弁護士から届いた、900万円の未払い残業代請求
今から7、8年ほど前、退職した元従業員から未払い残業代を請求されました。
会社を始めてから、従業員との間でこのような問題が起きたのは初めてでした。
ある日、弁護士から手紙が届きました。
封筒を開けて内容を読んだときは、驚きを隠せませんでした。
請求額は、2年分で約900万円。
すぐには現実として受け止められない金額でした。
「なぜ、こんなことになったのか」
最初はそう思いました。
でも、当時の会社の状況を振り返ると、問題が起きてもおかしくない状態だったと思います。
会社のルールが、ほとんどなかった
当時の僕は、目の前のお客様への対応と、店舗を増やすことに全力を注いでいました。
どうすればお客様に来ていただけるか。
どうすれば売上を伸ばせるか。
次はどこに店舗を出すか。
頭の中は、ほとんどそれだけでした。
会社を前へ進めることばかりを考え、社内の管理体制を整えることを後回しにしていました。
就業ルールも、勤怠管理も、今から考えると驚くほど曖昧でした。
出勤や退勤の連絡もLINEで行っていました。
誰が何時から何時まで働いたのか。休憩を何時間取ったのか。残業が発生したのか。
会社として客観的に確認できる記録が、ほとんど残っていませんでした。
スタッフとの信頼関係があれば、それで会社は回ると思っていたのかもしれません。
記録がなければ、会社は説明できない
未払い残業代の請求を受けたとき、会社側には勤務時間を正確に確認できる資料がありませんでした。
残業があったのか、なかったのか。
あったとすれば、何時間だったのか。
相手から勤務時間を主張されても、それが正しいのかを客観的に確認する方法がありませんでした。
つまり、会社として説明も反証もできない状態でした。
当時の僕は「実際にそこまで残業していたのだろうか」と思いました。
しかし、そう思うのであれば、日頃から正確な勤怠記録を残しておくべきでした。
記録を残していなかったのは、会社側の管理不足です。
経営者が「そうは思わない」と言っても、記録がなければ根拠にはなりません。
このとき初めて、会社は信頼関係だけでは守れないのだと痛感しました。
同じことが続けば、会社が潰れる
請求額は約900万円でした。
小さな会社にとって、簡単に支払える金額ではありません。
もし同じことが別の従業員からも続けば、会社は持たない。
本気でそう思いました。
店舗を増やして売上を伸ばしても、管理体制が整っていなければ、一つの問題で会社全体が揺らぎます。
売上をつくることばかり考えていた僕にとって、それは大きな衝撃でした。
会社を成長させるとは、店舗や売上を増やすことだけではありません。
働く時間を正確に記録すること。
給与のルールを明確にすること。
残業が発生したときの扱いを決めること。
スタッフが疑問や不満を相談できる状態をつくること。
こうした一見地味な部分が整っていなければ、会社は強くなりません。
そこから、会社のルールを整え始めた
この出来事をきっかけに、会社の管理体制を一つずつ見直し始めました。
勤怠をどのように記録するのか。
残業をどのように申請し、確認するのか。
勤務時間や休日をどのように管理するのか。
会社とスタッフの認識をどう揃えるのか。
それまで後回しにしていたことに、ようやく本気で向き合うようになりました。
正直に言えば、問題が起きる前にやっておくべきことでした。
請求を受けてから慌てて整備を始めたのですから、経営者としては遅かったと思います。
ただ、この経験がなければ、僕はその後もしばらく売上や出店ばかりを優先していたかもしれません。
ルールは、会社のためだけにあるのではない
以前の僕は、細かいルールを増やすと会社が堅苦しくなると思っていました。
スタッフ同士で話せば分かる。
お互いを信頼していれば大丈夫。
小さな会社なのだから、柔軟に対応すればいい。
そう考えていました。
でも、ルールがない状態は、必ずしもスタッフにとって働きやすい状態ではありません。
人によって判断が変わり、店によって対応が変わる。何か問題が起きたときに、誰が正しいのかも分からなくなる。
それでは、スタッフも安心して働けません。
会社のルールは、経営者を守るためだけではなく、働く人を守るためにも必要です。
信頼していないから記録を残すのではありません。
お互いの認識を曖昧にしないために、記録とルールが必要なのだと思います。
売上を伸ばすことだけが、経営ではない
当時の僕は、店舗を増やし、売上を伸ばしている自分を、経営者として前へ進んでいると思っていました。
しかし、会社の内側は、その成長についていけていませんでした。
外から見える会社の規模と、社内の管理体制が合っていなかったのだと思います。
会社が大きくなれば、昔のやり方では通用しなくなります。
1人や数人の頃は話し合いで解決できたことも、人数が増えれば仕組みに変えなければいけません。
その切り替えが遅れると、どこかで大きな問題になります。
約900万円の請求は、僕にとって非常に苦い経験でした。
でも、会社経営において、売上をつくることと同じくらい、会社の土台を整えることが大切だと気づかされた出来事でもありました。
あの手紙を受け取ったときの驚きは、今でも覚えています。
経営者は、問題が起きてからルールをつくるのでは遅い。
会社がまだ小さく、何も起きていないときこそ、管理体制を整えておく。
7、8年前の自分に伝えられるなら、そう伝えたいと思います。
