名古屋/まだ、途中。
テレビ塔を見上げるたびに、思い出す景色がある。
コーヒーを受け取り、窓際の席に座る。
彼女が街を眺めながら笑った。
「なんか懐かしい。」
「うん。」
ガラスの向こうには、栄の街。
見慣れないビルが増え、行き交う人も少し早足に見える。
それでも、この場所から街を眺めていると、
昔の景色が重なって見えた。
「ここだったよね。」
「初めて来たの。」
「制服だった。」
「そうそう。」
二人で笑う。
あの頃、このカフェはまだなかった。
テレビ塔へ来る。
それだけで、一日が少し特別だった。
彼女はカップを両手で包みながら、小さく息をついた。
「SNSって、すごいね。」
「ほんとに。」
「また会えるなんて思わなかった。」
彼は笑ってうなずく。
言葉はそこで途切れた。
気まずさはない。
窓の外を眺める時間まで、昔と同じだった。
「名古屋、変わったね。」
「変わった。」
少し間を置いて、彼女が言う。
「テレビ塔も、名前変わったんだね。」
「でも、俺たちにはテレビ塔なんだよね。」
彼女が笑った。
「そうだね。」
コーヒーをひと口飲む。
「岡山も、いいところだよ。」
「今度、行ってみようかな。」
「来る?」
「うん。」
その返事は、昔よりずっと自然だった。
飲み終えたカップを片づけ、席を立つ。
エレベーターの中で、彼女が窓の向こうへ目をやった。
「あの頃は、大人ってもっと大人だと思ってた。」
彼は少し笑う。
「まだ途中だよ。」
扉が開く。
「またね。」
「うん。また。」
小さく手を振る姿が見えなくなるまで、
彼はその場を動かなかった。
街は、ずいぶん変わった。
二人も、きっと変わった。
それでも。
まだ途中だ。
⸻
この物語の舞台はこちら。
Alison Cafe 名古屋テレビ塔店
愛知県名古屋市中区錦3-6-15
中部電力 MIRAI TOWER 3F
https://tabelog.com/aichi/A2301/A230103/23075424/
エド村雨の食べログレビューも、ぜひご覧ください。
