堂々たる連勝、堂々たる8強進出:サッカー男子/2012ロンドン五輪観戦コラム Vol. 1
スペインを破る「グラスゴーの奇跡」。しかしその堂々たる戦いぶりは観る者をうならせ、「これは奇跡でも何でもない」と思わせた。
海外で活躍する選手が増えてきたヤングジャパンは、ビッグネームに「名前負け」しなくなってきたのだ。
第2戦でモロッコも破り、最終戦を待たずして決勝トーナメント進出・8強を決める。
若さあふれるスピードと鋭さを見せてくれた彼らの戦いぶりを、我が主観と客観をミックスさせて語る。
サッカー男子日本代表が1次リーグD組の第2戦でモロッコを1-0で破り、3大会ぶりの決勝トーナメント進出を決めた。かたや優勝候補筆頭との呼び声高かったスペインはホンジュラスに0-1で敗れ、まさかの1次リーグ敗退が決まった。スペインが1次リーグで、しかも第3戦を待たずに敗退が決まるとは、いったい誰が予想しただろうか。
この結果をもたらした最大の原因は、言うまでもなく初戦の日本-スペイン戦である。
「五輪史上最大の番狂わせ」
「グラスゴーの奇跡」
日本のみならず、海外メディアをも大騒ぎさせた日本代表の勝利。しかし過去の客観的なデータや現時点での実力からすれば確かに番狂わせだっただろうが、試合内容を見る限りでは全然番狂わせでも奇跡でもなかった。日本代表は優勝候補筆頭のスペイン相手に堂々と戦い、堂々と勝ったのである。
試合開始直後からそれは見て取れた。日本は前線の高い位置から積極的にプレスをかけ、スペインは得意の流麗なパスワークをなかなかさせてもらえない。そしてボールを奪うと、1トップの永井のスピードを生かした速攻などでスペインのDFラインを脅かす。これはいわゆる「堅守速攻」よりももっと攻撃性の強い、ピッチを広く使った非常に運動量の豊かな攻撃スタイルである。日本は連携のいい守備でスペインのパスワークを封じ、スピードのある攻撃で敵陣に切り込んでいった。試合の流れは明らかに日本ペースだった。
そして前半34分、CKのチャンス。扇原のゴール前への正確なクロスがDF吉田や相手DFの裏に落ち、そこに飛び込んだFW大津が右足を合わせると、ボールはスペインゴールのネットを揺らした。いいペースで進んでいた試合で、ほしかった待望の先制点。ドイツで得点への貪欲さを身につけた大津の、気合でねじ込むようなゴールだった。これで勢いの出た日本は、永井を中心にさらに攻勢に出る。41分には、永井の突破にあせったスペインDFが永井を引き倒し、レッドカードを受ける。
数的優位を得た日本はさらに有利になったが、後半に入ると追い詰められたスペインが前がかりで攻め始め、たびたび日本陣内深くに攻め込む。しかし逆にこれが背後にスペースを生むことになり、攻撃をしのいだ日本がカウンターに出て、何度も決定的なチャンスを得る(私が数えた限りでは、「枠にさえ入ればゴール」という場面が4度はあった)。これをことごとく外したシュートの精度の低さは大きな課題だが、守りに入ることなく90分を戦い抜いた日本代表の姿勢は高く評価できるだろう。
この勝利は、16年前のアトランタ大会での「マイアミの奇跡」となぞらえて語られているようだが、その中身は全然違う。マイアミの時は、ブラジルの圧倒的な攻勢を何とかしのいでいた日本に、相手GKとDFが絡んだ幸運のゴールが転がり込んできたという感じで、確かに「奇跡」だった。しかし今回は、開始当初から明らかに日本ペースで試合が進み、前半で先制し、相手が10人になった後半はさらに攻勢を強めた。シュートの精度がもう少し高ければ、3-0ぐらいで勝っていてもおかしくない試合だったのだ。決して奇跡ではなく「勝つべくして勝った」。これが今回のスペイン戦である。
一方第2戦のモロッコ戦は、相手のフィジカルの強さと、ロングボール攻勢やドリブルでの仕掛けなどの泥臭い攻撃に手を焼いた。もともと日本は、A代表をはじめとしてパスワークと展開の「組織的できれいなサッカー」を志向してきたため、こういう型にはまらない泥臭いサッカーが苦手なのだ。しかし大津など泥臭いサッカーが身につき始めている海外組を中心にこれに対応し、スコアレスで試合は進む。
そして後半41分、センターサークルでボールを受けたMF清武がほとんどノールックで前線に高いボールを送る。これに鋭く反応した永井が相手DFに競り勝ち、突っ込んできたGKの鼻先をかわして、右足アウトステップでループシュート。ボールはワンバウンドしてモロッコゴールに吸い込まれた。スペイン戦でもこの試合でも精力的に走り回っていた永井。その献身的なプレーに感じ入ったサッカーの神様がプレゼントしてくれたような、値千金の決勝ゴールだった。貴重な勝利を挙げた日本は、第3戦を待たずして決勝トーナメント進出を決めた。
今大会の男子日本代表の前評判は高くはなかった。金メダルが期待される「世界女王」のなでしこジャパンと比べ、大会前の親善試合などでも結果を出せなかった男子は、さほどの期待はされていなかった。
しかし私は「なぜ?」と思っていた。最終予選で連続ゴールを挙げた大津をはじめ、日本には海外組が増えてきている。彼らは海外のいい意味で泥臭いサッカーを吸収し、貪欲なプレーが身につき始めている。そのエキスが代表チームに持ち込まれ、他の選手たちもいい刺激を受けているはずだ。そう思っていた私は、今回の五輪代表は今までよりも期待できるんじゃないかと思っていた。
そして結果はこの通り。彼らのサッカーは、守るべき時はガッチリ守り、攻めるべき時は鋭く攻める、世界と渡り合える堂々たるサッカーだ。こういうスタイルは、2010年のワールドカップ南アフリカ大会での岡田ジャパンの「堅守速攻」からその流れが始まり、ザックジャパンではより攻撃性を高めた形で受け継がれ、A代表のアジアカップ優勝、ブラジルW杯予選の好調な戦い、U-23 のロンドン五輪最終予選突破とつながっている。
ゴール前での決定力不足などまだまだ課題は多いものの、確実に世界レベルに近づいている手ごたえを感じられるのは、観る者にとってはワクワクする。この五輪でもどこまで行ってくれるのか。FW大津は堂々と「金メダルを目指す」と宣言している。「やるからには勝つ」勝負師はこれでなくてはいけない。男子代表の戦いを、これからも熱く見守りたい。
次回は体操男子の日本のエース・内村航平と、サッカー女子のなでしこジャパンについて述べる。
体操男子・内村航平。世界選手権で前人未到の3連覇を果たし、個人総合の大本命と目されていた。
しかし団体戦でチームのミスが相次ぎ、内村自身にもミスが出て、「個人よりもほしかった」団体の金を逃す。
その影響が懸念されたが、世界の絶対王者の貫禄か、抜群の安定感とともに美しい演技を披露。圧勝で初の五輪の金メダルを手にする。
前年のドイツ・ワールドカップで感涙の初優勝を飾った「なでしこジャパン」。予選リーグ第3戦、決勝トーナメント進出のための「引き分け戦術」が物議をかもす。しかし「結果を出せばいい」と気を引き締めた彼女らは、しっかりと準々決勝を勝ち抜く。
オリンピックならではの「勝つための戦略」が観る者をうならせる。頂点に立つためのシビアな戦い、次回もお楽しみに!
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