密かに飼ってたアナコンダが逃げた話
朝、目が覚めた。
いつも通りスマホを見て、天気を確認して、布団から出た。
そしてリビングへ行った。
何かがおかしい。
しばらく考えて気づいた。
アナコンダがいない。

正確には、昨夜まで部屋の隅にいたはずのアナコンダがいない。
私は密かにアナコンダを飼っている。
なぜ密かになのか。
妻に言っていないからだ。
妻はまだ寝ている
まずい。
非常にまずい。
アナコンダを飼っていること自体もまずいが、
飼っていたアナコンダが家のどこかを自由に移動していることは、もっとまずい。
私は静かに捜索を始めた。
ソファの下。
いない。

カーテンの裏。
いない。
テレビ台の裏。
いない。
キッチン。
いない。
冷蔵庫の横。
いない。

こんなときに限って、妻が起きてきた。
「何してるの?」
「ちょっと探し物」
「何探してるの?」
困った。

アナコンダとは言えない。
「……長いもの」
「長いもの?」

「うん」
「どれくらい?」
私は少し考えた。
「かなり」
妻も探し始めた
「何それ、気になる」
妻が一緒に探し始めた。
やめてほしい。
探してほしいけど、見つけてほしくない。
人生で初めて、
「見つかってほしい」と「見つからないでほしい」が完全に同居した。
妻がソファの下をのぞく。

「ないよ」
「そうか」
ホッとする。
いや、ホッとしてはいけない。
アナコンダがいないのだ。
妻がクローゼットを開ける。

「ここ?」
「いや、たぶん違う」
「なんで?」
「そこには行かないと思う」
妻がこちらを見る。

「何を探してるの?」
「……長いもの」
「それは聞いた」
ついに質問が核心へ
妻が腕を組んだ。
「生き物?」
鋭い。
私は黙った。
「生き物なの?」
「まあ……生物学的には」
「何?」
「爬虫類寄り」
「寄りって何?」
完全に爬虫類だ。
もう逃げられない。
私は覚悟を決めた。
「実は……」
そのときだった。
妻の後ろ。
廊下の奥。
何かが、
ズル……
と動いた。
私は見た。

妻はまだ気づいていない。
巨大なアナコンダが、ゆっくり廊下を横切っている。
私はとっさに妻の肩をつかんだ。

「今日、外で朝ごはん食べない?」
「急に?」
「パンケーキとか」
「なんで?」
「人生は短いから」
逃げ切れなかった
妻が振り返った。
アナコンダと目が合った。

沈黙。
妻。
アナコンダ。
私。
三者が動かない。

妻がゆっくりこちらを見た。
「……これ?」
「うん」
「長いもの?」
「そう」
「探してた?」
「そう」
「飼ってた?」

私は小さくうなずいた。
妻はもう一度アナコンダを見た。
そして聞いた。
「いつから?」
「半年くらい」
「半年!?」

アナコンダより大きな声が出た。
問題はそこではなかった
私は怒られる覚悟をした。
なぜ黙っていたのか。
なぜアナコンダなのか。
どこで手に入れたのか。
半年間どうやって隠していたのか。
いろいろ聞かれると思った。
しかし妻の最初の質問は違った。

「名前は?」
「え?」
「名前」
「……アナちゃん」
妻はしばらく黙った。
「そのままじゃん」

怒るところ、そこだった。
その日の家族会議で、
アナちゃんを今後どうするかについて話し合った。
妻は最後まで、
「飼うなら最初に言ってよ」
と言っていた。

私は反省した。
確かにそうだ。
夫婦の間に秘密はよくない。
特に、
全長5メートルを超える秘密は、隠し通すのが難しい。

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