子宮を取っても女性ホルモンは変わらない〜卵巣・卵管・子宮の役割を整理する〜
Xで「卵巣と卵管がつながっていない」という話がバズっていた。外科医からすると「え、知らなかったの?」と少し驚く内容だが、よく考えると学校では習わない。保健体育で教わるのは「子宮から血が出る」止まりで、臓器ごとの役割分担に踏み込む機会はほぼない。
そのギャップを埋めておく。
三つの臓器、三つの仕事
卵巣・卵管・子宮は、それぞれ独立した役割を持つ。
卵巣は女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の産生工場であり、排卵を担う本体だ。卵管は精子と卵子が出会うための通り道に過ぎない。子宮は受精卵が着床し、育つための部屋。
パイプを塞いでも、部屋を取り除いても、工場は動き続ける。では、工場そのものを取ったらどうなるか。卵巣を摘出すれば、エストロゲンは急減する。術後まもなく更年期症状が出始め、時間をかけて骨密度の低下も進む。子宮摘出とは、影響のスケールがまるで違う。
女性ホルモンを作り、月経周期を維持しているのは卵巣だ。 子宮でも卵管でもない。
子宮摘出後に「女性」でなくなるわけではない
筋腫や内膜症で子宮摘出を勧められた患者さんの中に、「女性でなくなる気がする」と落ち込む方がいる。
気持ちはわかる。でも、医学的には正しくない。
診察室でこの説明をするたびに思うのは、「子宮=女性性」という等式が、医学的な説明が届かないまま定着してしまっているということだ。正しい情報が伝わる機会がなければ、患者さんが怖がるのは当然でもある。
卵巣を残せば、ホルモンは変わらない。肌の状態も、骨密度も、性欲も、感情のサイクルも、術前と変わらない。月経血が出なくなるだけで、周期的な乳房緊満感やPMS様の症状が続く人もいるほどだ。これは子宮内膜がなくなってもホルモンの波は続くからで、「月経がなくなった=ホルモンが変わった」ではない。
子宮は「部屋」であって、女性性のアイデンティティとは別の話である。
卵管結紮も同じ理屈
避妊のための卵管結紮でも、卵巣機能には影響しない。排卵は起き、ホルモンも正常に分泌される。卵子は行き場を失って腹腔内に放出されるだけだ。
「どっか行く」という表現がXで笑いを呼んでいたが、医学的にも大差ない説明になる。腹腔内に放出された卵子は自然吸収されるか、ごく稀に腹膜妊娠の原因になるかのどちらかだ。腹膜妊娠は全妊娠の約0.01%とされる非常にまれな事例だが、着床部位に血管が豊富でないため発見が遅れると大出血につながる。「稀だが軽視できない」という意味で、一応知っておいて損はない。
女性のホルモン周期を止めるのは、卵巣摘出か閉経だけ。 子宮や卵管は、それとは独立している。
バズった理由
今回の話が多くの人に刺さったのは、「知らなかった自分の体のこと」が可視化されたからだと思う。
誰もが自分の体を持っているのに、仕組みを正確に知る機会が少ない。学校教育の問題というより、構造的な空白だ。保健体育は「妊娠のしくみ」を教えるが、「各臓器が何をしているか」という医学的解像度には踏み込まない。その空白が、誤解が育つ土壌になっている。
「設計が雑すぎる」という感想は笑えるが、知ってみれば進化の合理性もある。卵管采は卵巣に直接つながっておらず、排卵時に漏斗状に広がって卵子をキャッチしにいく。その動きを想像すると、精密ではないが柔軟な設計だと感じる。完全に接続されていないからこそ、腹腔内での位置調整が効く。
雑に見えて、けっこうよくできている。
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