シュレディンガーのパンツ【ギャグエッセイ】
私のパンツには穴が空いている。本当だ。今履いているパンツの話だ。
「今履いている」とそれらしく言ったが、実は今履いていない方のパンツにも穴が空いている。同じタイミングからローテーションで履き出したから、ちゃんと同じように穴が空いた。さすが日本のものづくり、工場生産の均一なクオリティに脱帽である。
ここまで聞いて、読んでいただいている皆さんは作者である私の人物像をどう思っただろう。私ことどぶ色羊はつい先日noteのアカウントを取ったばかりのド素人で、かつnote上で詳しいプロフィールを明かしていない。唯一過去投稿から読み取れることといえば「ケツが3つに割れている」という超局所的な個人情報だけだ。
加えていうと私の文章をAIに読ませると100%男性作者と判定されるので、ミスリードを防ぐため最初にお伝えしておくが、私は女性である。港区のJTCに勤める会社員 30代女性である。そしてパンツに穴が空いている。
私は毎日、穴の空いたパンツで、響きだけはオシャレな立地にある港区の某JTCに出社する。ちなみに読者の皆様には申し訳ないが、うちの会社がどこにあるかの詳細と、パンツのどこに穴が空いているかの詳細は個人情報なので開示NGとさせていただきたい。弊社のプライバシーポリシーに抵触する。
私は新卒からこの企業に勤めて早十数年。仕事の裁量や責任は年を追うごとに増している。先週も新たに手掛けるサービスの開発リーダーとして、上司と侃々諤々の議論を繰り広げたばかりだ。穴の空いたパンツを履きながら。同時に今回のサービスでタッグを組む某上場企業の事業開発責任者と打ち合わせし、サービスのローンチタイミングや来期からの業務フローを綿密にすり合わせを行ったばかりだ。穴の空いたパンツを履きながら。
もちろん、その職場関係者に私のパンツに穴が空いていることは明かしていない。明かしていたら逆セクハラだ。でも事実として私のパンツには穴が空いている。その事実は私だけが知っている。
もし仮に私が仕事の場で、社会的信用と引き換えに「今パンツ穴空いてるんですよね〜」と言ったとしよう。おそらく周囲はドン引きしつつも、私が何かの冗談を言ったと思って愛想笑いしてくれるだろう。私もそんな風に若手に気を遣わせる歳になってしまったのだ。でも確かめようがないし、確かめたところで楽しい未来は1ミリも待っていない。だから若手たちは「私のパンツに穴が空いているかいないかの真相は闇の中」という無難な収束を目指すだろう。うちの若手は優秀だ。何事も白黒勝敗を付けたがる論破おじさんたちは見習ってほしい。結果的に議論から取り残される私のパンツ。まさにシュレディンガーのパンツである。
ではなぜ私は、そんなシュレディンガーのパンツを履き続けるのか。
答えは簡単だ。まだ履けるからである。これに関しては共感してくれる人がたくさんいると信じている。だってnoteは共感型のメディアなんですよね? え、いない? またまた〜、嘘でしょ。そんな見栄張らなくて大丈夫ですって。本当はあなたのパンツにも穴が空いてることくらい、私は知ってるんですよ。そんな風に素直になれない見栄っ張りなあなたのために私は言い換えよう。私がシュレディンガーのパンツ、略してシュレパンを履き続ける理由。それは、まだ「パンツとしての本質を失っていない」からである。
私は令和のホワイトカラーとして長年仕事をしていて、つくづく思うことがある。私たちの行なっている仕事の、はたしてどれが本当に必要な「本質」なのかということを。
私がいま手掛けている前述の新サービスも、サービス自体は価値のあるものだと思っている。だが一方でまだハンコ文化を脱却できないJTCである弊社上層部が「サービス提供完了の証拠に押印をもらわねばダメだ!」という。サービス自体でパンツの機能は100%果たしているのに、だ。
一方で営業ノルマとして課される数字。これが仮に達成率98%だったとしよう。これもほぼパーフェクトに近いにもかかわらず、「未達」という評価が下る。これはパンツにわずかな穴が空いていただけで、「ノーパンだ!」と騒ぐようなものだ。
でも再三言うが、別に穴があってもパンツとしての本質は失っていない。確かに私のパンツには穴が空いているが、決してノーパンではない。そこを履き違えてはいけないのだ。
仮にこの全体から見ればごく小さな穴をもってして「ノーパンだ!」などというヤツがいたら、おそらくそいつはJTCの組織文化停滞の一因だろう。
しかし残念ながらいるのである。大局の前に小局にこだわるヤツって。今その議論が必要か? みたいな枝葉にネチネチこだわるヤツって。
私ははっきり言ってそういう仕事の仕方が大嫌いだ。だから私は令和を生きるビジネスパーソンとして、そんな意思表示と誇りを持ってシュレパンを履く。大事な打ち合わせの日もシュレパンを履く。勝負パンツとしてシュレパンを履くのだ。
だってそれは、私の仕事の価値観そのものだから。
──そんな話を書いて投稿しようと思っていたら、まさかの「#600note祭り」というタグを、どうやらパンツがお好きな主催者様が開催しているのを見かけてしまった。これが当企画のお題②の「ちょっと驚いた話」でなくて、何なのだろうか。
ということで主催のたかっちP様、この度はタグをお借りさせていただきありがとうございました。過去記事にたくさんのパンツのお話があるということで、これから少しずつ拝読させていただきたい所存です。
……ところで、ここまで長々とお付き合いいただいた根性のある読者の皆様を見込んで、もう一つ伝えしたいパンツの穴に次ぐ事実がある。聞いてほしい。
私のパンツは生乾き臭がする。本当だ。今履いているパンツの話だ。
「今履いている」とそれらしく言ったが、実は今履いていない方のパンツも──
以下略。
【どぶ色牧場🐑040/パンツ】
