見出し画像

スイングバイ! 第6路:Don't Think, Feel !

 眼下にはオレンジ色の夜景が広がっていた。飛行機から眺める香港はどこか神秘的で、込み上げるワクワクを抑えることができなかった。
 北京から移動して、次の目的地は香港にすることに決めた。陸路で中国を旅することも考えたが、何となく新しい土地の風を感じたかったのだ。
 「香港は中国本土とは別の土地である」と言いきってしまえば、一部の人達から猛烈に抗議を受けそうだが、事実として色々と違う。
 香港は、中国の一部でありながら、独自の行政、法律、経済(資本主義)が採用され、本土にはない言論の自由が保障されている。
 何故このような違いが生まれたかと言うと、かいつまんで話すとこんな感じである。
 むかしむかし、中国が清朝時代のことでした。当時、世界中でブイブイいわせていたイギリスと清は、アヘンの取引をきっかけに揉《も》めに揉めて戦争になりました。
 後にアヘン戦争と呼ばれる戦いに勝利したイギリスは、香港を植民地にしました。元から貿易拠点であった香港は、イギリスの統治時代に急速に経済成長しました。統治されてから100年以上経ち、力をつけた中国が武力での介入をチラつかせて返還を迫りました。ビビったイギリスは急いで香港を返しました。
 帰ってきた香港は「金の卵を産むニワトリ」に成長していたので、中国本土とは違う形で迎えることになり、その後は香港も中国と手を取り幸せに暮らしました?めでたしめでたし?
 と言うことで香港のことはコントール下に置きたいけど、お金も産んでくれるので、イギリス統治時代のやり方はある程度継承する一国二制度が出来上がったと言う訳である。ちなみに一国二制度である特別行政区として認められているのは、香港とマカオだけである。
 
 深夜遅くに、香港国際空港に到着した。タクシーを除いて移動手段もないので、泣きながら固いベンチで夜を明かすしかない。普通なら。
 日本から出発する前に楽天のクレジットカードをゴールドに変更していた。ゴールドカードにはプライオリティ•パスが付帯《ふたい》される。プライオリティ•パスは、世界各国の1400カ所以上の空港ラウンジが無料で利用できるのだ。
 ラウンジでどんなサービスが受けられるかは空港ごとに違っているのだが、香港のラウンジは完全に当たりだった。
 高級感のある室内にはふかふかのソファ。サンドイッチやスナック、カップ麺が無料で食べれたし、シャワーまで利用できた。お金をできるだけ使わない貧乏旅行者にとってオアシスのような場所だった。
 翌朝、感謝しながらラウンジを出る。朝食用にちゃっかりサンドイッチをか持って帰ることも忘れなかった。
 
 空港から2階建てバスに揺られて宿に向かった。車窓から見える高いビル郡、九龍島と香港島を結ぶフェリー、そして抜けるような青い空。そんなものを眺めていて、ようやく自分が香港に到着したのだと実感し始めた。
 香港は都会の中の都会であった。北京では大きなビルに囲まれていても、すこし移動するだけで、一昔前の田舎風中国を見つけることができたが、香港はどこまで行ってもピカピカとした真新しい人工物で出来ていて、香港というひとつの大都市を形成していた。
 ほとんど寝ていないにも関わらず、新しい街に来た高揚感があり、僕は香港の街をほっつき歩くことにした。
 とりあえず、真っ先にむかったのが九龍のメインストリートのネイザンロード。香港を訪れた人なら一度は耳にしたことがあるはずだ。100万ドルの夜景と並んで、この通り沿いに突き出た看板は、香港を代表する風景のひとつになっている。
 気づけば夜になっていた。きらびやかなイルミネーションがぎっしり並びだし、煌々と照らされたメインストリートには、人が溢れかえってきていた。買い物のメッカでもあり、大きなショッピングモールや最新の流行を求めるショップ、ナイトマーケットの露店など、大小様々な店があった。ただただ眺めているだけでも楽しかった。


 次の日、僕はアベニュー・オブ・スターに行った。ここは海沿いにある通りなのだが、「アジアのハリウッド」と称され、世界中に熱狂的ファンが多い香港映画の名所でもあった。
 無声映画時代から現代まで、香港映画の発展の歴史を記した記念碑が並び、歩いてるだけで、香港映画通になれた。地面には歴代香港映画のスター達の手形とサインが納められていた。


 数あるみどころの中でも、美しい景色と一緒に写真に収めたいNo.1は、なんと言ってもブルース・リーの像だろう。
 何を隠そう僕は、子どもの頃からブルース・リーの大ファンだったのだ。僕は心の中で「あれから色々あったけど、少しは成長できたかな。。ブルース」と語りかけた。彼はやっぱり「Don,t Think.Feel!」(考えるな感じろ!)と言ってくれてる気がした。
 ブルース・リーと言えば大学時代の先輩を思い出した。僕は海外での災害援助から、過疎地の地域起こしまで何でもこいのボランティア団体に所属していた。
 当時、僕たち一年生はボランティア先で披露する、よさこいの練習をしていた。そこにやって来た先輩は、何故か筋トレを始め、「いいか、ボクシングのパンチとジークンドーの掌ていの違いを教えてやる」といい始め、僕らに懇切丁寧に掌ていの繰り出し方を教えてくれた。よさこいは教えてくれなかった。
 アベニュー• オブ• スターから帰る前にブルース・リー像と、2ショットの記念撮影をしようと思った。
 近くにいた人の良さそうな男性に話しかける。義務とまでは言わないが、礼儀としてやらねばと、(なんの礼儀か知らないが)ブルース・リーと同じポーズをして、顔マネをした。お兄さんに笑われた。僕も笑った。
 なんだか香港と仲良くできる気がしてきた。
理由はない。
「Don,t Think.Feel!」なのだ!

いいなと思ったら応援しよう!