『白鳩』
ふと集中の糸が途切れたのを感じた。
目を窓の外を向けると白々と夜が明けようとしていた。
前のめりの姿勢で何時間も机に向かっていたせいで、背中が痛い。
グググっと背を伸ばし、緊張をほぐす。
首を右に傾ける。
ポキッ
次は左に。
ポキポキッ
体のバランスが元に戻ったのを感じて、椅子から立ち上がった。
窓から差し込む光は部屋の四隅を照らすにはまだ心許ない。
それでも卓上のランプの光をくたびれてみせる程には明るい。
その光を体に浴びることが良いことのような気がして、窓辺に近寄った。
窓を開けると、夜のうちに浄化された空気が流れ込む。その澄んだ空気を胸に吸い込もうと顔を上向けた時、目に何かが映る。
―――白鳩―――
鳥独特の表情のなさでこちらを見つめている。
徹夜明けの変な高揚感に押され、声をかける。
「やぁ、いい朝だね!」
「あなたならできる」
鳩が人間の言葉を喋っている。
驚愕を持って見つめる。
白鳩は見つめ返す。
「君は人間の言葉が喋れるんだね?すごいや!」
「あなたならできる」
色んな言葉を知っているわけではなく、喋れるのは一つの単語のみらしい。
しかし良い言葉だ。
「君は、僕には才能があると思うかい?」
「あなたならできる」
胸の中に得も言われぬ感情が浮かび上がる。
「あともう少しで完成なんだ」
「あなたならできる」
両親の顔が浮かんだ。
真っ当な仕事につけと、眉を顰める二つの顔が。
「これは僕の自信作なんだ。」
「あなたならできる」
友人の顔が浮かぶ。
よく分からないなと呟いた、困惑気味の顔が。
「コンテストに応募するんだ」
「あなたならできる」
師匠の顔が浮かんだ。
ここに君の個性は表れていると思うかい?と問うた、厳しい(いかめしい)顔が。
「きっとこれなら賞も狙える。そう思わないかい?」
「あなたならできる」
同年でありながら、すでに世に出、人気を集めているあいつの顔が浮かんだ。
こちらの存在に気づきもせず通り過ぎ、後ろにいる誰かに微笑んだ顔が。
ーーーそう、自分には才能がある。
この作品を世に出しさえすれば、世界は俺を認め称賛するだろう。
「あなたならできる」
白鳩が言う、その言葉を聞くたびに胸の中に湧き上がる自信。
顎が上がり口元が緩む。
目線は遥か遠く。
その目に白鳩はもう映っていなかった。
