AIカルテで医師の格差が広がる〜導入率20%の現実〜
AIが医療現場に浸透してきた。
最初にこのテーマを書いたのは2024年10月。あれから1年3ヶ月。
アンビエントAIスクライブ
当時、驚いたのは「外来で患者さんと話しながら診察すると、その内容がそのままカルテに記載される」という機能だった。音声入力の延長ではある。ただ、雑談を省いて要約してくれる。
2025年、この技術は「アンビエントAIスクライブ」として広がり始めた。
診察室の会話をマイクで拾う。AIが要約し、カルテ形式に整える。医師は最終確認をするだけ。
2024年時点ではデモンストレーションの印象が強かった。2025年には実運用に入った医療機関が出てきている。日本IBMと大阪国際がんセンターの共同プロジェクトでは、看護記録の音声入力AIが稼働中だ。
キーボードに向かう時間がほぼなくなり、患者さんと目を合わせる時間が増えた。
1年前に書いたこの言葉を、今ではより多くの医師が実感しているはずだ。
普及率の現実
電子カルテの普及率は、2023年10月時点で病院65.6%、診療所55%。政府は2030年までに100%を目指している。
だが、日本医師会が2025年に行った調査では、紙カルテを使用中の診療所の54%が「導入は不可能」と回答した。
費用だ。
AIとなるとさらに厳しい。導入率は2023年時点で約20%。用途別では画像診断支援が10%、ゲノム医療支援が7.5%、診断・治療支援が7.1%。
AIカルテを使いこなす医療機関と、紙カルテすら電子化できない医療機関。同じ日本に共存している。
施設別の差はさらに露骨だ。大学病院ではAI画像診断を24%が導入済み。診療所は94%が未導入。
格差と依存
1年前、私はこう書いた。
「今後AIなしでは診療できない医師が出てくる可能性がある」
現実味を帯びてきた。
大学病院や大規模病院では、AIカルテが標準装備になりつつある。若い医師はそれを当たり前として使う。中小病院や診療所では導入が進まない。補助金が切れた後の維持費を払えない。
AIに慣れた医師が、紙カルテの病院に転職したらどうなるか。
ボールペンでカルテを書く。処方箋を手書きする。指示を口頭で伝える。
できるだろうか。
逆もある。紙カルテしか知らない医師が、AI搭載の電子カルテを使いこなせるか。
医療機関ごとのIT環境の差が、医師のキャリアに影響する時代になった。
医師偏在の問題もここに絡む。地方は医師が少ない。だからこそAIで補いたい。ところが地方の診療所ほどAIを導入できない。費用がないからだ。AIは医療格差を縮める可能性を持っている。遠隔診断、自動問診、画像解析。地方の患者が都市部と同じ水準の医療を受けられるようになるかもしれない。ところが導入費用の壁が、その可能性を閉ざしている。
AIが格差を縮めるどころか、格差を広げている。
代償
AIカルテにはメリットがある。入力時間の短縮。ミスの軽減。患者との会話が増える。
デメリットも見えてきた。
システム障害が起きたら診療が止まる。サイバー攻撃のリスクもある。
そして、AIに頼りすぎると「自分で考える力」が衰える。
AIが作成したカルテをろくに確認せず承認する。患者が話していないことが記載されていても気づかない。そういう医師が出てきても不思議ではない。
便利な道具は、使い方を間違えると人を退化させる。
2024年、AP通信が衝撃的な調査結果を報じた。医療現場で使われている音声認識AI「Whisper」が、患者が話していないことを勝手に記載する事例が相次いでいるという。ある研究では音声記録10件中8件で「ハルシネーション(幻覚)」による捏造が確認された。
「その人は黒人だった」という人種への言及。「過剰活性化抗生物質」という存在しない薬物名。AIが作り出した内容だ。
問題なのは、プライバシー保護のため元の音声データが削除されるケースがあること。後から検証しようがない。3万人以上の臨床医がWhisperベースのツールを使っているという報告もある。
日経メディカルの調査(2025年5月)によると、診療中にAIを活用した経験がある医師は20代で37.7%。30代で35.9%。年齢が下がるほど使っている。
別の調査では、20〜30代の医師・看護師の96%が「電子カルテを使いたい」と答えた。紙カルテへの抵抗感は強い。
では、依存の自覚はあるか。
調査を見る限り、ほとんどない。便利なツールとして当たり前に使っている。問題意識を持つ前に、すでに日常になっている。
手術支援ロボットの世界では「da Vinciがない病院には行かない」という研修医が出てきたと聞く。AIカルテでも同じことが起きるだろう。
責任の所在
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