弁護士法72条が変わる?モームリ逮捕と規制緩和の同時進行
2026年2月3日、退職代行「モームリ」の社長が逮捕された。弁護士法違反。退職希望者を弁護士に紹介し、紹介料を受け取っていた非弁提携の疑い。3月4日には組織犯罪処罰法違反で追送検され、紹介料約146万円を「アフィリエイト広告業務委託費」の名目で送金させていた疑いも加わった。捜査は終結している。
その23日後。2月26日、規制改革推進会議が中間答申を公表した。全68頁。16頁目に「弁護士法におけるAI活用の更なる明確化」が盛り込まれている。
逮捕と答申。片方は現行法の厳格な執行であり、もう片方はその法律を変えようとする動きだ。同じ月に、同じ条文をめぐって正反対のベクトルが走った。
72条とは何か
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬目的で法律事務を扱うことを禁じる規定。違反すれば2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。1933年に制定された「法律事務取扱ノ取締ニ関スル法律」の文言がほぼそのまま残っている。当時の目的は、他人の紛争に介入して利益を得る「事件屋」の排除だった。
90年以上前の条文が、AIによる契約書レビューの適法性を左右している。
答申は何を言っているか
中間答申の原文は行政文書の表現で書かれている。岡野弁護士や向原弁護士が「解釈論から脱却せよ」「新法の制定も検討せよ」と砕いた趣旨を、もう少し正確に記すとこうなる。
1月9日のデジタル・AIワーキング・グループで中室座長が示した6つのポイントのうち、核心は2点。「従来の条文解釈に留まらず、将来的な技術水準の向上を想定した検討を行うこと」。そして「解釈のみでは不十分な場合の立法措置も検討から外さないこと」。
これまでの議論は「AIの契約書レビューは72条に違反するか否か」という当てはめに終始していた。座長はその枠組みを壊した。2026年夏の最終答申で一定の結論を出し、ガイドライン改訂か新法制定かの枠組みを決める方針が示されている。
3年ごとの堂々巡り
この議論は今回が初めてではない。渡部友一郎弁護士がWGで指摘したのは、2022年から同じ論点が繰り返されている現実だった。2022年に法務省への照会、2023年8月にガイドライン公表、そして2026年にまた同じ場所に戻ってきている。
ただし今回は地面が動いている。渡部弁護士がWGで示したデータによれば、AIのコード修正能力は2022年時点でベンチマーク2点だったものが、2025年には70点に達した。技術の進歩が議論を追い越している。3年前と同じ問いを立てても、答えが同じとは限らない。
なぜ今なのか
背景には3つの圧力がある。
人手不足。企業の52%が法的判断の頻度増加を実感しているとWGで報告された。NTT法務部門の試算では、年間4,000件の契約審査をAI化すれば約4,000時間の稼働が浮く。社員2名分に相当する。
技術の成熟。リーガルテックは第3世代、つまりエージェント機能を持つ段階に入った。契約書の一次レビューや論点出しは実用水準にある。
国際競争。海外のリーガルテック企業の資金調達と成長は急速で、日本企業が置いていかれるリスクが現実味を帯びている。
そして、法務部門を持たない中小企業が約399万社ある。この数字はWGに提出された経団連側の資料に基づく。月額数千円の契約書チェックサービスがあれば使いたいという潜在需要は、ここに眠っている。
海外で何が起きているか
英国。2025年5月、SRA(Solicitors Regulation Authority)がGarfield.Lawを認可した。AIを使って少額債権回収の訴訟手続を支援する法律事務所で、SRA公式リリースによれば「AIを通じて法律サービスを提供する最初の事務所」。2026年2月にはLawFairyが2社目として認可された。ただしLawFairyは生成AIではなく、ルールベースの決定論的AIを使う。対象分野も入国管理法であり、Garfield.Lawとは技術も領域も異なる。「AIだけの法律事務所が2社認可」という表面的な括りは正確だが、中身はかなり違う。
アメリカ・アリゾナ州。2020年に弁護士以外でも法律事務所を保有できる制度(ABS:Alternative Business Structure)を導入した。スタンフォード大学の5年間報告書(2025年6月発行)によれば、認可事業体は2022年の19社から2025年4月時点で136社へ拡大。2026年3月にはIAALSの資料で150社に達している。KPMGも認可を受けた。
ユタ州。同じく2020年に規制サンドボックスを開設し、非弁護士によるサービスを監督下で認めた。スタンフォードの追跡データでは、2025年4月までに全サンドボックス事業体を通じて消費者苦情は20件。サービス提供件数との比率は約5,869件に1件。「弁護士以外に任せたら危ない」という主張に対して、データは沈黙を返している。
ただし、ユタ州は政治的圧力を受けてサンドボックスを大幅に縮小し、事業体数は39社から11社へ減った。アリゾナは拡大、ユタは縮小。同じ改革でも政治環境で明暗が分かれる。
弁護士会は何を言っているか
日弁連は2023年にAI戦略ワーキンググループを設置している。2025年度の会務方針では「AI技術により生じる問題事例に対しても意見を述べ、改善を提言していく」と記載がある。
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