電子カルテAI300件突破〜国産だったのは配管だけ〜
2026年7月23日、株式会社ソフトウェア・サービスが、電子カルテ連動型の生成AIサービスの契約が300件を超えたと発表した。サービス自体は2025年9月に出ている。約10か月での到達で、国産の医療AIがようやく動き出した、と読みたくなる数字だ。
300件の分母
リリースの末尾に一行ある。本サービスは当社電子カルテシステムを利用する施設に限り提供可能、と。300件はその閉じた母集団の中の数字になる。
母集団は公表されている。同社の導入実績ページに地域別の一覧があり、1,031施設が並ぶ。掲載は施設側の許諾を前提とするので、実数がこれを下回ることはない。
300をこの数で割ればおよそ3割になる。分母が下限である以上、率は3割より下にしか動かない。10か月の到達点として小さくはない。それでもリリースが出したのは絶対数だけだった。代表取締役社長は生成AIが医療現場で実用段階に入った指標だと述べているが、指標の形で示されたのは分母のない300という数字になる。
契約件数と施設数が一致する保証もない。率は概算にとどまる。
導入増の理由として、同社は二つ挙げている。文書作成負担の軽減ニーズと、セキュリティマネージド回線サービス「Linqual Gateway」をワンセット提供したことによる導入見送りの低減。後者を自社の言葉で書いている点が効く。売れたのはAIではなく、AIに届く回線だった。
配管を作った
このサービスが使うモデルは、Amazon Bedrock経由のAnthropic製Claudeである。自社開発の言語モデルではない。
同社が作った部分を並べると、カルテからの診療データ抽出、退院サマリや看護サマリのテンプレート、退院予定日に紐づけた自動実行、生成結果をカルテ編集画面へ引用・転記するUI、施設間でプロンプトを共有する基盤、そして外部アクセス回線。すべてアプリケーション層と接続層に収まっていて、モデル層には手が入っていない。
国産だったのは配管だけだ。
考えているのは米国のモデルで、日本側が用意したのはそこへ届くパイプと、その通行料になる。
モデル層を持たないことには実務上の帰結がある。更新はAnthropic側で起きる。ある日から出力の癖が変わっても、導入施設にも同社にも止める手立てはない。バージョンを固定できるのか、更新前に検証期間が設けられるのか、リリースは触れていない。ローカルで動かす場合の弱点として更新の停滞がよく挙げられるが、こちらが抱えるのは逆向きの弱点になる。
症状詳記の位置
2026年8月に追加される三機能のうち、症状詳記だけ性質が違う。
診療報酬算定の医学的必要性を説明するために作成する文書で、支払側に提出される。リリースはこの機能に限って、生成結果には事実と異なる内容を含む場合があるため手動実行方式とし、医師が確認・編集のうえ採否を判断する、と書いている。カルテAI要約機能の説明にある「生成結果の確認は利用者の判断のもとで」より一段強い。
強くする理由がある。症状詳記の記載が診療内容と食い違えば、返戻や査定で戻ってくるだけでは済まない場合がある。療養担当規則に基づく請求の適正性の問題になり、責任は保険医個人に帰属する。個人情報の話とは管轄がまるで違う領域だ。
この文書を書く手にかかる力は、記録の正確性ではなく算定が通ることに向かう。負担軽減とは別の軸の問題が乗っていて、安全弁として置かれているのは医師個人の確認作業ひとつになる。
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