ストレスチェックの面接指導、申出率5%未満の理由
ストレスチェックが形骸化する理由
「医療従事者になって『これ、意味あるのかな』と思ったもの第一位——ストレスチェック」。Xでそんな投稿が広がり、看護師や薬剤師から共感が並んだ。制度の開始は2015年12月。10年が経っている。
申出率5%未満
ストレスチェックは常時50人以上の労働者を使用する事業場に義務づけられている。実施率は50人以上で84.7%(令和6年労働安全衛生調査の特別集計)。数字だけ見れば定着している。
ただし規模で断層がある。1,000人以上の事業場は100.0%、50人未満は33.5%。30〜49人で40.0%、10〜29人で32.2%。義務の線を50人に引いた瞬間、そこから下は制度の外側に落ちている。
判定基準上、高ストレス者は受検者の概ね10%程度出るよう設計されている。そこまでは想定どおり動く。
問題は次だ。高ストレス者が医師の面接指導を申し出た割合が「5%未満」だった事業場が、76.8%を占める。厚生労働省自身の資料に載っている数字である。
100人が受けて10人が高ストレスと判定され、面接まで進むのはゼロか、よくて1人に届かない。
これが制度の実効部分だ。
申し出ない理由
厚労省は理由も書いている。「医師による面接を受けることは、事業者に高ストレス者であることを明らかにすることとなるため、面接指導を望まない労働者も多いと考えられます」。
設計上の入口が、労働者にとっては自己申告のリスクになっている。健康情報を守るための本人申出主義が、そのまま利用を抑制する装置として働く。
酷だ。
悪意で作られた制度ではない。不利益取扱いを防ぐには本人の意思を挟むしかなく、結果として誰も通らない入口ができた。労働者と事業者の情報の非対称を、面接という一点に押し付けた無理が出ている。
興味深いのは、同じ資料で厚労省が挙げている好事例の中身だ。事業者に関知されずに相談できる外部窓口の設置、カウンセリング機関の紹介。いずれも法定の面接指導ではない。制度の本線が詰まっているから迂回路を整備してください、と所管官庁が事実上言っている状態になっている。
産業医10万人の内訳
もう一つの前提が産業医だ。日本医師会認定産業医は10万人を超える。稼働しているのは3万人ほど、専業と呼べる水準はおよそ1,200人——これは2022年のダイヤモンド・オンラインが報じた推計で、統計としての出典は示されていない。ただ、この分野に公的な稼働統計が存在しないこと自体が状況を表している。
差分は、選任義務のある事業場に名義だけを置く層だ。
資格の入口を見ると理由が分かる。認定産業医は基礎研修50単位(前期14、実地10、後期26)を修めれば取得でき、認定証の有効期間は5年、更新は生涯研修20単位と登録料1万円で足りる。研修の受講歴は測られるが、面接指導を何件担当したか、意見書を何通書いたかは問われない。資格が担保しているのは学習時間であって、産業保健の実務ではない。
産業医の職務は安衛法と安衛則で具体的に決まっている。健康診断結果への意見、面接指導、衛生委員会への出席、そして職場巡視。
巡視の頻度には抜け道が用意されている。原則は毎月1回だが、2017年の改正で、事業者の同意があり、かつ衛生管理者による週1回以上の巡視結果、衛生委員会の調査審議を経た情報、月100時間超の時間外労働者の情報が毎月提供されていれば、2ヶ月に1回でよいことになった。趣旨は巡視の効率化であって回数削減ではない。ただ運用上は、年6回の訪問が法定の下限になる。
年に6回顔を出す契約と、職務を果たさない場合の罰金50万円以下。事業者側の計算は成立してしまう。
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