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【エンジルとグレテル】 僕なりの 『ヘンゼルとグレーテル』 みたいなもの|||シン小説 no.090

また、二人、送られてきた。

森の奥の、さらに奥深く。

誰も知ることのない。

でも、世間でやらかした子供たちが、送られてくる。

ここは、そんな施設。

ここでは、本当の名前では呼ばれない。

コードネームみたいなもの。

要するに、あだ名だ。

送られてきた二人は、兄妹らしい。

兄の方は、いつも、何かを演じているようだった。

やたらと、芝居くさい。

その微妙な下手くそさが、鼻につく。

あきらかに、演じている。

だから、ついた名は、エンジル。

妹はといえば、最初から、とにかく暴れていた。

たいした戦闘力。

それなりに熟練した職員たちを相手に、一歩も引かない。

結局、電撃付きの拘束具を装着される始末。

そして、つけられた名は、グレテル。

ホントに兄妹なのかは、定かではない。

それも演じているのかもしれない。

まぁ、そんなのは、どうでもいいこと。

この施設では。

ほかの子供たちも、大なり小なり、似たようなものだ。

それぞれに、同じような武勇伝を持つ。

そんなワケありばかり。

それが、なぜ、おとなしく共同生活を営むに至るのか。

それは、ここの施設長が、化け物だから。

化け物は、化け物でしか、ね。

文字通りのモンスターというわけではない。

その能力において。

みな施設長を、こう呼ぶ。

『魔女』と。

そう、女性。

軍の秘密部隊の精鋭だったとか。

そのあと、国のエージェントとして活躍してた、だとか。

子供たちが、なにをしようと、眉ひとつ動かさない。

すべては、噂だけ。

名前すら、誰も知らない。

でも、魔女は、何でも知っている。

魔女は、厳しかった。

でも、なにかにつけて、お菓子をくれた。

やたらと強く、やたらと厳しい。

なのに、やたらとお菓子なのが、なんだか不釣り合いに思えた。

みな、魔女が怖いから従っていただけではない。

真剣に向き合ってくれる。

その真剣さに、子供たちは、いつしか絆される。

日々のお菓子が、少しずつ、少しずつ、私たちの能力に変わっていく。

エンジルも、演じなくなった。

グレテルも、暴れなくなった。

魔女の前では。

魔女は、微笑みながら言う。

「もっと自由にすればいいのに」

ここでは、更生のために、いろいろなことをする。

すべては、社会復帰のため。

そう聞かされて。

それが、まるで軍隊の訓練のよう。

ある日、山での訓練が行われた。

特に、行動や言動が荒いものたちのために。

私は、そこに選ばれなかった。

その訓練で、行方不明者がでた。

兄妹と、幾人かの子供たちが、行方不明になってしまったというのだ。

なぜだか、魔女は、動かない。

数日後、兄妹だけが帰還した。

道に迷ったらしい。

魔女からもらったお菓子に救われた、と。

お菓子を食べ、包み紙を目印にした。

そんなことで、生き延びられるものだろうか。

たまに、二人だけで話す、謎の言葉も気になる。

なにより、ほかの子供たちは?

だが、それは有耶無耶になってしまった。

魔女が、なにも聞かなかったからだ。

それからも、訓練は厳しかった。

が、不思議と、みな魔女に従った。

魔女に褒められたかった。

私は、お菓子を配る係になった。

お菓子は、魔女の愛の象徴のようなもの。

とても、うれしかった。

魔女の代わりに、お菓子を渡す。

なんだか、魔女になったような気がした。

いつ、どんなときにお菓子をあげればいいのか。

お菓子をあげるために、みんなを観察するようになる。

だんだんと、いろんなことがわかるようになった。

魔女が、なぜ、なんでも知っているのか。

なんだか、わかったような気がした。

あるとき、魔女にもお菓子を渡した。

おそるおそる、ご褒美です、と。

そっと魔女の顔を視る。

なんだか、とてもうれしそうだった。

そうやって、観察できるようになってくると、余計に、あの兄妹が気になりだした。

そして、ついに、それが疑念ではないことが証明されてしまう。

施設で、爆発が起きた。

突然だった。

電気が消え、通信も切れた。

職員たちは?

魔女は?

警報も、鳴らない。

ただ、爆発音だけが響く。

私たちは、外に逃げた。

声が聴こえてきた。

施設を囲む高い塀の上からだ。

あの兄妹。
エンジルとグレテルだ。

笑っている。

施設は、次々と爆砕していく。

そして、魔女が現れた。

炎の向こうから。

手には、何も持っていない。

エンジルが言った。

「終わりだ」

子供の声ではなかった。

魔女は答えた。

「そうね」

グレテルが、塀から飛んだ。

魔女へ向かって。

速かった。

これまでの喧嘩とは、明らかに違った。

魔女は、何事もないかのように、あっさりと、グレテルを捻じ伏せた。

グレテルは、そのまま動かない。

いや、動けない。

エンジルが、何かを撃った。

魔女は、もう、そこにはいなかった。

塀の上だ。

エンジルを叩き落とした。

銃は、いつのまにか魔女の手にあった。

一瞬だった。

二人とも、倒れたまま動かない。

魔女が塀の上から言った。

「あなたたちの国では、優秀だったのでしょうね」

グレテルが笑った。

「いつから?」

魔女は、なにも答えない。

魔女が、ポケットから何かを取り出した。

小型のリモコンのようなもの。

そのスイッチを押した。

床が開いた。

さらに奥へ、地下深くへと階段が続いていた。

この下に、あったのか……。

もうひとつの施設。

噂は、本当だったのか。

エンジルが聞いた。

「なぜ殺さない?」

魔女は、静かに答えた。

「必要だから、かしらね」

「何が目的だ」

「すべて」

敵も味方もない。

国も、組織も。

すべてを手に入れたい。

そのために、ここで育てている。

世間でやらかした子供。

親に捨てられた子供。

誰にも扱えない子供。

国に使われていた子供。

他国エージェントまでも。

魔女にとっては、すべて同じ。

魔女の教え子たちは、ありとあらゆる国にいる。

ありとあらゆる組織に。

ありとあらゆる場所に。

「さて、二人はどうしたい?」

二人は、何も答えない。

「まぁ、いいわ
 お菓子を持ってきてちょうだい」

私は、ちゃんとお菓子の籠を持ち出していた。

えらい。

みんなにお菓子を渡してまわった。

生き残った、みんなに。

ひとりずつ、丁寧に。

エンジルとグレテルも、受け取ってくれた。

そして、魔女も。

みな、お菓子を高らかと、掲げる。

まるで、乾杯するかのように。

そして、思い切り、かじる。

大騒ぎが、まるで嘘のよう。

みな、静かになった。

そう、静かに。

魔女が、私を視た。

なにかを言おうとした。

もう、言葉にはならなかった。

ごめんなさい。

私は、残りのお菓子を魔女の横に置いて、手を合わせた。

ーーー

「以上で、報告を終わります」

「長い間、ご苦労だったな」

「ありがとうございます」

「帰還早々すまんのだが……
 新しい任務を頼みたい」

「なんでしょう」

「施設で子供たちを教育してほしいのだが」

「私がですか?」

「ノウハウは、学んできたろう?」 

たしかに。

今度は、私が魔女になるのか……。

「少し考えさせてください」

「お前みたいなのが、来るかもしれないからか?」

違いますよ。

そう言いかけたが、私は、黙って部屋を出た。

司令官は、ホントに信じてるんだ。

みんな死んだって。




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