ち位置を考えたら、そのバランスが評価されている作家である故、むしろ何も変わらずいつも通りと言った印象。本作もそういった距離感から作られたアルバムと言えるのだが、それでも少しずつ変化していく様は、彼自身の成長そのものなのだろうと思っている。特に「つめたい雨が窓を」などに聴かれるソフィスティケートされたアコースティックサウンドは他に例を見ないほど洗練されたものであり、唯一無二な存在と言わしめるものであるのだ。シングルヒット「夕陽のなかで」や「心の悩み」、プライベートな作品(であることは容易に想像できる)「尚子」などに於いても、そう言ったアプローチは随所に聴かれ、同時期に活動していたミュージシャンとは一線を画すものばかりが並んでいる。かといって後に脚光を浴びることとなる「シティポップ」関連のそれとも違う、まさにこれこそが「岸田智史サウンド」の昇華した姿なのであろう。

B面冒頭から3曲は割とハードめな作品が並ぶ。「Lonely Night」「嘘ダ!!」「嵐の後」がそれに当たるのだが、それでも透明感のある歌声はどこまでも健在なので、むしろその歌唱力の高さを垣間見ることが出来る作品となっている。アルバムタイトル曲「明日に向って - ON THE WAY -」は、彼にしては珍しい(かもしれない)メッセージ色のある作品。だからといって「らしくない」わけではないのが好感を持てるというもの。アルバムラストの「いつも旅人」は多忙を極めたライブ活動と自分を照らし合わせたようなクロージングナンバー。人の孤独と終わりなき旅を終電の過ぎた駅のホームで想いをめぐらすその様は、辛くて苦しい旅の中、でも前に進むしかない現実をひとり静かに語らう歌。彼自身がそうであったのかは定かではないが、当時の彼の心情は少なからずこういうものだったのかも知れないって思うのは、僕だけではないだろう。

アルバムジャケット。海岸に佇む姿。裏ジャケットには朝の海辺。早朝早起きして、というより、夜を明かしてたどり着いた浜辺、そういう印象。アルバムを通して聴いた後ジャケット見ると、そんなイメージが心に湧いてくる。朝の清々しさとは裏腹の、でも誰にでも朝は必ずやってくるという、彼のメッセージがここにある。

地方に住んでいるので、満員電車での通勤はない。職場まで自転車でも行ける距離だし、車ならもっと楽にいくことが出来る。ちょっと時間をずらすと通勤渋滞(たいしたものではないのだが)に巻き込まれることはあるけれど、基本ほぼノーストレスで移動ができるのは嬉しいことだ。20代の頃、都内まで向かう仕事をしていたあの頃の満員電車を忘れることが出来ないけれど、あの辛さを少しでも知っているから、今の居心地のよさはとてもありがたい。

朝はいつでも全ての始まりである。

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