自由市場の限界 トピック

1 市場メカニズムと厚生経済学の基本定理

厚生経済学の第一定理

完全競争市場における一般均衡(ワルラス均衡)で達成される資源配分は、パレート最適(パレート効率的)である。 パレート最適とは、資源の無駄がなく、他の誰かの効用を低下させることなしには、いかなる個人の効用も高めることができない配分状態を指す。

厚生経済学の第二定理

個人の選好の凸性など一定の条件の下では、任意のパレート最適な資源配分は、初期賦存量の適切な一括定額移転(Lump-sum transfer)を行うことによって、完全競争市場の一般均衡として実現可能である。 この定理が成立するためには、経済主体の限界的な意思決定を歪めない「一括定額税(Lump-sum tax)」および「一括定額補助金(Lump-sum subsidy)」による再分配が必要となる。

  • 一括定額税の例:人頭税、住民税の均等割額

  • 一括定額補助金の例:定額給付金、ベーシックインカム

2 租税・社会保障制度がもたらす超過負担(死荷重)

現実の租税や社会保障制度の多くは一括定額の要件を満たさず、相対価格を変化させることで経済主体の行動を歪め、資源配分の非効率性(超過負担あるいは死荷重)を発生させる。

  • 消費税:従価税として課税されるため一括定額税ではない。相対価格を変化させることで代替効果を生じさせ、消費者の限界代替率と生産者の限界変形率を乖離させるため、パレート最適な配分を阻害する。

  • 所得税・所得控除:限界税率が正であるため、余暇と労働の相対価格に歪みをもたらす。代替効果を通じて労働供給のインセンティブを阻害する(労働供給の減少)。

  • 生活保護:資力調査(ミーンズテスト)を伴う給付であるため、就労による所得の増加が給付額の減少(暗黙の限界税率の上昇)をもたらし、労働インセンティブを低下させる。

3 市場の失敗

完全競争市場の前提条件が満たされず、価格メカニズムによるパレート最適な資源配分が達成されない状態を「市場の失敗」と呼ぶ。主要な要因として以下の4つが挙げられる。

  1. 外部性(外部効果)

  2. 公共財

  3. 情報の非対称性

  4. 不完全競争(独占・寡占)

4 公共財の特性

純粋公共財は、以下の2つの特性を同時に満たす財・サービスとして定義される。

  • 非排除性(Non-excludability):対価を支払わない特定の経済主体を、その財の消費から技術的または経済的に排除することが困難な性質。

  • 非競合性(Non-rivalry):ある個人の消費が他の個人の消費可能量を減少させず、限界費用ゼロで追加的な消費者に財を供給できる性質。

5 フリーライダー問題と過少供給

公共財の非排除性に起因して、フリーライダー(ただ乗り)問題が発生する。 各経済主体にとって、他者の費用負担による公共財の供給にただ乗りし、自身の費用負担(拠出)をゼロにすることが支配的戦略となる。 この状況下では、全主体が支配的戦略を選択した結果、社会全体の厚生を最大化する水準で公共財が供給されず、自発的供給が社会的に過少となるパレート劣位なナッシュ均衡(囚人のジレンマ)に陥る。

6 自然独占と価格設定力

完全競争市場では、全経済主体が市場価格を所与として行動する価格受容者(プライステイカー)であることが大前提となる。 しかし、初期投資として莫大な固定費用を要するインフラストラクチャー産業などでは、生産規模の拡大に伴い長期平均費用が低下し続ける「規模の経済(費用逓減)」が働く。 その結果、1社による独占生産が最も効率的となる「自然独占」が成立する。独占企業は自ら価格を決定する価格設定者(プライスメーカー)となり、限界費用を上回る価格設定を行うことで市場の失敗を引き起こす。

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