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異想随筆集1「高い鳥居」

 来年はヘヴィ年だからか、一足早く街中いたるところでヘヴィメタルが流れている。とてもうるさくて心地よい。

 リサイクルショップを覗くと鳥居が並んでいた。そういえば近所の神社が一つ取り潰されていた。何でも売られ、何でも買われる世の中だ。一つ買って帰ろうか、と一番小さな鳥居の値段を見たが、とても気軽に買える値段ではなかった。第一鳥居を家の中に置いてどうするつもりもない。

 店の天井近くまである、一番大型の鳥居を持ってレジの前に並んでいるものがいた。人の形をしているが人ではなさそうだ。その鳥居には安めの一軒家が買えるくらいの値がつけられていた。絶対にぼったくりだ。しかし買う方の持っているお金もどうせ本物ではないだろう。

 あまりにレジ待ちの行列が長いので、私は手に持っていたサイズの合わないスニーカーを棚に戻して店を出た。安いのにいいものが出ていると、つい必要もないのに買ってしまう。履けない靴がたまっていく。何も拭いたことのないタオルが過剰にタンスに詰め込まれている。

 ヘヴィ・メタル・ヒッピーズ、ヘヴィ・メタル・ヒッピーズ。そんな言葉を口ずさみながら歩いている小学生がいた。ヘヴィ年は来年だよ、と思わず声をかけようとして、そんなことをすれば不審者と勘違いされる、と思い躊躇した。しかしよく見ると我が子だ。
「ヘヴィ年は」
「おかえり、ただいま」
 放たれなかった「来年だよ」という言葉が歳末の空を飛んでいく。少し離れた道を、先ほどの大型鳥居が進んでいくのが見える。電線に引っかかり、バチバチと鳥居が弾け、停電が起こる。その手の事態に慣れてしまっているこの辺りの住民は、大型鳥居を買ったものを責めたりはしない。

 娘の手を取って歩く。
「また停電だね」
「帰ったらあれしよう。電気を使わないカードゲームのやつ」
「やらない。アコースティック・ヘヴィ・メタルの続きやる」
「何それ知らない」
「言ってもわかんないだろうから教えない」
 知らないものが増えていく。娘の身長は私に近付いてくる。朝より夕方の方が少し高い。寝る直前には五年分ほど縮こまる。

 ちぎれた電線に電線虫がとりついてすぐに修復されている。近隣の電気が復旧していく気配が伝わってくる。

 もう家まではすぐそこのはずなのに、今日はいつもより遠い。

(了)

 コンセプト:フィクションを交えた随筆集(予定)。経験の少なさを想像力で補う試み。日常の拡張的な。千文字前後。


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