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「グランジシンガー・イエス」


 イエスがグランジを歌うのは、少年時代に働いていた粉砕工場の作業場でずっとニルヴァーナが流れていた影響だった。街に散乱する粗大ごみ、粗大動物、粗大人間をかき集めてきて大型の粉砕機に放り込んでいく中で、正気を保つために先輩が流していたものだった。先輩は粗大ごみと自分の区別がつかなくなり、ある日消えていた。

 荒れ果てた高校に進んだイエスは、授業中に眠りながらオリジナル・グランジ・ソングを口ずさんでいた。授業中であるにも関わらずギターの練習をしていた、隣の席にいたユダはイエスの歌声を聴いて衝撃を受け、すぐさまイエスを揺り起こした。
「朝まで寝ていたしまだ眠い」
「十分寝てるじゃないか。それより今の歌って誰の歌?」
「まだ授業中じゃないか。寝る時間なんだけど」
 勉強する時間ですよ、と優しい教師が呟くが、誰も聞いていなかった。勉強したい者は勝手に自習していた。小説を書く者、絵を描く者、漫画を描いている者がいた。彫刻を彫る者、歌詞を書く者、筋トレをしている者がいた。勉強する時間ですよ、とまた教師は言い、彼自身の勉強に戻った。
「もう一回歌ってくれよ」とユダは言ったが、イエスは既に寝息を立てていた。そしてまた寝言で歌い始めた。ユダはそれを録音して、譜面に記した。

 その日の昼休み、屋上でギターをかき鳴らしながら、ユダはイエスに歌わせた。
「おまえの歌か?」とユダはイエスに尋ねた。
「頭の中で勝手に鳴るんだ。いろんな歌が重なり合うから、整理して一つにした。それからなるべく他人の歌に似ているところを削っていった。あと昼休みだから眠りたい」
「いいから起きて歌ってろ」
 だが昼休みの屋上はダンサー・マリアの練習場所でもあった。無心に虚空を蹴りつけていたマリアはユダのギターとイエスの歌声に一瞬眉を顰めた。しかしすぐに、歌に合わせて体を動かし始めた。ユダとイエスの周りをぐるぐると踊り回りながら、コーラスにも参加し始めていた。

 同じ曲を五回繰り返した後、マリアは「他の曲は?」とユダに尋ねた。ユダはイエスに「他の曲は?」と問い直した。イエスは「他の曲? そうだなたとえば」と言って、新たな歌を歌い始めた。午後の授業はとっくに始まっていたが、イエスの歌声につられて、生徒も、教師も、近隣の動物たちも、街をたむろしている浮浪者たちも、近隣の公園で遊んでいた幼児たちも、屋上に集まってきていた。

 マリアから飛び散る汗を、イエスが歌にする。
 弦が切れたユダのギターの代わりを、誰かが軽音部から勝手に調達してくる。
 イエスの喉が涸れて途中で止まった、その日初めて歌われた歌の続きを、群衆が勝手に歌い始める。

※「悪童イエス」のセルフリメイク。


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