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フィルムカメラ持ってモロッコひとり旅。詐欺師との喧嘩に勝つ方法

旅の目的地にはきっと二種類ある。偶然の出会いのように導かれる場所と、長い間夢見て辿り着く場所。私にとってモロッコは、長い間憧れの旅先で、高校生の頃からモロッコ料理だとかモロッコ雑貨だとかを熱心に調べては、いつか行ってみたいと思いを募らせていた。しかしかの大谷翔平も「憧れるのをやめましょう」というように、憧れは人を目的から遠ざける。事実、これまで何回かチャンスはあったはずなのに、私は未だモロッコを訪れたことがなかった。同世代の野球選手が海を渡って米国の地で活躍しているのだから、私もジブラルタル海峡ぐらい渡るべきかもしれない。冬の長期休暇はチュニジアを訪れる予定だったし、あわせてモロッコにも行って、北アフリカ旅ということにしよう。こうして私のモロッコ滞在は決まったのであった。

チュニジア-モロッコ間のフライト
近いように見えて意外と3時間くらいかかる

モロッコは公共交通が非常に発達していて、主要都市間であれば列車やバスで簡単に移動できる。初めてのモロッコだったし、まずは定番のカサブランカ、フェズ、シェフシャウエン、タンジェを訪れることにした。最もカサブランカは夕飯のためのごくわずかな時間しか確保できなかったのだけど。

モロッコ、特にカサブランカの公共交通がどれだけ発達しているかというと、たった8分の遅延でさえ電光掲示板に表示してくれる。カサブランカの駅舎の記憶は、なんとなくモンペリエとかレンヌの記憶とごっちゃになっていて、つまりフランスの公共交通と比べても遜色ないほど。確かコスタがあってコーヒーを買った気がする。カサブランカからフェズは4時間の長旅だったので、同じコンパートメントの乗客も思い思いの飲み物やお菓子を持参していた。コーヒーを片手に車窓越しに広がるなだらかな丘を眺める時間は、今振り返ると心休まるとても豊かな時間だったと思う。

車内販売もあるので
駅舎で飲み物を買えなくても大丈夫
途中駅
コーラを旅のお供にした人もいたっぽい

フェズはモロッコ最古のイスラム都市がある街で、そのイスラム都市である旧市街は駅から車で10分ほどの距離にある。フェズには2日間滞在する予定だったので、一日目は新市街を歩いてみようと思いたち、街中をうろうろすることにした。ついでに昼食をとれる場所や、洗濯できる場所を探したけど、年末だったからかめぼしい場所を見つけることができなかった。
仕方がないので新市街の端っこにある巨大ショッピングモールを訪れて、モロッコのアパレルブランドらしい店々を眺めた。ちょうどアフリカ・チャンピオンリーグの最中だったからか、モロッコ国旗カラーの靴下やTシャツが大量に販売されていた。かわいいけど普段使いしづらそうと思ったけれど、この日、控えめながらも黄色字で「I’m never wrong」と書かれたTシャツを着ていた私が言えたことではなかったかもしれない。(Pull & Bearは様子のおかしいTシャツがたくさん売っていておすすめです)

フェズ駅
フェズのタクシーは赤色
工事の足場の上で昼寝している
安全管理を心配したくなる
年末だけれど紅葉していた

ショッピングモール探索を終えて、この日の宿がある旧市街にタクシーで向かった。配車アプリを利用して呼び寄せたドライバーは、私のTシャツ以上に様子がおかしくて、乗車中、事故って死ぬか、どこか連れ去られて身ぐるみ剥がされるのではないかと心底怯えたけれども、無事に目的地まで送り届けてくれた。単に理由なく様子がおかしいだけだったようだ。

旧市街の道は狭いので
街の外周にドロップオフしてもらった

旧市街の狭く曲がりくねった道を通り、なんとか宿まで辿り着いたものの、エントランスと思わしき分厚い扉はかたく閉ざされておりびくともしない。チェックイン時間を過ぎているのに困ったものだとあたりを見回すと、ちょうど通りの反対側から、同じ宿の宿泊客と思わしき人物と彼女の荷物を運ぶ青年の姿が見えた。青年は私に「もしかして君もお客さん?」と尋ねながら、扉の鍵を開けてくれた。どうりでちっとも開かないわけである。

青年が何と名乗ったのか、今となってはもう覚えていないのだけれど、彼は手際良く私のチェックインを済ませてくれた。てっきり通りがかりの親切な青年が旅行客の荷物運びを手伝っていたものと思っていたから「あなたはここのスタッフなのね」と聞くと、なんだか不自然な間があり、彼は「そうだよ」と答えた。

施設の説明をするついでに、青年は「明日は何をするの?」と私に聞いてきた。「旧市街を見てまわるつもり。ツアーガイドを予約してある」と答えると、彼は突如声色を変え、慌てたように言う。「オンラインで予約したの?それきっと違法だよ!モロッコ政府のオフィシャルガイドじゃないと罰金をとられるよ!」
彼の話に、そういうものか、と思いつつ「まぁでももう予約しちゃったし〜」と開き直っていると、青年は「罰金は900ドルだよ!パスポートも没収される!今すぐ俺の紹介する公式ガイドで予約したほうがいいよ!」と続けた。
あぁ、なんだ、そういうこと……。そういう詐欺ね……。

明らかに塩対応になった私を無視して、青年はああだこうだと理由を並べ立てる。いよいよ面倒になってきたので「パスポートでもなんでもいいよあげるよ〜日本の大使とお友達だから大丈夫〜」とこちらも嘘をついて応戦する。青年は面食らったのか、しばしだんまりしてしまった。自分は嘘つくわりに他人の嘘には慣れてないんかい。しかし彼もせっかくの商機(カモ)を逃すまいと必死である。今度は「明日はどこいくの?」と聞いてきた。
「シェフシャウエン。バスも予約してあるよ」
「バスは大変だよ。女の子の乗り物じゃないよ。プライベートシャトルを出してあげるよ!」

バスは女の子の乗り物じゃない……?
バックパックひとつで、飛行機と電車を乗り継いで、この宿まで来てやった私に、そんなことを言うんだ?
この一言に私は完全に心を閉ざしてしまい、以降一言も発さずにいたら、さすがに青年も諦めたのか、商談(詐欺話)切り上げて部屋に案内してくれた。

商談(笑)中出してくれたお茶

青年が部屋まで荷物を運んでくれるというのでバックパックを預けると、彼は「君、日本人の女の子のお客さんの中で、荷物が重くない初めての客だよ」と冗談めかして言った。その懲りない態度に更に腹が立ってしまった私は、いよいよ我慢ならず青年相手に捲し立てた。
「そうだよ、私はそこらへんのナイーブな“女の子”とは違って、旅慣れてるってわかったでしょ?誰かに何かを指図される必要はないの。親切で誠実なローカルのアドバイスなら聞くけど、あんたはどうなんだろうね?」
青年は、さすがに私がブチギレていることに気づいたようで、素直に「ごめんなさい」と言ってくれた。

重苦しい空気に耐えかねたのだろう、青年は「ところで、君のTシャツいいよね」と無難な話題に切り替えようとした。彼の目線は気まずさからだろうが、私の方には向けられていなかったので、きっと気づいていなかったと思う。私がこの日、例の「I’m never wrong」と書かれたTシャツを着ていたことを。おかげで私は満面の笑みで、「そうだよね、私もそう思う」と返したのであった。

こうして私のフェズ喧嘩珍道中は開幕したのである。

内装は可愛い宿なんだけどね

モロッコ編 つづく。

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