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保育園の給食室は、休めない。

少し長い文章になります。

でも、長い間保育園の給食室で働いてきた私の、切実な思いです。

どうか、最後まで読んでいただけたらうれしいです。

一人欠けたら、現場は止まる。


それでも、子どもの給食は止まらない。

保育園の給食室は、そういう場所です。

人が足りなくても、時間は待ってくれません。

体調不良が出ても、食数は減りません。

「今日は作れません」は、通用しません。

それでも毎日、子どもたちの前には給食が並びます。

温かい汁物。

やわらかく炊いたご飯。

発達に合わせた離乳食。

食物アレルギーに配慮した特別食。

そして、午後のおやつ。

子どもにとっては、それが「当たり前」です。

けれど私は、その当たり前が、限界ぎりぎりの人員と緊張の上に成り立っていることを知っています。

長きにわたり、保育園の給食室で働いてきました。

今日は、その現実をお伝えします。

「今日は作れません」が言えない場所


私も一度、140食の給食室を、昼から一人で回したことがあります。

一緒に働いていた職員のご主人が体調を崩し、急きょ帰ることになった日でした。

家族の体調が悪ければ、帰るのは当然です。

その人が悪いわけではありません。

午前中の給食だけは、二人で何とか出しました。

しかし、その後には、140食分の食器や調理器具の洗浄と片付けが残っていました。

さらに、午後の手作りおやつを作り、配膳し、おやつが終われば、もう一度すべてを洗って片付けなければなりません。

それを、すべて一人で行いました。

昼食は、仕事の合間にかき込みました。

もちろん、休憩はありませんでした。

あの日、一人でやり切ったことを、武勇伝として伝えたいわけではありません。

一人でも、やるしかなかった。

一人欠けただけで、残った職員が休憩も取れず、すべてを背負わなければならない。

それほど人員に余裕のない給食室が、実際にあることを知ってほしいのです。

私たちは、人間です


給食室で働く一人ひとりの経験や力量には、もちろん違いがあります。

言葉の伝え方を振り返らなければならないこともあります。

けれど、給食室がピリピリする理由を、その人の性格や力量だけの問題にしてよいのでしょうか。

私たちは、人間です。

感情があります。

人が足りず、時間に追われれば、心に余裕をなくす日もあります。

「急いでください」

「それでは間に合いません」

「ここは必ず確認してください」

そんな言葉が、強く聞こえることもあると思います。

では、なぜ口調が強くなるのでしょうか。

それは、子どもたちの命を預かっているからです。

食物アレルギー。

加熱温度。

異物混入。

誤配膳。

食材の状態。

給食室では、

「これくらいでいいか」

「多分、大丈夫だろう」

で終わらせることができません。

ここだけは絶対に間違えられない。

そう思えば、指示が強くなることもあります。

もちろん、相手を傷つける言葉や、人格を否定するような言葉が許されるわけではありません。

人手不足は、きつい言葉の免罪符にはなりません。

けれど、強い口調だけを切り取り、その人の性格や人間性だけの問題として終わらせるのも違うと思うのです。

人手は足りていたのでしょうか。

一人に責任が集中していなかったでしょうか。

相談できる人はいたでしょうか。

人を育て、支える環境はあったでしょうか。

口調を直すことはできます。

しかし、現場の苦しさを変えないまま、個人だけを責め続けても、同じことはまた起こります。

人を育てる余裕


給食室には、独特の空気があります。

限られた人数で、時間に追われながら、同時にいくつもの作業を進めていく。

一人ひとりの動きを見ながら、次に何をするのかを瞬時に判断する。

どれだけ忙しくても、衛生管理や食物アレルギーへの確認は省けません。

この緊張感は、実際に給食室で働いてみなければ分からないものがあると思います。

私自身も若い頃、給食室の人間関係や、自分の言葉の伝わり方に悩んだ経験があります。

だからこそ、後から若い職員が入ってきた時には、同じ思いをさせたくないと思っていました。

自分が経験したつらさを、次の人に繰り返したくなかったのです。

私が大切にしていたことの一つは、一つの仕事を任せたら、最後まで本人に責任を持って終わらせてもらうことでした。

初めのうちは、当然時間がかかります。

その仕事が終わらず、次の作業に回れないこともあります。

それでも、途中で私が仕事を取り上げることはしませんでした。

一つの仕事を最初から最後まで経験しなければ、作業の流れも、注意すべき点も、自分の仕事として身につかないからです。

もちろん、任せたまま放っておくわけではありません。

その人が一つの仕事に時間をかけている間、回らなくなったほかの仕事は、私がフォローしていました。

若い職員に責任を持たせることと、一人に責任を押しつけることは違います。

できるようになるまで待つこと。

失敗しそうな時には支えること。

その間、現場全体が回るように周りが補うこと。

人を育てるには、教える側にも時間と余裕が必要です。

人が育たないのではありません。

育てるための余裕が、給食室から失われてはいないでしょうか。

補助する人と、責任を持つ人


私が働いていた給食室にも、補助の職員を一人配置してもらっていました。

食器を揃えること。

使用した器具を洗浄すること。

配膳に必要なものを準備すること。

そうした仕事を担ってもらうことで、調理に入る職員が本来の仕事に集中できました。

本当に助けてもらいました。

でも、補助はあくまでも補助です。

離乳食の形状を判断すること。

食物アレルギーへの対応を確認すること。

加熱状態や提供の可否を判断すること。

そうした仕事まで任せることはありませんでした。

何かあった時に、その判断の責任を負わせることはできないからです。

人が一人いることと、専門的な判断をし、責任を負える人が一人いることは、同じではありません。

給食室は、頭数だけをそろえれば回る仕事ではないのです。

これほど専門性が高いのに


当時の園長にいつも言われていました。

「保育園は家庭と違います。ここで働くあなたたちは、それぞれの専門性を持った、専門職のチームです。」

そして「常に専門性を持って仕事をしなさい。」と。

保育園の給食室では、乳幼児の発育や発達を理解し、その子に合った食事を考える力が求められます。

離乳食の形状を、その子の食べる力に合わせて調整すること。

成長や発達に合わせて、食材の大きさやかたさを考えること。

食物アレルギーや衛生上の危険を予測すること。

今、何を優先すべきかを判断し、その判断に責任を持つこと。

栄養士として学んだ知識を、目の前の子どもや現場に合わせて生かすこと。

それが、保育園の給食室で求められる専門性だと思っています。

保育園の給食室では、ただ料理を作っているのではありません。

乳幼児の発育や発達を考え、献立を作る。

離乳食の形状を調整する。

食物アレルギーによる事故を防ぐ。

食材を発注し、衛生状態や加熱温度を確認する。

食育を行い、時には保護者からの相談にも応じる。

これほど高い専門性と責任を求められる仕事でありながら、現在、保育所には栄養士・管理栄養士を配置しなければならないという、全国一律の基準はありません。

国の基準で保育所に置かなければならない職員として定められているのは、保育士、嘱託医、調理員です。栄養士・管理栄養士は、そこに含まれていません。(厚生労働省⁠)

専門的な知識は求める。

安全への責任も求める。

けれど、その専門職は必ずしも配置しなくてもよい。

この制度は、本当に今の保育園給食の実態に合っているのでしょうか。

栄養士がいなくてもよいとされていることで、保育園給食そのものが、

「誰にでもできる仕事」

として扱われてはいないでしょうか。

けれど、誰にでも同じ責任を負わせられる仕事ではありません。

子どもの命と育ちを支える給食室に、専門職は本当に「いなくてもよい」のでしょうか。

私は、保育所の給食室にも、栄養士または管理栄養士を必要な専門職として位置づけてほしいと思っています。

これだけ専門性の高い仕事をしているのに、必置義務がない。

まず、このことを、もっと多くの人に知ってほしいのです。

給食は、当たり前にできているわけではありません

毎日、当たり前のように出てくる給食。

でも、その一食は、決して当たり前にできあがっているわけではありません。

給食室にも、人手不足があります。

休めない日があります。

時間に追われながら、子どもたちの命を守っている人たちがいます。

子どもたちの笑顔が好きだから。

給食を食べてもらえることがうれしいから。

その思いだけで、人手不足も、休めない働き方も、すべて我慢してよいわけではありません。

今、給食室で一人、責任を背負っている若い栄養士さんにも届いてほしいと思っています。

伝え方を振り返ることは必要です。

でも、あなた一人が悪いと、すべてを背負わないでください。

人が足りていたでしょうか。

支えてくれる人はいたでしょうか。

育ててもらえる環境だったでしょうか。

どうか、あなた自身や、栄養士という仕事まで否定しないでほしいと思います。

保育園の栄養士は、大変な仕事です。

でも、子どもの成長を、毎日の食事を通して見守ることができます。

昨日食べなかったものを、今日は一口食べてくれる。

自分が考えた献立が、子どもたちの経験になっていく。

給食室から、子どもの育ちを支えることができる。

本当は、とても楽しく、やりがいのある仕事です。

だからこそ、働く人が潰れてしまう場所にしたくありません。

もっと給食室の仕事を知ってほしい。

専門性を正しく評価してほしい。

そして、

「保育園の栄養士って楽しそう」

「私もやってみたい」

そう思う人が、もっと増えてほしい。

それが、26年間、保育園の給食室で働いてきた私の願いです。

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