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Vulfpeck フジロック'25 ライブレポート

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、67回目の連載となる。

(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました)



ついに、この日がやってきた。

何度、想像したことだろう。

日本でVulfpeck(ヴォルフペック)が演奏する、その時を。


フジロック。

初来日。ヘッドライナー。

観客はVulfpeck初となる、40000人規模。


舞台は整った。これ以上ないくらい、整った。

ここまで条件が揃って――何も起こらないがわけ、ない。


そして実際に――

Vulfpeckのステージは、奇跡のようなライブとなった。


このライブレポートは、当日のライブの詳細と、

またそこに至るまでの背景も、同時に解説する記事となる。

あの日、はじめてVulfpeckを知った、という方も、ぜひ最後まで読んで、バンドについて知っていただけたら光栄だ。


それでは、始めよう!



その瞬間まで

フジロック'25にVulfpeckが出演することが発表されたのは、2025年2月21日のことだった。

Vulfpeckは2011年、ミシガン州アナーバーで結成されたファンクバンドである。彼らは長年、インターネット上で日本に対してのアピールを行ってきた。MVに日本語の字幕を入れたり、Twitterの時代から日本語でツイートしたり……。だがそのアピールに対して、実際には日本でのライブが行われることはなかった。ライブはアメリカやヨーロッパに限られ、日本のファンは長年、来日を辛抱強く待ち続けていた。

また一方でリーダーのJack Strattonも、簡単に日本でのライブを行おうとはしなかった。Jackの忍耐強さ、辛抱強さは、彼の美徳のひとつである。やるなら我慢して我慢して、1回目から最高な形で――ということだったのだろう。これはメンバーのCory Wongの発言からも伺える。

ずっと前から日本に来たいとは思ってたんだ。過去にも何度かオファーはあったと思うんだけど、最初の来日を本当に特別なものにしたくて、インパクトのある形で実現したかった。

出典:Cory Wong 来日インタビュー(Dr.ファンクシッテルー)


そんな流れが大きく変わったのが2023年。Coryがフジロックに出演したタイミングだ。

彼はフジロックに出演すると、そのフェスのクオリティにいたく感動し、バンドに出演依頼があったら必ず受けるように、と伝えた。

(筆者注:Cory Wongのインタビュー)フジロックは間違いなくベストな場所だ。僕が今までに出演したフェスの中でも特にお気に入りだからね。ヴルフペックは出演するショウにかなりこだわっていて、今年はレッドロックス、マディソン・スクエア・ガーデン、そしてフジロックと、たった3回のステージしかやらないんだ。バンド・メンバーとのミーティングがあった時、ぼくはこう言った。"フジロックは地球上で最もクールな場所の1つだ。もしオファーがきたら絶対に出ないといけない"ってね。そうしたら実際にオファーがきたんだ。あのロケーションは本当に美しい。自然に囲まれたスキー・リゾートで、巨大なフェスだけど、その中にふっと入りこめるような静かな場所もあって親密な雰囲気が感じられる。まるで自然とつながっているような感覚になれたよ。小規模なフェスと大規模なフェス、それぞれの良いところが1つにまとまっているのがフジロックなんだ。

――オファーがきた時、メンバーはどんな反応でしたか?

全員すぐにノッてきたよ(笑)。説得なんてほとんど要らなかった。みんな"イェー!100%行くよ。レッツゴー!"って感じだった。

出典:ギターマガジン2025年7月号

そして実際にフジロックからのオファーがあり、Vulfpeckはヘッドライナー(その日最大のステージの、最終出演バンド)に決まった――が、実はそのオファーにも、裏ではさまざまな紆余曲折があった。

今年、狙っていたのは実はイギリスのシンガー・ソングライターのCharli xcx(チャーリーxcx)。だが、佐潟氏によれば「金銭的にこれ以上は出せないとなりました。そういうケースは多いですね」という。(中略)

「円安のことを考えると、海外の有名アーティストを何でもかんでもブッキングするわけにはいかないということが分かりました。その代わり、ヘッドライナーにある程度リーズナブルなアーティストを選ぶと、ほかのラインアップもバランスが取れる。ある意味で工夫のしどころがあります」

そんな中で浮上したのがヴルフペックだった。(中略)

フジ側も以前からヴルフペックには注目していたという。だが、好機がなかなか訪れない。「(比較的小さなステージの)『フィールド・オブ・ヘブン』とかに出したいと思っていたんですが、それではステージの予算をオーバーしてしまう」

流れが変わったのが、ヴルフペックにも参加するギタリストのコリー・ウォンの存在だ。切れ味のある鮮やかなカッティングギターで人気の彼は、2023年にフジロックに出演。翌年にはソロの日本ツアーも果たした。その彼のステージに若いファンが詰めかける光景を見た佐潟氏は「グリーンのヘッドライナーもいけるかもと思ったんです」と語る。

出典:フジロックの〝顔〟をどう選んだのか? 円安で難航も「工夫のしどころ」

当初は5000人規模のステージ、フィールド・オブ・ヘブンが候補にあがっていたVulfpeck。だが、円安で大物のオファーが難しくなったフジロックは、より低予算でグリーンステージ(フジロック最大となる40000人規模のステージ)に、しかもヘッドライナーとしてVulfpeckを考えた。

CoryがJackにフジロックを勧めたタイミングと、フジロック側がヘッドライナーとしてオファーを出したタイミングが、まさに重なったというわけである。

これこそが、Jackが忍耐強く待っていた瞬間だったろう。そして彼らはオファーにOKを出し、Jackは彼のXでこうポストした。

画像出典:Vulfpeck 公式X

こうしてVulfpeckは、知名度・予算面で格上となるアーティストを抑えて、フジロックのヘッドライナーを射止めたわけである。初来日、初のフジロックで、ヘッドライナー。しかも自ら「世界一コスパのいいヘッドライナー」と自称する――痛快。これ以上ないインパクトだ。

チケットは売れ行きもよく、Vulfpeckが出演する7月26日はチケット完売。Vulfpeckの、そして同日に出演する、山下達郎の人気を示していたと言えるだろう。

そしてJackは、フジロックが近づくと、Xを巧みに使ってファンを、そしてフジロックの観客を煽り始めた。

画像出典:Vulfpeck 公式X
画像出典:Vulfpeck 公式X

Jackは日本語は喋れないが、何らかの手段で英語を日本語に翻訳し、しかも彼独自のユーモアで日本のファンを楽しませていた。Xは多いに盛り上がり、フジロックのラインナップで初めて彼らを知った人たちも、その独特なワードセンスを面白がっていた。

そしていきなりだが――ここで私の友人が登場する。

@ShoheiMszw氏が、私を含む友人数名分、Vulfpeckのオリジナルデザイン法被を作ってフジロックで着ないかと提案してくれた。皆がOKしたので、彼は全体のデザインと発注を担当し、Vulfpeck・日本・フジロック、この3つをミニマルに組み合わせた象徴的なビジュアルを作成した。

法被の前衿部分には、Jackのポストから特に印象的だったワード「最安無双」「抹茶ヴァイブス」を入れることも皆で相談し、採用となった。

@ShoheiMszw:敢えて変な日本語にするというのもvulfっぽいような気がして、両襟をフジロック2025じゃなくて最安無双と抹茶ヴァイブスに書き換えるのも全然アリです笑

出典:@ShoheiMszw氏を含む我々のグループLINE

ここで話は盛り上がり、来日の記念品として、誰かメンバーにこの法被を贈れないか? という話になった。私はこの時点で、ベーシストのJoe Dartのインタビューの予定があったので、せっかくの機会に――ということで、確実に会うことが決まっている、Joeの分だけを追加で1枚作ることにした。

サイズはいくつかから選べるのだが、Joeの分は我々のサイズよりもひとつ大きなサイズにした。我々より体格がいいし、法被はゆったり着てもらったほうがいいだろう。こうして、世界に数枚だけ、Vulfpeckのオリジナル法被が完成した。

そしてJoeが来日した7月24日。私はJoeにインタビューで会い――無事に法被をプレゼントすることができた。Joeはとても喜んでくれた。

この日、インタビューの緊張もあり、なんと法被を家に忘れて出発しまうというハプニングもあったが、途中の駅で気づいて取りに帰り(合計で1時間ほどのロスだった)、法被は無事にJoeの手に渡ったのである。

サイズもゆったりめで着てもらえて、よかった、このサイズにして……と安堵する。

「もしよかったらフジロックのステージで着て?」とは、言えなかった。言うと逆に、着てもらえないような気がしたからだ。言わなかったが、心のなかでは、Joeにステージでそれを着てほしい、という期待もあった。

そして帰宅し、大急ぎでインタビューを執筆。翌25日には公開となった。

そして迎えた運命の日、2025年7月26日。

フジロック会場の苗場は、まさかの大雨に見舞われることになった。私が知っている限り、近年でここまで強く雨が降ったことはない。グリーンステージでその時を待っているひとたちにとっても、試練の時間だったろう。

だが幸いにも、19時に山下達郎がグリーンステージに立つまでに雨は上がり、少し涼しく、むしろ神々しい雰囲気を苗場の空気に忍ばせていた。

山下達郎の出演時間は、会場のほぼすべての人がグリーンステージにいたのではないか――それくらい混みあっていた。

山下達郎のステージは、非常にファンキーだった。彼が次に出演する「世界最高峰のファンクバンド」と呼ばれるVulfpeckを意識していたのかは分からないが、Sparkle、Silent Scremer、Bomberなど、往年のファンキーな曲でカッティングを繰り返す姿は、とても若々しく見えた。

達郎のステージが終わるまで、前方のモッシュピットに入ることはできなかったが、ステージが終わると入れ替えがあり、なんとか前方15列目くらいに入り込むことができた。

Vulfpeck法被を着た友人たちとも合流し、私も法被を着て、我々はその時を待った。

何年待ち続けたか分からない、その瞬間を。

あと30分。あと20分。あと10分――。

あと5分で、始まる。

このとき、誰かが言った。「今日が最終回だ」と。

たしかに、そうかもしれない。

そして、時計は運命の刻――21時10分を迎えた。


21時10分

写真:サム(@WoweeYouth) さん

初来日という状態で果たしてどれだけ人が集まるか? という不安はあったが、蓋を開けてみたらグリーンステージは40000人の観客がすっかり集まり、「どこにこんなにファンがいたんだ?」とXで言われるほど、会場はファンの熱気で満たされていた。

そして21時10分。

BGMが消え、大歓声が上がり、彼らがステージに現れた。

Theo Katzman、Cory Wong、Joey Dosik、Woody Goss、Joe Dart。

大歓声に応え、笑顔で楽器を手にする彼ら。

Jackは?

Jackはどこだ?

そう思ったとき――Theoが、あのドラムを叩き出した。


Animal Spirits

Animal Spiritsだ!MVに日本語字幕を入れたこの曲は、長年日本で愛されてきた曲である。1曲目にはとてもふさわしい曲だ。

そのドラムを背にして、Jackが、いつもの面白いヨタヨタ歩きで現れた。

――法被を着ている!!!

この瞬間に、涙腺が崩壊した。

もちろん、Jackに法被を着てほしいなんて、一度も言っていない。メンバーにはJoeにしか渡していない。

その法被を、Jackが着て、グリーンステージに立っている。

40000人の前で。

何が起こっているんだ!?

こんなことがありえるのだろうか!?

この時点で、私は号泣しながら人としての姿かたちを失い、法被を着た友人と抱き合った。あの瞬間はまさに、人生を何周もしないと体感できないような、とても大きな感動があった。

サイズも、あつらえたようにJackにぴったりだった。――このために全てが運命づけられていたのだろうか?

いや、そうではない。すべての偶然が重なり、この奇跡が起こったのだ。何も決まっていなかった。Jackが法被を着てくれたのも、アドリブのひとつ。その場で面白い、新しい何かを皆に体験してもらおうという、Vulfpeckの「ゴール」のひとつだろう。

――Coryは、自分のバンドの「ゴール」はタイトさや精密さにある、と話してくれました。そしてあなたはVulfpeckについて、即興性や自由さが特徴だと語ってくれました。では、Vulfpeckのライブの「ゴール」は何かと聞かれたら、どのように表現されますか?

そうだね……僕にとってはだけど、Vulfpeckのゴールは「みんなにその場で起こる特別な体験をしてもらう」ということなんだと思う。つまり、観客はバンドと同じ体験をしているような感覚になると思うんだ。即興的で、次に何が起こるか分からない。そのスリルの中に一緒にいて、同じエネルギーの波に乗っているような感じだ。

Vulfpeckはステージ上でけっこうリスクを取ることが多くて、たとえばバンド全員がステージを降りて、僕だけがベースで即興を始めることがある。僕自身もその瞬間、何を弾くか分からない。あるいはウッディが、完全にその場の即興で曲を締めくくることもある。レッドロックスで初めてJackがスーザフォンを演奏したのもそうだった。そうやって何が面白いだろう、と考えながら、どんどん新しい要素を加えることで、バンドと観客が同じ、即興的なエネルギーの中にいるような感覚が生まれる。

それがVulfpeckのライブのゴールなんだと思う――つまりバンドと観客で一緒に作る、「即興性のある新しい体験」なんだ。

出典:Joe Dartインタビュー(Dr.ファンクシッテルー

バンドと観客で一緒に作る、「即興性のある新しい体験」、これがまさにこの法被着用に現れていたように思う。Joeがインタビューでこの発言をした段階(ライブの2日前)では、もちろんJackは法被の存在を知らない。だが振り返ってこの発言を考えると、これは完全にJackが法被を着ることを予見していたかのような発言である。

Joeがバンドのことを、そしてJackのことを深く理解した発言をして、そしてJackがアドリブで「みんなにその場で起こる特別な体験をしてもらう」ということを体現したのだろう。あれも、Jackの精神性が現れた彼らしい、そしてVulfpeckらしいパフォーマンスだったのだ。


話を演奏に戻そう――もちろん、演奏は完璧だ! Theoのドラムと歌声は1曲目から絶好調。Joeのベースも跳ね回り、超常的なグルーヴで踊らせに来る。ハッピーな空気が、一気に苗場を包んだ。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

サックスのJoeyも1曲目から全力だ。ソロパートでフラジオ(高音域のプレイ)を出し、観客を盛り上げる。

長年、MSGライブ(2019年のマディソン・スクエア・ガーデンでのライブ盤。Vulfpeckの大人気アルバム)で聴いてきた演奏が、いま、目の前で繰り広げられていた。あの時と何も変わらない――いや、あの時よりさらに進化した演奏かもしれない。バンドも成長しているのだ。もしくは、フジロックの魔法、ミラクルだろうか。

大歓声のなか、1曲目が終わった。

そして間髪入れず、Jackがギターに向かう。その曲は1つしかない。


Cory Wong

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

ギターのCory Wongが、カッティングをスタートさせる。「Cory Wong」だ。

面白いことに本人と同じ名前が付けられているこの曲は、ライブではJackがギターを弾くほぼ唯一の曲となっている。(ちなみにJackはTheoのギターを使用)

2023年にCoryがフジロックのフィールド・オブ・ヘブンのステージに出演した時に、この曲がついに聴けてとても感動した――だが、あの時はCoryのバンドだった。今、ついに、Jackのギターで、Joeのベースで、Theoのドラムでこの曲を聴けるのだ。

この曲は途中、2度ほどブレイクでJoeだけになりベースを弾くを瞬間がある。1度目は定番のフレーズだったが、2度目のフレーズとグルーヴが、完璧を超えた完璧な演奏だった。👇

写真:同上

ありえないほどに正確なタッチ、超人的なグルーヴ、魅力的なフレーズ。ここまで粒立ちのよいペンタトニック(シンプルな音階)で盛り上げることができるベーシストは、世界中探しても、もはや他に存在しないのではないか。

Joeも弾き終わった瞬間にジャンプし、Jackが「Joe Dart!」と喝采する。

定番となるCory、Jack、Joeによる3人のステップも披露してくれた。もちろん、この瞬間も非常に盛り上がる。

写真:同上
写真:同上

それにしても、日の丸を背負ってギターを弾くJackは最高だ。Jackは日の丸にはずっとこだわりがあり、自宅にもそれを模した絵を何枚も描いている。それがもしかしたら、法被のデザインとしても彼に響いたのかもしれない。

写真:同上


Daddy, He Got a Tesla

次は「Tesla」(Daddy, He Got a Tesla)だ。ここまで、Animal Spirits、Cory Wong、Teslaという流れが、MSGライブの最初の曲順に酷似している。セルフオマージュだ。

特にこの曲は最近あまり演奏されていなかったため、バンドの選曲における「日本で待っているファンのため」だという意図を強く感じた。

そして、今回日本で演奏するにあたってのチャレンジは、これが日本で初めてのライブだということだ。アメリカでやる場合は、「この曲はもう何度も演奏してるし、みんな知ってるから、今回は省いて新しい曲を入れよう」っていう判断ができる。でも日本では誰もライブを観たことがないから、新曲を披露したい気持ちと同時に、昔からのファンだった人が、6~7年前の曲を楽しみにしてくれている、という想いも大切にしたい。

出典:Joe Dartインタビュー(Dr.ファンクシッテルー)
写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

この曲はJoeとCoryが近づいて向かい合わせになり、2人のだけの演奏からスタートした。

このアクションが、彼らが大好きなRed Hot Chili Peppersを彷彿とさせる。

画像出典:Red Hot Chili Peppers - Eddie & Under the Bridge (live at Pinkpop 2023)

私のインタビューでも何度もRed Hot Chili Peppersの名前を出している彼ららしいパフォーマンスだ。ベースキッズ、ギターキッズとしての彼らの側面を感じさせてくれて嬉しくなってしまう。

写真:同上

そしてこの瞬間、はじめてJackがドラムに座った。

そこから繰り出されるグルーヴたるや!!!

私は驚愕した――法被を着たJackにも驚いたが、ある意味、それ以上の驚きがそこにあった。

「タイト」なんて言葉では表現しきれない、まさにライブ中に何度も日本語でJackが叫んでいた「ポケット ダケ(Pocket Only)」のとおり。ありえないほど完璧にグルーヴのポケット(正確なタイミング)にハマリこんでいる。機械のように正確で、そして絶対に機械には演奏できない、人間が到達できるひとつの限界のような、深い深いファンク・グルーヴだった。

何年も何年も、何百回も何千回も彼のドラムをインターネットを通して聴いてきたのに、本物のサウンドとグルーヴは、ここまで違って聴こえるのか――これはライブで聴かないと体験できない。ここに、目の前にいるから、このグルーヴを、ようやく体験できたのだ。

写真:同上

Joeyのサックスソロでも、なんと彼は膝立ちになり、フラジオを吹いた。彼がこんなに熱いパフォーマンスをするところを観たことがあっただろうか!?

この日はやはり、Vulfpeckの初となる来日、フジロックのヘッドライナー、チケット完売、そして過去最大規模の観客ということで、彼らも気合の入り方が違ったのだと思われる。

そこからこのライブ唯一となる、Jackのドラムソロへ。

写真:同上

もともと、Jackがドラムソロを行うチャンスは非常に少ない。ライブによっては聴けないことも多々ある。それが今回、初来日で聴けたのだ。なんということだろう。

そしてその――ドラムソロがまた、非常に素晴らしかった。

彼のドラムソロは手数が非常に少ない。これは彼のミニマリズムの現れだと思われるが、その少ない手数の中で、すべての音が、完璧なタイミングで放たれている。

写真:同上

一般的なドラムソロとはまったく違う、「ミニマリズム&グルーヴ至上主義」という彼の性格が形となって表れた、短いながらも非常に印象に残るドラムソロだった。これを印象的にしていたのは、グリーンステージの音圧もあっただろう。配信とはまた違うサウンドだったはずだ。👇

そこからJoeのベースソロへ。

写真:同上

ここでもまた、ありえないほど完璧なグルーヴで、彼の特徴となるペンタトニックの連続によるソロを披露する。途中で彼の手癖となる有名なフレーズが飛び出したが、これも非常に印象的な瞬間だった。即座に苗場が大歓声に包まれる。

フジロックのヘッドライナーで、ドラムとベースだけになり、ベースのペンタトニックでここまで観客が喜ぶことが、過去何度あっただろう?

何の小手先のごまかしもない、シンプルに、純粋に研ぎ澄まされた肉体によるファンク。音楽の根源的な喜び、まさに音楽そのものが形となって、観客の魂を揺さぶった瞬間だった。

そして、MSGライブでも行われていた定番の「Daddy, He Got a Tesla」のコーラスへ。Joeyが「ウタッテ!」と叫ぶ。

写真:同上

TheoがJoeyと違うマイクへ行こうとしたが、Joeyが肩を引き寄せて、1本のマイクで歌う。そんな必要もないのに――だが、一緒に歌ったほうが、「楽しい」に決まっている。

肩を組む2人。これも非常に美しい光景だった。

写真:同上

そして苗場の観客は、このコーラスをしっかりと歌えていた。この日のためにMSGライブを聴いてきた観客が、おそらく何千、何万人もいた――ということだろう。

写真:同上

ブリッジ(曲の終わり、モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークのフレーズ)部分も観客が大合唱で、演奏は終わる。


Lonely Town

「次はドラマーのTheo Katzmanをフィーチャーしよう」JackがそうMCして始めたのは、Theo作曲のバラード。

Theoが前に出て歌い、彼が得意とするファルセットを苗場に響かせる。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

バラードでも、8ビートにならずにファンキーな16ビートで演奏するのがファンクバンドのVulfpeckらしいスタイルだ。他のメンバーは静かだが、Joeのベースはバウンスの(ハネた)16ビートで飛び回っている。これが実にVulfpeckである。

写真:同上
写真:同上

曲が進んでいくと、アーチを描くように、グルーヴが少しずつ盛り上がっていく。やはり、JackとJoeによるグルーヴは配信音源の何倍も素晴らしい。長年培ってきた信頼、絆がありありと感じられる。

写真:同上

キーボードのWoody Gossはほとんどこの曲では目立った演奏をしていないが、これがまたVulfpeckの引き算のサウンドだ。

たとえばWoodyと一緒に演奏すると、彼が無駄のない演奏をしているのがよく分かる。必要最低限で、それ以上でも、以下でもない――ミニマルで、的確なんだ。他にも、JackとTheoがドラムのパートについて話しているのを見ると、すでにお互いの考えが一致していて、ほとんど説明なんていらない。まるでみんなが、テレパシーで通じ合ってるような感覚があるんだ。

出典:Joe Dartインタビュー(Dr.ファンクシッテルー)

歌のラストでは、Theoは音源よりもハイトーンになるアドリブを効かせて、曲は美しく終わっていった。


Tender Defender

Jack「次もTheo Katzmanの曲――ニューアルバムから。Clarity of Calから演奏しよう」

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

『Clarity of Cal』のレコーディング時にはなかったイントロのアドリブで、Theoがピアノを弾いて歌い、曲をスタートさせる。

この時点で、Theoはドラム、ヴォーカル、ギター、ピアノと楽器を交代している。そのマルチプレイヤーさは、苗場の新しい観客に驚きを提供していた。

写真:同上

この曲もTheo作曲。数年前から温めていた曲だったそうだが、2025年のニューアルバムでようやくお披露目となった。

バンドとしても2024年のレコーディング以来、今年まだライブでは2度目となる演奏。新曲の演奏はメンバーにとっても新しい体験で、新鮮さをもって楽しく演奏できているという。

フジロックは、昨年『Clarity of Cal』のレコーディング・コンサートをやって以来、まだ2回目のライブなんだ。だから僕たちにとっては、この新しい曲を演奏すること自体が、まだすごく新鮮で、ワクワクする体験だ。

たとえば、Theoが「Tender Defender」を歌うのを聴いたり、Jack、Woody、Theoと一緒に「New Beastly」でベースソロを弾いたり……すべてがまだ新しくて刺激的なんだ。

出典:Joe Dartインタビュー(Dr.ファンクシッテルー)

この曲も16ビートのバラードだが、先ほどの「Lonely Town」とはまったく異なるグルーヴ。JackとJoeのコンビは、この曲においても鉄壁の、タイトな演奏を繰り広げる。

写真:同上

信じられないくらいにタイトなドラムは、(おそらく)Jackのこだわりでバスドラのフロントヘッドが外されていることも一因だろう。

足で踏んで叩いている、バスドラムの正面側が外されており、中に布団のようなミュートで消音されているのが分かると思うが、これによって音の反響、残響がなくなり、デッドで、タイトなキック(バスドラム音)になっている。

これも通常ではありえないやり方で、特にフジロックのヘッドライナーで、これを実行したドラマーが過去にいただろうか。

写真:同上

後半、美しいTheoのロングのハイトーンで、曲はハイライトを迎える。まるで苗場の時が止まったかのような、感動的な瞬間。そのまま、Joeyのサックスフレーズで、曲はエンディングを迎えた。

写真:同上


1612

そして、先ほどの曲でコーラスを歌うために既にステージに出てきていた、Antwaun Stanleyが叫ぶ。「フジロック!準備はいいか!?」

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

Antwaunの歌声は、若い頃からゴスペルで鍛え上げた、本物のソウル/ファンクヴォーカルだ。彼が少し歌うだけで、一気に脳裏にスティーヴィー・ワンダーや、アレサ・フランクリンなどが思い浮かぶ。

苗場に初めて彼の歌が響き渡り、空気を揺らし――それだけで観衆は大興奮となった。

写真:同上

この曲は前半のブレイクで観客が「Frank Sinatra!」と叫ぶシーンがあるが、そこもしっかりと観客は予習してきており、苗場に大合唱が響き渡った。正直、これほどまでに多くの人数がこのレスポンスを知っているとは思わなかったので、非常に驚いた。

写真:同上

Woodyのシンプルなフレーズのエレピも、まさにミニマルで最低限。そしてこの曲はTheoがドラムを叩いている。

写真:同上

TheoのドラムはJackと似ていると評されることが多く、私もいくぶんはそういう面があると思っていたが、実際に目の前で聴くと、TheoとJackのグルーヴはまったく異なるものだった。

Jackのドラムが下半身に重きを置いているとすれば、Theoのドラムは上半身。Jackより少し軽めのグルーヴで、だがドライヴ感にすぐれ、どちらかというと彼のソロプロジェクトでもある、ロックのテイストがしっかりと感じられる。

これがまた、Red Hot Chili Peppersなどのファンク/ロックを愛しているJoe、Coryとの相性が非常に良く、抜群のコンビネーションとなっていた。

写真:同上

ステージを走り回り、シャウトするAntwaunを筆頭に、たいへんな熱量をもって曲は終了する。


3 on E

Antwaun「3回ベースを弾く曲が思い浮かんでるんだけど、何だっけ?弾いて思い出させてくれよ!」

というMCから始まったこの曲。本来は「3 on E」という曲なのだが、Joeが次々と似ている有名曲を弾き、Antwaunが「違うよ!」という寸劇でスタートする。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

サビの「3 on E!」というフレーズも、苗場の観客はよくシンガロングできていた。

写真:同上

この曲も、JackとJoeの骨太なグルーヴがポケットにヒットしまくっている。往年の70年代のグルーヴ、この曲がオマージュしている時代そのものだ。

これを2025年に生演奏で、グリーンステージのヘッドライナーとして聴けるということが、まずもってありえない。まさにKool & the GangやChicのサウンドとグルーヴ。

写真:同上
写真:同上

Joeyもソロを取り、Antwaunもステージ上を跳ね回り、大歓声でファンキーに曲を締める。「That's funky!」「Yeah!」


21時40分

Wait for the Moment

Antwaun「フジロック! Vulfpeckが日本に来たよ!」

次に演奏されるのは、Antwaunが初めてバンドに参加したバラード曲。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

Joeがドラムの前に座り、少しリラックスして弾き始める。これは後ほどの伏線になるため、Joeはあえて座っているのだ。

写真:同上

もちろん、座ってもそのグルーヴはまったく衰えることがない。Theoと抜群のコンビネーションだ。

Jackはキーボードへ。Sly & Family Stoneの「If You Want Me to Stay」をオマージュした、ミニマルなコード進行を、初めてバンドでレコーディングした12年前と変わらず弾いている。

写真:同上
写真:同上

Antwaunがしばらく歌うと、「友人を紹介したい。Joe Dart!」と叫ぶ。

ここで紹介されて立ち上がり、Joeがソロを弾く。

ここのアドリブソロも、短いながら素晴らしい。この曲はミニマルに8
小節を繰り返すだけのコードなので、ヴォーカル曲だが途中にアドリブパートを差し込んで飽きさせない展開を作っているのだ。

ヴォーカルに帰ってきた後は、Woodyのオルガンソロ。

写真:同上

ここではバロック音楽や、Jackが大好きなバッハを思わせるクラシカルなソロに。ソロというより伴奏に近いプレイなのだが、これもまたVulfpeckらしい。

そこにアカペラのようにアドリブを絡めていく、AntwaunとTheo。Theoはドラム椅子からわざわざステージ前のマイクまで出てきて歌う。

写真:同上

2人で観客を多いに盛り上げ、Theoはドラムへ急いで戻る。なんとステージ前のマイクから、わずか4拍でタムを叩く早業だ。

写真:同上

Antwaun「フジロック、 君たちは最高だ!」

Antwaunのそんな叫びで、この曲は締めくくられた。


Tokyo Night

Jack「次は新曲をプレイしたい――スペシャル・ゲストだ。Maya Delilah!」

そう呼ばれてステージに登場したのは、なんと前日のフィールド・オブ・ヘブンに出演していた、Maya Delilah(マヤ・デライラ)だった。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

同時に、ステージにJacob Jeffriesが登場。MayaとJacobは友達で、前日にJacobが彼女に出演のオファーをしたとのことである。MayaはもともとVulfpeckの「Back Pocket」のカヴァー動画を製作したこともあり、この共演について「夢が叶った」と投稿している。

写真:同上

この曲はJacob(写真左)と、Evangelineという女性シンガーが歌う曲。Evangelineはフジロック期間中別のフェスに出演していたため、今回はこの曲が見送られるか? という予想もあったが――やはり東京をテーマにしたこの曲、来日でやらなければもったいない。待ってました、とばかりに観客も声援を送る。

個人的には、この曲はMVの日本語字幕作成でも関わった経験があるため、実際に目の前で演奏されているのを聴くことができ、とても感動した。

写真:同上

この曲はVulfpeckではなく、Jackのソロプロジェクト、Vulfmon(ヴォルフモン)の曲。Vulfmonは現在、非常にミニマルな編成で演奏するプロジェクトとなっているため、Coryもギターを置いてドラムへ。Theoと2人でドラムを仲良く叩いていた。

写真:同上

後半では、Mayaのギターソロも。爽やかに曲が終わると、メンバーとハグしてMayaはステージを降りていった。


Big Dipper

ステージ前方に、ヴォーカルの4人が並ぶ。そうなれば、歌うのはこの曲だ。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

新譜『Clarity of Cal』の1曲目を飾るこの曲は、新しいVulfpeckを象徴するような曲だ。Jackのアイデアで4声のハーモニーを響かせるこの曲は、Vulfpeckのコーラスグループとしての力量も十分に示している。

ジャックが"今のヴルフペックには素晴らしいヴォーカリストが揃っているから、アースのようなグループ・ヴォーカルをやってみないか?"と言い出したんだ。アントワン・スタンレー(vo)はそれが得意だし、ジョーイとテオはとても正確なシンガーだからやってのけることができた。(筆者注:Joe Dartのインタビュー)

出典:ベースマガジン2025年5月号

ここで初めて4声のグループ・ヴォーカルになったことで、ライブは一気に雰囲気が変わる。ここまでも何度もメンバーの楽器が頻繁に交代したり、ゲストが入ったりと飽きさせない工夫があったが、ここでまたステージの印象が変わり、新しいバンドがやってきたような新鮮さがあった。

写真:同上

それにしても、洗練されたコーラスだ。配信音源でこちらも幾度となく聴いてきたが、本物を前にすると、その印象はまったく違う。ドラムやベースのグルーヴ同様に、コーラスも非常にクオリティが高く、美しい。

途中、中央に集まって肩を組むシーンもあった。これも彼らの仲の良さを表しているようなパフォーマンスである。もちろんアドリブであり、自然発生的に生まれた動きだろう。

写真:同上

『Clarity of Cal』から、Jacobが全面的にバンドに参加するようになった。彼はこの曲を含むすべてのヴォーカル曲で作詞作曲に関わっており、基本的にはJackがトラックを、Jacobがメロディと歌詞を担当するというやり方になっている。

ヴルフペックには作曲のやり方が複数ある。ジャックとテオでやるときもあれば、コリー・ウォン(g)がアイデアを出してジャックが仕上げることもある。でも最近効果的なのはジャックが音楽を、ジェイコブが歌詞とメロディを担当するやり方だ。ジェイコブは素晴らしい作詞家で、フックの作り手でもあるんだ。(筆者注:Joe Dartのインタビュー)

出典:ベースマガジン2025年5月号

この曲もサビのメロディが特に素晴らしく、皆で歌いやすいキャッチーなフレーズになっている。これこそがまさにJacobの真骨頂だ。

まだリリースされて半年も経っていない曲だが、苗場の観客たちもこの曲でしっかりとシンガロングする。改めて観客の熱量を感じた瞬間だった。

写真:同上


Matter of Time

次は「Big Dipper」の対となる曲、「Matter of Time」。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

ドラムに座っていたJackが法被を脱ぎ、ピアノへ移動すると、中に着ていたTシャツはいつものAlternative Apparelの赤いラガーシャツだった。この衣装はかつて彼の定番衣装だったが、昨年までは着なくなっていたため、今年から復活してくれて嬉しかったし――これの上にあの法被を着ていてくれていたのか、という喜びもあった。

こちらの作曲もJackがトラックを、Jacobがメロディや歌詞を担当し、新しいVulfpeckを象徴するような1曲。Jackが得意とするAORのテイストに、Jacobらしいソウル/ゴスペルの要素がミックスされた歌詞、キャッチーなメロディ。そしてMotownのJames Jamerson(伝説のベーシスト)のような、Joeのベースラインも最高だ。

AORにソウル/ゴスペル、James Jamersonと、60~80年代の音楽の素晴らしいサウンドが丁寧にミックスされている。

――「Matter of Time」で、固定のコード進行が決まっていながらも、単純なループにならないようにベース・ラインが自由に歌うようなプレイは、まるでジェームス・ジェマーソンのようでした。こういう自由なフレージングはどうやって生まれるのですか?

ジェマーソンを引き合いに出してくれるなんてグレイトだね。というのも、それって本番前にジャックが僕に言ってくれたことなんだ。僕が”シンプルにルートを弾き続けて、邪魔にならないようにしたほうがいいかな?”って尋ねたら、彼は”いや、攻めていくべきだ。ジェマーソンみたいに動き回り、自由にやってくれ”と言った。これって僕が好きなアプローチで、正しいスケールに収まり、タイム感が良ければ、ベースって本当に自由に動き回ることができるんだよ。誰とぶつかることもないし、邪魔にもならない。だから、この曲はジェマーソンにインスパイアされたアプローチだったんだ。(筆者注:Joe Dartのインタビュー)

出典:ベースマガジン2025年5月号
写真:同上

この曲も基本3声、サビは4声となる豪華なコーラスだ。苗場の夜に新しいVulfpeckサウンドが響き渡り、まさに「今の」Vulfpeckがやってきたんだ、という感慨深さがあった。

写真:同上

オルガンはWoody。今回、『Clarity of Cal』のレコーディングに参加していたCharles Jonesがオルガンで参加すると専らの予想だったが、予想に反しCharlesが帯同しなかったことで、この曲のオルガンはWoodyになった。

Charlesのゴスペル色の強いプレイとはまた違ったテイストだが、彼がこの曲で弾くオルガンというものが聴けてとても嬉しかった。次のアメリカのライブではまたCharlesが弾くだろう。このWoodyのオルガンは、今年、フジロックでしか聴くことができない、特別な演奏なのだ。

後半、ルバートになりAntwaunの伸びやかなハイトーンが響き渡る。この歌声も完全に60年代のゴスペル/ソウルを思わせた。2025年のフジロックのヘッドライナーでこれが聴けるということが、どれだけ稀有なことか。

写真:同上

ラストはJoeの発言どおり、ベースラインが縦横無尽に動き回る。まさにJackの「攻めていくべき」という発言を体現するかのごとく、ベースソロ級のフレーズの嵐でリズム隊を攻めたてていた。

そして曲が終わると、Jackがまたドラムに移動する。

写真:同上


In Real Life

Jack「続けて行こう。Clarity of Calからもう1曲」

次もニューアルバムから。70年代後半のEarth, Wind & Fire(以下EWFと表記)をオマージュしたディスコファンクだ。基本の作曲はJoey。そこにJackとJacobが追加で作曲に関わっている。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

JoeのプレイはEWFのベーシスト、Verdine Whiteのようだ。EWFのようにコーラスも多く(この曲は3声)、Theoのパーカッションも加わってEWFサウンドになっている。

写真:同上

私は個人的にこの曲がニューアルバムで一番好きなため(Jackにもそれを伝えた)、今回の来日でこれが聴けて非常に嬉しかった。

Steely Danや、MotownのFunk Brothersなどと同じく、EWFもVulfpeckの全員が好きな「共通言語」となっているため、CoryのカッティングやJackのドラムなど、全員の演奏に説得力がみなぎっている。

そしてもちろん、Antwaunの歌声も。

彼の歌もEWFの伝説のヴォーカル、Maurice Whiteのようだ。以前これも本人に伝えたら、とても喜んでもらえたことがある。

写真:同上

それにしても――このコーラスの完璧さ、グルーヴのタイトさと言ったら!

『Clarity of Cal』は上半身はEWF、下半身はVulfというミックス・サウンドのアルバムになっており、この曲は特にそれを生で強く感じることができた。

EWF was for sure our north star on this one. I'll probably say it 10 times in this AMA but EWF from the waist up Vulf from the waist down was the
direction

EWFは、このアルバムでは間違いなく私たちの北極星(筆者注:指針となる方向性)でした。このスレッドで10回は言うことになると思いますが、上半身はEWF、下半身はVulfという方向性でした。

出典:Hi I’m Noam Wallenberg. I mixed and mastered Vulfpeck - Clarity of Cal and Fearless Flyers IV. Ask me anything!

もちろん配信音源でもそれは理解できたが、こうやって実際に目の前で聴くと、いかに彼らがそれを意識して演奏しているか、ということがありありと伝わってくる。

また、この曲は歌詞が「自然賛歌」になっている。雨上がりの苗場の森の中というロケーションに対して、フレーズが実によく合っていた。

立ち上がろう 飛び出そう
L-O-E それがすべて
僕はかろうじて耐えていた
壁に飾られた絵のように

レドンドビーチ(筆者注:LAのビーチ)で裸足で
クジラを見ながら桃を食べる
ああ、シンプルな喜び
誰も反論できっこないさ

I-R-L リアル・ライフ
見ればすぐに分かるよ
I-R-L リアル・ライフ
そのエネルギーを感じよう
僕を魔法にかけて
最高のクオリティで
引っ掻いて、嗅いで、吸い込んで
I-R-L

Aメロ~サビ 出典:VULFPECK /// In Real Life

「In Real Life 見ればすぐに分かるよ」とはまさにこの事だ。いま初めてVulfpeckを知った観客も、この演奏を見ればすぐに、この素晴らしさが分かったであろう。

ラストは転調し、極上のディスコ・パートへ。あたかも苗場に巨大なミラーボールが出現していたかのようだった。

レコーディング時よりも長めのコール&レスポンスに入り、手拍子が続くなか、Coryのカッティングで曲は終わっていく。


Running Away

「次はJoey Dosikをフィーチャーしよう」

そうJackがMCをすると、Joeyがウーリッツァー(エレクトリックピアノ)に座った。そして弾かれる、B♭メジャー7。「Running Away」だ!

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

イントロを弾き語り、「ウタッテ!」と叫ぶJoey。

この曲は2017年にVulfpeckでのバージョン(feat. David T. Walker, James Gadson)がリリースされたが、元は2012年にYouTubeに投稿されたのが初出となる、Joeyの曲のなかでもかなり古い曲だ。70年代のMarvin Gayeなどのニューソウルをオマージュした、おしゃれなコードワークが光るバラードである。

最近のライブでは、Joeyの曲は2020年の「LAX」や2025年の「Can You Tell」などが演奏されることが多かったので、「Running Away」は久しぶりの選曲となる。これも、古くからのファンへのサービスだろう。

写真:同上

だが、昔よりさらにコーラスは厚くなっている。Antwaun、Theo、Jacobの3声だ。これは新しい、2025年のVulfpeckならではのサウンドである。

かつて、Joeyのソロ来日で、私はこの曲を聴いたことがある。だが、やはり今回、JackとJoe、Coryのリズム隊でこれが聴けるという喜びは格別だった。

写真:同上
写真:同上

Joeyもそのグルーヴに応え、メロディを力強く歌い上げる。この曲は何度も何度も繰り返し演奏されてきた曲でもあり、その長年の蓄積が、ヴォーカルとリズム隊に感じられる。まさにテレパシーで通じ合っているかのような、阿吽の呼吸のようなものがひしひしと伝わってきた。

曲が終わり、苗場の観客からも大歓声がJoeyに浴びせられる。ここまで多くの観客がこの曲で盛り上がることは、彼も想定していなかったのではないだろうか。


22時10分

This Is Not The Song I Wrote

Jack「次もJoey……"This Is Not The Song I Wrote"だ」

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

この曲もニューアルバムから。往年のAOR、特にThe Doobie BrothersやMichael McDonaldをオマージュした曲である。リードヴォーカルはJoeyだ。

ここでのJoeyの歌い方はMichael McDonaldを真似しており、またJackが作ったコード進行も、まさにAORそのもの。本来は作曲者であるJackがピアノを弾くのが通例であるが、今回はWoodyが代わりに弾いた。

Jackはといえば、ドラムのハイハットだけを16分音符で刻んでいる。TheoとJackはたまにコンビでドラムを叩くことがあり、これを(恒例となるDean Town以外で)観れたのも非常に嬉しかった。

写真:同上

Joeのベースはこの曲ではTheoのキックに合わせてシンプルなプレイに徹しているのだが、それでも目の前で聴くと、配信音源よりも数倍グルーヴが伸びやかに感じられて素晴らしい。

ベース音の入り、アタックはキックとこれ以上ないほどに同じタイミングだし、そこから音が切れるまでのタイム、伸びも実にグルーヴィーでファンキーだ。まさにこれがJoe Dart。

写真:同上

そしてJacobがカラフルな帽子を被ってサビを歌う。「エーオ♪」というキャッチーなサビのフックが、ニューアルバム『Clarity of Cal』のハイライトのひとつ。苗場でもしっかりと予習してきたファンが手を左右に振り、Jacobとシンガロングしていた。

写真:同上

そんなJacobを苦々しく見つめるJoey。この曲は、Joey演じる「往年の有名シンガーソングライター」と、Jacobが演じる「その有名シンガーソングライターの曲をサンプリングしてSNSでバズる若者」との対比で進んでいく構造となっている。JoeyはJacobに曲を勝手に使われたことを腹立たしく思っている、という場面なのだ。

Vulfpeckの曲はこの『Clarity of Cal』から、こうしたちょっとした演劇要素もステージに取り入れられるようになった。それも生で観ることができて、感激したのは言うまでもない。

そこからCoryのソロへ。

写真:同上

今回のライブ唯一となる、Coryのギターソロ。このソロもSteely DanなどのAORをオマージュしたロックなソロで、従来のVulfpeckにおけるCoryのファンキーなカッティング・プレイとは異なっている。曲に応じて多才な引き出しを持っている彼ならではの演奏だ。

Coryは現在Vulfpeckの音楽監督を担っているが、ライブでの彼の役割はかなり裏方寄りで、主役としてショーを盛り上げる彼自身のバンドでのプレイとはまったく違う。こうして一歩引いた職人としての彼が観れるのも、Vulfpeckのライブの特権だろう。

そのままJoeyの歌へ。レコーディング音源よりもかなり長いロングトーンを披露し、観客が大歓声でそれに応えた。

写真:同上

そのままラストのサビへ。最後は、JoeyとJacobの2人が和解して終わる、というストーリーである。2人は笑顔で歌い終わり、ハグをした。

写真:同上


How Much Do You Love Me?

Jack「次はJacob Jeffries」
Theo「Jacob Jeffriesを迎えよう!」
Jacob「アリガトゴザイマース!」

ステージからみんなが去っていく。残ったのはJacob、ピアノにJack、ドラムにTheoだ。「How Much Do You Love Me?」が始まる!

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

これはもともと2022年のVulfmonの曲。Jacobが初めてJackと共作・共演した曲で、2019年のMSG時代から、現在のVulfpeckへと進化するきっかけともなった曲だ。

Jacobのリードヴォーカルで進んでいくが、彼はファルセットでまるで女性のように歌い上げる。多くの人が配信音源で彼を女性だと勘違いしたというが、実際のライブで聴いてもその印象は変わらない。実に美しい声だ。

写真:同上

この曲は、NHKの人気音楽番組「おげんさんのサブスク堂」でも紹介された人気曲だ。60年代のソウルがオマージュされており、その歌詞・コード・リズムといった精度が素晴らしい。こんなオールドスクールな曲が、フジのヘッドライナーで聴けることもそうそうないだろう。特に歌詞は往年のソウルへの造詣が非常に深い。これはVulfpeckでは、Jacobにしか書けない歌詞だ。

アタシの友達はみんな、あんたを気に入ってるわ
でもアタシはまだ愛を疑ってるの
アタシたちの未来が見えるわ
きっとあんたは台所だけじゃなく、家中を掃除してくれる
でもあんたの思いやりを表現する方法は、それだけじゃないはず

紙にペンを置いて
真心をこめて
大ヒット曲を書いてよ
タイトルはアタシの名前でね!

アタシのことをどれくらい愛してるのか、歌で伝えなさいよ
歌に正しいも間違いもないんだから
メロディを作れば、コードも歌い出すわ
アタシのことをどれくらい愛してるのか、歌で伝えなさいよ

Bメロ~ブリッジ 出典:How Much Do You Love Me? | Vulfmon & Jacob Jeffries

Jacobのヴォーカルは力強く、時に面白おかしく、レトロな愛を歌いあげていく。そしてラストのサビになると、Joe、Cory、Joeyがステージに帰ってきた。ここで一気にボルテージが上がり、バンドインとなる。

写真:同上
写真:同上

爆発したエネルギーのまま、曲がエンディングを迎える。Jacobが「ドウモアリガトゴザイマース!」と叫んだ。Jackが「次はTheo Katzmanをフィーチャーしよう!」と言う。

そして、Vuflpeckの動画のイントロと同じ、D♭メジャー7のコードが弾かれる。あの曲が始まる。


Christmas in L.A.

Theoがドラムを叩きながらファルセットで歌い、MCをする。「今日という特別な日を祝いたい――♪ Christmas in L.A.で――♪」

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

そして、Theoのカウントで曲が始まった。この曲も最近のライブでは演奏されないこともあったので、日本での特別なライブ、古くからのファンのための選曲、ということだったのだろう。

写真:同上

この曲では、Theoのドライブ感のあるドラムとJoeの粘り強いベースが非常に強力なグルーヴを生み出していた。2014年のレコーディング時にまだCoryは参加していなかったが、現在ではカッティングでそのグルーヴをさらに補っている。

リードヴォーカルはTheo。1曲目のAnimal Spirits同様、ドラムを叩きながら歌うスタイルだ。これも実際にライブで体験すると、とても叩きながら歌っているとは思えない。ドラムもヴォーカルも圧倒的なクオリティだ。

写真:同上

特にTheoはあまりにライブ中に楽器の移動が激しく、ライブ後にはXでこういったポストが注目を集めていた。

コーラスのAntwaun、Joeyも寄り添って歌う。

写真:同上

そして後半、定番となるコール&レスポンスのパートへ。

写真:同上

ここではTheoがステージ前で観客を煽る。

「今日は特別な日だ! クリスマスはどこで?(観客がIn L.A.~♪と歌う) No, no, In L.A.じゃない! In フージー!

なんということだろう、今日だけの特別なコール&レスポンスだ! 例えまた次の来日があったとしても、フジロックでなければこのコール&レスポンスにはならない。まさにこれもJoeの語ったVulfpeckのゴール、「みんなにその場で起こる特別な体験をしてもらう」に繋がっている。

そしてTheoは、会場を3つに分け、3声のコーラスを歌うように促した。――なんとこれを、一瞬で皆が歌えている!

どれだけ多くの人がVulfpeckを、そしてこの曲を予習してきたのだろう。40000人の観客が、たとえ全員でなかったとしても、会場にその声を響かせる。圧倒的な光景だった。

そのままTheoのファルセットで会場がひとつになり、Theoはドラムへ走って戻る。曲へ帰ってラストのサビを歌うと、会場がまた「In フージー!」のコーラスを歌った。

MSGライブでもこの曲はライブのハイライトであったが、間違いなく、フジロックでもこの日一番の盛り上がりであっただろう。

曲が終わると、Jackが言う。「次はMr. Joe Dart!」


New Beastly

ニューアルバムから、Joeをフィーチャーする曲だ。通常ライブの後半に配置される曲だが、今回はかなり後ろのほうに演奏されることとなった。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

もともとバンド結成時に「Beastly」という曲が作曲され、それをセルフオマージュして2025年にリリースされたのがこの「New Beastly」である。

「Beastly」時代から、この曲はベースが主役となるインストで、ベースソロが大々的にフィーチャーされる演出であった。今回の「New Beastly」もそれは変わらないのだが、大きな変化がひとつ加わっている。それが、「カウベルおじさん」こと、Woody Gossの存在だ。

ここまでは静かにミニマルに鍵盤を弾いていたWoodyが、いきなりこの曲でコントを始めるのである。Joeの横に来て、カウベルを叩きそうで叩かない、叩けない。

タイミング良く叩こうとするが、バンドが一瞬ブレイクしたりして邪魔されて、Woodyは「ああもう!」とばかりに辺りをウロウロする。

この様子が実にコメディチックで、彼は一切喋っていないのに、カウベルひとつで40000人の観客は多いに沸き立った。Woodyはこのライブ後にXで「カウベルおじさん」と呼ばれ、大きくバズった。

もちろん、このコントの裏で演奏されている、Joe Dartのプレイはまったくコメディチックではない。世界トップクラスのグルーヴ、世界トップクラスのベースソロだ。

だがそれにまったく関係なく、そこに別世界からコントの要素をぶつけてくるのがVulfpeckであり、コメディを愛するJack Strattonのバンドである。

過去何十年も、基本的にインストのファンクバンドは構成をドラマチックにしたり、アドリブの中身を工夫したりすることで観客が飽きないように演奏してきた。しかしこのクオリティのグルーヴを出しながら、Vulfpeckはユーモアで飽きさせないように曲をアレンジしてしまうとは。

写真:同上

具体的なJoeのプレイについても言及しておきたい。まず、アドリブパートに関しては完全な即興で、事前に流れやフレーズが準備されていないことは過去のインタビューで明らかになっている。

オリジナルの「Beastly」と同様に、僕には何のプランもなかった。頭のなかにリフやパートも全く思い描いていなくて、完全に即興だったね。でも、プレイしているときはいつも、テーマを見つけようとしている。パターンやフックを探そうとするんだ。(筆者注:Joe Dartのインタビュー)

出典:ベースマガジン2025年5月号

今回のアドリブは、レコーディング時よりも繊細で、細かなアプローチが光る内容だったと思う。高音のシンプルなペンタトニックでスタートし、そのままハーモニクスでコード進行に合わせて半音ずつ下がっていくアプローチ。ここで会場が「Joe!Joe!」の大合唱になる。

その後、高速のパッセージからRed Hot Chili Peppersの「Around The World」のイントロを(キーは違ったが)オマージュしたフレーズを弾き、ここでも観客が多いに沸き立つ。 その後、この「Around The World」のフレーズをフックにして、それを展開させるように高音へ上り詰め、ソロを終えた。

ちなみにソロが終わった瞬間、Woodyがカウベルを全力で叩き、Joeへの声援を全て持っていったことも記録しておきたい。

カウベルを叩くWoodyに笑いかけるJoe
写真:同上

しかも、このベースソロが終わった瞬間のカウベルでWoodyはスティックを落としてしまい、ドラムのTheoからスティックをあわてて1本もらっていた。残りをTheoはスティック1本で叩くことに。さらにせっかくスティックをもらったのに、曲はすぐ終わり、結局Woodyはカウベルを叩けずに終わる。この一連の流れも笑いを誘っていた。


Back Pocket

Jack「ではもう1曲。Theo Katzmanの曲だ」

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

Theoが再びギターを持ち、マイクに向かう。2015年リリース、AppleのCMソングとして世界的に有名になった曲「Back Pocket」だ。

この曲も、観客たちはよく予習していたように思う。サビのパートも大合唱が起こっていた。

ライブも終盤だが、JackとJoeのドラムも、Theoのヴォーカルもまったく息切れしていない。むしろ脂がのって、さらに躍動的なグルーヴになっていると言ってもいいだろう。

そして、ドラムだけになり、Theoが観客に歌わせる。

写真:同上

ここでまた大合唱! 40000人の観客による「Back Pocket」は実に壮観だった。メンバーも実に嬉しそうに、観客席を見つめている。

Theoがヴォーカルに戻ってくると、また一段と高い声でシャウトした。ここまでライブを続けてきて、まだこんな歌えるとは! 会場もまた大歓声を送る。

そこからは、今回のライブ初となるTheoのギターソロだ。

写真:同上

Theoのソロは自身のプロジェクト同様にロックな内容で、さらに歌いながら同じメロディを弾くのが通例になっている。何度も映像で観てきたが、実際にその光景を目にして、やはり非常に感動することができた。

そのまま、音源でクラリネットが担当しているフレーズをWoodyが弾く。Woodyのオルガンは最初は本来のフレーズだったが、途中からアドリブを交えていた。これも特別感があって素晴らしい。

写真:同上

そこからJoeyのアドリブへ。転調も挟み、非常に多幸感溢れる雰囲気が苗場を包んでいく。

写真:同上

そして曲は終わり、メンバー達はステージを去っていった。


Dean Town

最初は拍手だった。手拍子だった。

だが――今日はVulfpeckなのだ。

まだ、あの曲が演奏されていない。

観客は歌い出した――Dean Townのイントロを!!!

過去に海外のライブで、アンコール前にDean Townを観客が先に歌ってバンドを待つというシーンがあったが――まさかそれがフジロックで起こるなんて!

40000人というグリーンステージでの大合唱。Vulfpeckにとっても、これまで聴いてきたDean Townの合唱の中でも最大級のものだったであろう。

バンドはすぐに戻ってきて、皆が観客に感謝を示す。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

Jackもふたたび、法被を着てくれている。その姿を見て、また泣きそうになってしまった。

本当に、あつらえたようにぴったりなサイズ。

Jackが両手を上げ、「そのまま歌って」というポーズを取る。観客は歌い続けた。Joeがベースを持つ。JackとTheoがドラムを叩く準備をする。

Theo「ツギハ――Dean Town」
Jack「2、3、4!」

そして、Dean Townが始まった。

写真:同上

Joeが弾いている!!!

この瞬間を、この光景を、どれだけ待ち望んだことだろう。Dean Town自体は、過去にもCoryのバンドで何回も聴いてきた。ただ、それはJoe Dartのベースによるものではなかった。

このフジロックで、この日本で、ついに本物の、Joe DartによるDean Townが聴けたのだ!

ふたたび感極まり、涙が止まらない。

この瞬間、非常に曲が遅く感じた。おそらく、アドレナリンが大量に分泌されていたのだろう。時間の感覚が鋭敏になり、テンポがゆっくりに感じられたのである。

写真:同上

そしてテーマに入った。もちろん、観客も全力のシンガロングで応える。ここまでみんなでずっと叫んで歌ってきたのだから、声なんて出ない。それでも、みんなで歌い続けた。

2回目のテーマからは、Coryも参戦する。

写真:同上

やはりこの、レッチリ式のベース&ギターの接近プレイは非常に画になる。カッコいい。

テーマが終わると、アドリブではなく恒例のグルーヴパートに突入した。

写真:同上

ここでも極上のカッティングで魅せるCory! 彼が自分のバンドでこのパートを弾くのを何度も観てきて、そしてついに、Vulfpeckの一員として弾いている姿を見ることができた。

Joeも本来であれば決まったラインを弾き続けるだけなのだが、ライブではソロにならない範囲のアドリブフレーズを織り交ぜるのが恒例となっている。この夜のアドリブフレーズがまた最高だった。

写真:同上

テーマのラインをうまく混ぜながら、ルートを繰り返すフレーズから巧みに外れていく。ベースマガジンのインタビューで語った、「タイム感が良ければ、ベースって本当に自由に動き回ることができるんだよ」という言葉を、まさに体現するプレイだった。

そのまま曲は後テーマへ。Woodyのところへ2人が集まる。一糸乱れることなく、全員で後テーマを弾ききって、曲が終わった。

写真:同上
写真:同上

BGMで「Welcome to Vulf Records」が流れる。

ライブが終わったのだ。

メンバーが前に出てくる。

AntWaunとJacobが、ステージ袖にいたMaya Delilahを呼んで、肩を組み――

写真提供:デカフェ(@fried_ym )さん
写真:同上
写真提供:TAG(@bttftag)さん

ジャンプ!!!

これで、ライブは終わりとなる。

メンバーは笑顔でステージ袖に消えていった。残されたのは「Vulf」のマークを刻み続けるステージと、40000人の観客である。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん


これで、ライブは終わり……

の、はずだった。


Funky Duck

一向に止まない歓声と拍手。BGMが消えても、観客の期待は収まらない。

すると、なんと再びメンバーが出てきた。なんということだろう!ダブルアンコールだ!!!

Vulfpeckとしても、そしてフジのヘッドライナーとしても、あまり例のない事のはずだ。

そしてすかさず始まる、「Funky Duck」!!!

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

そういえば、確かにこの曲はやっていなかった!

ライブ定番曲でもあり、MSGライブでも非常に盛り上がった、ファンキーなナンバーである。

Coryによれば、実際にこのダブルアンコールはまったく予定されておらず、曲も即興で決めたということを後日ラジオで語っていた。

It was not planned at all. We had planned to do an encore with Dean town, and that was incredible on its own right, because when we left the stage for the first time, the audience just started singing, and they did it in a way that I've never heard before. They added these harmonies that sounded almost like this Gregorian chant or something. It sounded hauntingly beautiful. And then we got done with Dean town our encore, we're leaving the stage, and everybody's going nuts, and half the band was off the stage, but I could tell that the roar of the audience was not gonna let up, so we kind of, I waited around with Jacob, like, should we and George, one of the stage managers, was like, Hey, are you guys gonna go back out or not? I'm gonna cue the house music if you're done. I was like, I don't know. It feels like we should go out. And then half the band was down there, like, no, no, no, no, no, we shouldn't go. And then Jacob and I were like, We never come here. They like, we owe it to them. Come on. Let's just give them one more. If they'll let us do it. We'll do it. And then, and the stage manager said, yeah, yeah, sure. Go ahead, do one more. And we had to run over and grab half the band. Some of the band was already off the stage and walking off to the green room. So it's like, guys, let's go. And they're like, Well, what are we gonna do? What are we gonna do? Like, I don't know. IGF, no, should we do outro? No, I don't know what to do. And it's like, all right, never mind. Then maybe we shouldn't. And somebody's just like, Funky Duck!!!  Okay, yeah, that's exactly it. And then we ran out. As soon as that was says, like, Oh, of course, let's do that. It's a high energy fun song that Antwaun can sing. And we went out, and it was a blast.

Cory:(ダブルアンコールは)まったく予定してなかったよ。本来のアンコールは「Dean Town」をやるつもりで、それはすごく感動的な瞬間だった。最初にステージを降りたとき、観客が自然と歌い出したんだけど、その歌い方が今まで聞いたことのないもので……まるでグレゴリオ聖歌みたいなハーモニーが加わっていて、本当に美しかったんだ。

そしてアンコールの「Dean Town」が終わって、僕たちはステージを降りようとしていた。でも観客は大興奮で、バンドの半分はもうステージから降りてたけど、歓声がまったくおさまる気配がなかったんだ。だから僕はJacobと一緒にその場に残って、「どうする?戻る?」みたいな感じで様子を見ていたんだ。

そのとき、ステージマネージャーのGeorgeが来て、「君たち戻る?戻らないなら音楽流すけど?」って聞いてきた。僕は「うーん……なんだか、戻るべきな気がする」と思っていた。でも他の半分のメンバーは「いや、戻らなくていいよ」って感じだった。でもJacobと僕は「僕たちここにはめったに来れないし、観客もすごく喜んでくれてる。これは応えるべきだろう。もしもう1曲やらせてくれるなら、やろう」ってなったんだ。

そしたらステージマネージャーが「いいよ、もう1曲やってきな」って言ってくれて、それで急いで他のメンバーを呼びに行ったんだ。何人かはもう完全にステージを降りて、楽屋に向かって歩いてるところだった。そこに「みんな、戻ろう!」って声をかけて。

でも「何やるの?」「It Gets Funkier?うーん違うな」「Outro?いや、それもしっくりこない」「どうする?やめとく?」みたいなやりとりになって。でも誰かが突然「Funky Duck!!!」って言ったんだ。

そしたら「それだ!完璧じゃん!」って全員一致して、ダッシュでステージに戻ったんだ。「Funky Duck」はAntwaunが歌えるし、テンションも高いし、楽しい曲だからぴったりだった。そして実際、めちゃくちゃ盛り上がって、本当に最高の瞬間になったんだよ。

引用:JFNラジオ番組「レコレール」2025年8月4日放送回より

大歓声の中、リードヴォーカルを取るのはもちろんAntwaun。彼のヴォーカルに合わせて、「Funky Duck!」のコーラスが苗場に響き渡る。

写真:藤田アナログ(@fujitanalogue)さん

この曲のブリッジで、Jackが「ダチーチーチー」を披露! Bernard Purdieお得意の、Jackも大好きなフレーズだ。まさか今回の来日で聴けるとは!ダブルアンコールという、予定にない演奏だったからこそ飛び出した、魂のワンフレーズだったのかもしれない。

JackとJoeのグルーヴは最後まで非常に重く、タイトだった。押し寄せる鋼鉄の波のような、研ぎ澄まされたビート。

ソロパートではTheoが本ライブ初となるクラビネット(ギターのような音が鳴る鍵盤)を弾き、アドリブを弾いた。

写真:同上

なんと脇にマイクを挟んで歌いながらソロを取るという無茶な姿勢!

そのままAntwaunのヴォーカルに戻り、曲はエンディングを迎えた。

写真:同上
写真:同上

そしてメンバーは去り――ついに、長い夜は終わった。

写真:同上


おわりに

ライブが終わってしばらく、余韻が抜けなかった。

まだあの夜の――奇跡の夜の余韻を引きずっている。

そう言ってもいいだろう。

ライブが始まる前に、誰かが言った。

「今日が最終回だ」と。


しかし――あるメンバーは私に言ってくれた。

「It's beginning」(これが始まりだ)と。


そう、これで終わったんじゃない。

ここから、始まるのだ。

Vulfpeckと、日本との関係が。


次は、どこでライブをやってくれるのだろう。

ただひとつ確かなことは――また彼らが戻ってきてくれる、ということだ。

きっとそう遠くない、いつか。

私達にできるのは、彼らを愛し続け、サポートし続けながら――

その時を待つ。

それだけである……。


画像出典:Vulfpeck公式X




裏話①

今回のフジロックのセットリストの写真を、マサユキ(@MASAYUKI_HIMEJI)さんからいただくことができた。これを見ると、曲順だけでなく、ソロを誰が取るか、誰が歌うか、ということまでしっかりと書きこまれている。

以前、MSGのライブなどではソリストはJackがその都度アドリブで指示を出していたが、(おそらく)Coryが音楽監督に入り、ソリストに関してもしっかりと事前に決める流れになったようだ。

写真提供:マサユキ(@MASAYUKI_HIMEJI)さん


裏話②

どれが本番で使われたかは分からないが、今回Vulfpeckチームの通訳として参加されたReiko(@reikodrums)さんによれば、これらがVulfpeckのセットで用意されていたドラムのミュートだという。

カラフルでフェス映えする、素敵なミュートだ。今回のフジロックのステージにもぴったりだったと思う。

フロアタムのミュート
写真:Reiko(@reikodrums)さん
スネアのミュート
写真:同上
写真:同上



◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。「KINZTO」と並行して、音楽ライターとしても活動しています。

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