『ティッシュの気持ちは考えたことありますか?』
「うわ!やっちゃった!」
教室の中で大きな声を出したのは、小学三年生のゆうた。
片手にはちぎれたティッシュがつまむように握られている。
「最初の1枚って、取り出すの難しいんだよね……」
落ち込んだ声を出すゆうたに、近くのクラスメイトが
「そんなに気にすること~?」
と笑い声をあげた。
すると、ゆうたは真面目な顔をしてこう言った。
「ぼく、ティッシュに、心があるって信じてるんだ」
「とくに、最初の1枚ってさ。
だいたい自分だけ引きちぎられて、
なんにもわかんないまま連れていかれるんだよ。こわくない?
ぼくなら泣く」
それを聞いて、クラスメイトはもう一度笑った。
「なにそれ、あたまやわらかすぎ〜」
でも、ゆうたは本気だった。
朝、教室に入るとすぐ、机の中からティッシュ箱を取り出して、
ピンとのびた一枚に、そっと声をかける。
「だいじょうぶ。やさしくするからね」
使うときは、一枚一枚ていねいに引き抜いて、
使い終わったら、すこしだけ頭をさげる。
鼻をかんでも、涙をぬぐっても、パンくずをふきとっても、
いつもそうしていた。
たとえ、まわりに変な目で見られても——。
そんな日々がつづいたある日。
箱の中のティッシュが、とうとう最後の1枚になった。
「きみでおしまいかあ。今日までありがとう」
ゆうたはそう言って、最後のティッシュを、両手でふわっとすくうように取り出した。
やさしく使って、そっとゴミ箱へ。
「箱も捨てないとな」
……と、そのとき。
「あれ?」
箱の底に、なにかが書いてあることに気が付いた。
目を凝らしてよく見ると、うっすら文字が書いてある。
『ここまでありがとうございました。
ティッシュ一同、ていねいに扱ってくれたあなたに、
心より感謝しています。
次の箱でまたお会いできること、楽しみにしています。
追伸
最初の一枚は、“ぼくだけ四角いまま出られなかった”って、
ずっと気にしてますよ』
ゆうたは思わず、ぷっと吹き出した。
「やっぱりな……」
その日からゆうたは、新しいティッシュ箱を開けるとき、
いちばん最初の1枚には、必ずこう言うようになった。
「きみのこと、ちゃんと考えてるよ」
……と。
そういって声をかける時はいつも、
ティッシュがすこし、ふくらんだ気がしたけど——
それはたぶん、気のせい。
おしまい
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