深夜、誰もいない受験勉強の部屋で、僕らは「秘密の同盟」を結んでいた
部屋の時計が深夜2時を指すころ、世界は静まり返る。静寂は時として、机に向かう高校生の心を押しつぶしそうになるほど重い。
18歳の冬、第一志望の模試判定は「C」。積み上がった参考書と模試の解答用紙を前に、ため息ばかりが漏れていた。暗闇の中で自分の将来だけが見えず、取り残されたような焦燥感に包まれていた。
そんな夜、静寂を破るように小さなノイズを立てて聞こえてくるのが、ラジオから流れるパーソナリティの声だった。
当時はスマホや「radiko」のような便利なアプリもなく、部屋の隅に置いたポータブルラジオのアンテナを伸ばし、ノイズが一番小さくなる角度を必死で探したものだ。クリアな音声ではない。だからこそ、耳をすませてその声に集中した。
ラジオの向こうで話すパーソナリティは、流行の音楽を流し、くだらない世間話をし、リスナーから届いたバカバカしくも愛おしいハガキを読んで笑っていた。
「受験勉強、辛いよね。でもさ、いま同じようにラジオ聴きながら起きてる奴、全国に何万人もいるから大丈夫だよ」
ふいに投げかけられたその言葉に、胸の奥が熱くなった。
自分は一人じゃない。この暗い部屋で、ラジオの周波数を合わせている見知らぬ誰かと、今確かに時間を共有している。顔も名前も知らない全国の「ラジオっ子」たちと、深夜限定の「秘密の同盟」を結んだような気がした。
ラジオの魅力は、「自分だけに語りかけてくれている」ような距離感の近さにある。テレビや動画のように目を奪われることもなく、声と言葉だけで心に直接届く。家事をしながら、勉強をしながら、ただ流して聴いているだけでも、ふとした瞬間に心に響く言葉に出会うことができる。
その後、何とか大学に合格し、社会人になり、生活のスタイルは大きく変わった。
今はポータブルラジオのアンテナを調整する必要はない。スマホを開き、radikoのアプリを立ち上げれば、いつでもどこでもクリアな音質で大好きな番組を聴くことができる。タイムフリー機能を使えば、仕事や家事でリアルタイムに聴けなかった深夜放送も、翌朝の通勤電車の中で楽しむことができる。
形や技術は変わっても、ラジオから流れる声の温もりと、リスナーとの絆の深さは少しも変わっていない。
仕事で失敗して落ち込んだ帰り道、スマホから流れるお気に入りのパーソナリティの軽快なトークにクスッと笑わされ、重かった足取りが少し軽くなったことがある。ラジオはいつだって、人生の少し寂しい時間や踏ん張りどきに、そっと寄り添って背中を押してくれる存在だ。
深夜のノイズ混じりの声に救われたあの冬から長い年月が経った今も、私はラジオを聴き続けている。
ラジオっていいな。そう思える瞬間がある限り、きっとこれからも、私の日常にはラジオの声が流れ続けているのだと思う。
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