採用チームが生産性の限界を突破するために「AI推進合宿」をやってみた話
株式会社kubell(旧:Chatwork株式会社)キャリア採用グループ グループ長の渡辺 道太(@WatanabeDota)です。こちらの記事は、AIやBPaaSをテーマとした、#kubellブログリレーの一記事として執筆しています。
この記事は何か?
この記事は、kubellのキャリア採用グループがいかにしてAIを業務に実装する第一歩を踏み出し、組織の生産性を底上げしようとしているかをまとめたものです。現在、私は中途採用マネージャーとして組織を牽引していますが、昨年から既存のリソースのまま、成果最大化を実現するというミッションに向き合っています。
各社がこぞってAI活用を進める中、「なんとなくAIが大事なのはわかっているが、現場への落とし込みが進まない」と悩むリーダーや「人事・採用領域でAI活用を推進したいけどうまくいかない」と困っている人事担当者に向けて、私たちが実際に行ったAI推進合宿の背景と、具体的なワークの内容、そして得られた成果を共有できたらと思います。
なぜAI推進合宿だったのか?
事の発端については、#kubellブログリレーで上長の澤井が公開したnoteを読んでいただくとご理解いただけるかなと思いますが、シンプルに採用チームが膨大なタスクに追われ、疲弊している現場をどうにか改善したいという思いが出発点でした。
それと同時に、全社戦略として「AIをすべての事業・組織戦略に組み込む」という方針が発表されたことも影響しています。
もちろん、グループの責任者としてこれに応えなければならないという使命感はありましたが、リアルな感情は、2つの危機感から来るものでした。
採用チームの増員ができないという構造的な限界
会社全体が生産性向上へ舵を切る中、採用目標が上がるからといって、安易に採用担当者を増員してリソースを確保するという手段は取りづらい状況にありました。
つまり、今のリソースとケイパビリティ(能力)のまま、採用人数と成果を最大化しなければならないという状況です。これまでの「気合いと根性」や「時間をかける」という延長線上のやり方では、どう計算しても立ち行かなくなることは明白でした。
HRパーソンとしての市場価値に対する焦り
もう一つの理由は、個人的な焦りも含まれます。
世の中でAI活用事例が次々と生まれ、採用領域においても大きなインパクトが出ていることが可視化されているトレンドの中で、「AIを実務で触ったことがない」「AIを使って仮説検証を回した経験がない」というのは、今後のキャリアや市場価値において致命的なリスク(相当やばい状態)だと思っていました。自分自身やメンバーの能力拡張のためにも、AIから逃げるわけにはいかないなというのが本音でした。
組織の温度差を埋めるための最適解が“合宿”だった
なぜ日常業務の中での改善ではなく、わざわざ合宿という形をとったのか。一番の理由は、組織内に存在するAIの習熟度と温度感のバラつきを解消するためです。
AI活用への関心度や、実際にプロンプトを叩いてみているかどうかのレベルは、個人の習熟度に大きく依存します。これを各自の目標として個人に任せても、スキルや温度感の違いから全く進捗が生まれていない状況でした。
バラバラの個の力を結集し、組織全体の標準化を図るためには、日常業務から強制的に離れる時間が必要だと考えていて、全員で同じ場所に集まり、全社のAI戦略という共通の方向性をインストールし、自分たちの業務のどこにAIを組み込むかを同じ目線で議論する。
そのための一体感を生み出す装置として、AI活用推進合宿というフォーマットが最適だと判断しました。
合宿の全体感と、現場の「面倒くさい」の言語化
合宿の目的は、「AIツールの使い方を学ぶこと」ではありません。一番の狙いは、AI活用の前段となる思考法を学び、事業の拡大スピードに耐えうる高効率な採用オペレーションを構築することです。
ツールありきで導入を進めても、根本的な業務フローが整理されていなければ、生産性向上には繋がりません。そのため、キャリア採用グループのメンバー全員で思考のプロセスを合わせ、再現性のあるフローを生み出すことを目指しました。
この目的を達成するため、合宿では以下のステップでワークを進行しました。


STEP1:面倒くさいの言語化と徹底的な洗い出し
最初のワークは、日々の業務に潜む「手間」「無駄」「面倒くさい」と感じているタスクを、包み隠さず全て付箋に書き出す(ブレストする)ことから始めました。ここで、現場の本音が可視化されていきます。
【面倒くさい業務(一部抜粋)】
・スカウト対象者のピックアップと送信作業
・求人票の作成と要件定義のすり合わせ
・複数のステークホルダーが絡む、面接官の日程調整
・採用定例MTGの議事録作成
・次回の面接官への、見極めポイントの申し送り
これらは採用担当者であれば誰もが共感する「重要だが、属人的で工数がかかる業務」だと思います。まずはこの面倒くさいをテーブルに出し切り、優先度をつけることで、どこにAIを介入させるべきかのターゲットを明確にしました。

STEP2:業務フローの構造化と、人とAIの役割分担
次に行ったのが、優先度の高い業務をタスクレベルまで分解し、「誰が」「どのタイミングで」「何をしているか」を構造化するワークです。
実は、この合宿で最も盛り上がり、メンバーの目の色が変わったのは、特定のAIツールを触った瞬間ではありません。業務を『点』ではなく『線(フロー)』で捉え、人とテクノロジーの適切な役割分担が綺麗にハマった瞬間でした。
例えば、「面接評価のコメント入力が大変」という単一の課題(点)に対し、「AIで評価文を自動生成しよう」という局所的な解決策で終わらせては意味がありません。これを業務フロー(線)として再構築すると、次のような全体像が見えてきました。
1、面接を実施し、録画データが自動でGoogleドライブに格納される。
2、そのデータを元にGASを組んでAIによる評価コメントの自動生成を実施。
3、生成された評価コメントを、Chatworkで面接官に通知する。
4、面接官はその評価コメントをレビュー(確認・修正)し、最終的な評価としてシステムに登録する。
このように、一連のプロセスの中で「AIが生成・要約・通知をし、人がレビュー・登録をする」という連携が言語化された時、メンバーからは「こういう風に思考すれば、こんな風にAIを組み込めるのか」という驚きの声が上がりました。また意思決定に関わる重要なプロセスなので、「人」がしっかり介入することで精度や品質を担保する仕組みにしています。
単なる作業の自動化ではなく、「思考のプロセスを共有し、自ら課題を発見してAI活用策を生み出す感覚」をチーム全体で体感できたことが、この合宿における最大の収穫でした。

合宿の成果と「やりっぱなし」にしない仕組み
こういった合宿が抱える最大のリスクは、その場は盛り上がったが、日常業務に戻ると結局何も変わらないという事態に陥ることだと思います。今回のAI推進合宿では、そのリスクを排除し、確実に実務へインストールすることにこだわりました。
合宿で描いた点から線への業務フローをもとに、直後から現場で複数の自動化プロジェクトが実際に立ち上がっています。
候補者ごとのグループチャットの自動生成
面接評価コメントの生成とリマインドの自動化
書類選考タスクの自動化
これらはすべて、合宿のSTEP1で洗い出したリアルな「面倒くさい」を起点とし、STEP2で「AIと人の役割分担」を明確にした結果として生まれたものです。机上の空論ではなく、課題を解決するための必然的なアクションとして自律的に動き出しました。
さらに重要なのは、これを一過性の取り組みにしないための仕組みづくりです。
この取り組みを本合宿で終わらせるのではなく、その後も継続的に「プチAI推進合宿」を開催するサイクルを組み込みました。定期的に時間をブロックして集まり、各プロジェクトの進捗確認や、実際に運用してみて新たに見つかった課題の抽出を行っています。
これにより、AI活用は特別なイベントから日常の継続的な改善サイクルへと定着し、これまであまり業務で触れてこなかった「Zapier」や「GAS」といったツールをチームの全員が使えるようになり、各個人が能動的に自動化に取り組めるレベルまで進化することができています。
AI活用は「個人のスキル」ではなく「組織のOS」のアップデート
昨今の採用市場では、採用難易度がどんどん上がっていると思います。安易に「人を増やす」という選択肢が取れない中、組織の生産性を向上させるためには、これまでの「気合いと根性」の延長線上から脱却する必要があると思います。
今回のAI推進合宿を通じて得た最大の学びは、AIツールを使いこなすこと自体は目的ではないということです。まさにkubellとして掲げる「人とテクノロジーで、99.7%の働くを変える。」に通ずる部分で、真の目的は、業務プロセスを構造的に捉え直し、人が本来やるべき価値ある仕事に向き合うための時間と精神的な余白を作ることにあります。

もし今、採用目標のプレッシャーとリソース不足に悩みながらも、「AIの活用が現場に浸透しない」と感じているマネージャーや人事担当者の方がいれば、まずはチーム全員で集まり、日常の「面倒くさい」をテーブルに乗せることから始めてみてください。
「AIをどう使うか」をトップダウンで押し付けるのではなく、現場の負を起点にして「どうすれば自分たちが楽になるか」を共に考える。その泥臭い一歩が、個人のスキル依存を脱却し、組織全体の生産性を劇的に変える起点になるはずです。
