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おじさんの戦い方


若いころは、不思議だった。

なぜ、おじさんやおばさんは夜になるとすぐ眠くなるのに、
朝はやたら早く起きるのか。

「眠いならもっと寝ればいいじゃん」

そう思っていた。

しかし、年齢を重ねてわかってきた。

あれはたぶん、
睡眠が下手になったのではない。

HPの最大値が下がっているだけなのだ。


若者はHPゲージが長い


若いころの体力は、ゲームで言うとこうだ。

最大HP:9999

多少無理しても耐えられる。

夜更かししても耐えられる。
深夜にラーメンを食べても耐えられる。
休日に昼まで寝ても、まだ寝られる。
オールしても、なぜか翌日カラオケに行ける。

もはや人間ではない。
バグった勇者である。

HPゲージが長すぎるので、多少ダメージを受けても気づかない。

睡眠不足?
ストレス?
脂っこいもの?
深夜2時のポテチ?

若者の身体はこう言う。

「まあ、いけるっしょ」

いけるのだ。
腹立たしいことに。


年を取ると最大HPが減る


ところが、年齢を重ねると状況が変わる。

最大HPがこうなる。

最大HP:120

急に低い。

スライムの体当たりでも、まあまあ痛い。

月曜日の朝:-30
上司の「ちょっといい?」:-25
満員電車:-40
昼食後の会議:-35
スマホの通知が多い:-10
スーパーでレジ袋を断るタイミングを間違える:-8

もう夕方には瀕死である。

だから夜、早く眠くなる。

これは怠けではない。
自然現象である。

HPが赤く点滅しているのだ。

画面右上でピコンピコン鳴っている。


でも長く眠れない理由


ここで疑問が生まれる。

「じゃあ、HPが低いなら長く寝ればいいのでは?」

たしかにそう思う。

しかし、問題はここからだ。

年を取ると、最大HPだけでなく、
HP回復タンクの容量も小さくなる。

若いころは寝ればこうだった。

8時間睡眠

HP 0 → 9999

完全回復。
宿屋に泊まった勇者である。

一方、年齢を重ねるとこうなる。

夜10時に就寝

朝4時半に起床

HP 0 → 118

惜しい。
満タンには近い。

だが、そもそも最大値が120しかない。

だから身体が言う。

「もう満タンです」

いや、少ない。
少ないけど満タンなのだ。

コップが小さいから、すぐ満杯になる。

これが「早く眠くなるのに、長く眠れない」の正体ではないか。


若者の睡眠は大浴場


若者の睡眠は、大浴場である。

広い。
深い。
何時間でも入れる。
寝ても寝ても、まだ寝られる。

土曜日の朝に一度起きて、
「まだ10時か」
と言って二度寝できる。

さらに13時に起きて、
「まあ休日だし」
と言って三度寝できる。

あれは睡眠ではない。
冬眠の予行練習である。


大人の睡眠は紙コップ


一方、大人の睡眠は紙コップである。

容量が小さい。

すぐ満タンになる。
でも、すぐ空になる。
そして途中で漏れる。

夜中にトイレで起きる。
変な夢で起きる。
エアコンが気になって起きる。
明日の予定を思い出して起きる。
なぜか昔の失言を思い出して起きる。

紙コップに穴が空いている。


朝5時に起きる人は健康意識が高いのではない

朝5時に起きる大人を見ると、若いころは思った。

「意識高いなあ」

違う。

たぶん、意識ではない。

HPが満タン通知を出しているだけである。

身体が勝手に言う。

「回復完了しました」

本人は思う。

「いや、まだ眠いんだけど」

身体が言う。

「でも満タンです」

本人が言う。

「もっと回復したい」

身体が言う。

「上限です」

悲しい。

これが老化である。


若者はモバイルバッテリー、大人は古いスマホ

若者の身体は、最新スマホである。

バッテリー容量が大きい。
充電も速い。
多少アプリを開きっぱなしでも耐える。

一方、大人の身体は古いスマホである。

朝100%。
駅に着いたら82%。
午前中の会議で61%。
昼食後に43%。
夕方には18%。
帰宅したら低電力モード。

そして寝る。

夜10時に充電開始。

しかし、朝4時半には100%になっている。

「お、意外と充電早いじゃん」

違う。

バッテリー容量が劣化しているだけである。


HPの上限が低いと、感情のダメージも重い

体力だけではない。

年を取ると、精神HPの上限も低くなる。

若いころは、多少の嫌なことがあっても寝れば忘れた。

しかし大人になると、些細なことで削られる。

コンビニでレジが遅い:-3
メールの文末が冷たい:-7
「至急ではないですが」と書かれた至急メール:-18
昔より焼肉が食べられない:-22
階段で膝が小さく鳴る:-30
若手社員が平成を歴史として語る:-45

もう瀕死である。

大人が夜に元気がないのは、人格の問題ではない。

日中の小ダメージが蓄積しているだけなのだ。


だから大人は回復アイテムに弱い


年齢を重ねると、回復アイテムへの反応が大げさになる。

風呂。
温かいお茶。
マッサージ。
静かな部屋。
早めの布団。
予定のない土曜日。

これらが、若者には地味に見える。

しかし大人には違う。

エリクサーである。

「今日は早く風呂に入れた」

これだけでHPが20回復する。

「明日の朝、予定がない」

これだけで最大HPが一時的に30増える。

「冷蔵庫にプリンがある」

これはもう伝説の装備である。


逆に夜更かしは強敵すぎる

若いころの夜更かしは遊びだった。

大人の夜更かしは違う。

ラスボス戦である。

23時を超えると、敵が強くなる。

23時30分:目が乾く
0時:判断力が消える
0時30分:翌日の自分を犠牲にする契約が始まる
1時:なぜかネットでどうでもいいものを調べ始める
1時30分:翌朝の自分が死ぬ

そして翌朝。

HP最大値120のところ、
起床時HP38。

もうゲームなら宿屋に戻るレベルである。

しかし現実では出勤する。

現実世界は難易度が高すぎる。


年齢とは「最大HPが減る代わりに、防御力を上げるゲーム」

では、どうすればいいのか。

最大HPは、ある程度しか増えない。

若者のように9999には戻れない。

ならば、大人は戦い方を変えるしかない。

つまり、
HP最大値で勝負するのではなく、防御力で勝負する。

無駄な予定を減らす。
深夜のスマホを避ける。
食べすぎない。
人混みを避ける。
怒りそうなニュースを見すぎない。
「今やらなくていいこと」は本当に今やらない。

これはサボりではない。

被ダメージ管理である。

大人の人生は、HPを増やすゲームではない。
HPを削られないようにするゲームなのだ。


結論:早寝早起きではなく、低HP高効率運用

年を取ると早く眠くなる。
でも、長く眠れない。

これは根性が足りないからではない。

たぶん、HPの上限が下がっている。

だからすぐ眠くなる。
そして、すぐ満タンになる。
でも、その満タンの量が少ない。

若者は巨大なタンクローリー。
大人は小さな水筒。

若者は大容量バッテリー。
大人は劣化したスマホ。

若者はHP9999の勇者。
大人はHP120の賢者。

ただし、大人には経験値がある。

どの敵が危ないか。
どの道が疲れるか。
どの予定が地雷か。
どの人と会うとHPが削られるか。

それがわかってくる。

つまり年齢とは、
最大HPが下がる代わりに、攻略情報が増えるゲームなのだ。

だから今日も、我々は早く眠くなる。

そして朝、妙に早く目が覚める。

そのとき、こう思えばいい。

「また老いたな」

ではない。

「HPは少ないが、満タンになった」

そう思って、静かに立ち上がる。

そして朝のコーヒーを飲む。

それは、今日最初の回復アイテムである。


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