見出し画像

あいさつができる子は、なぜあと伸びするのか

子どもたちを見ていると、あいさつと学力のあいだには、どこかつながりがあるように感じることがあります。

面談で、保護者の方からこんな言葉を聞くことがあります。

「うちの子、あいさつだけはいいんです! あいさつだけは!」

その言い方には、少し笑ってしまうような明るさもあれば、勉強面への心配もにじんでいます。たしかに、保護者の方から見ると、あいさつができることは「勉強とは別のよさ」に見えやすいのかもしれません。

ただ私は、あいさつができる子を見ると、単に「礼儀正しい子だな」とは思いません。

そこには、相手の問いかけを受け取り、場に合う形で返す力が表れているように感じます。そしてその力は、後々の学びにもつながっていくのではないかと思っています。

小3〜小4くらいの子どもたちを見ていると、勉強はそこそこできるのに、あいさつでは相手を見ず、言葉のやりとりもうまく続かない子がいます。その一方で、まだ勉強はそれほど得意とは言えなくても、あいさつのときに自然に相手を見て、ひと言ふた言の会話ができる子もいます。

そして小6くらいになると、私の経験では、後者の子のほうが学力でも上に来ていることが少なくありません。

もちろん、あいさつができるから成績が上がる、と単純に言いたいわけではありません。子どものやりとりのしかたには個人差があります。気質や発達特性が関わることもあります。

声に出してあいさつをするのが苦手でも、別の形で人や場面をよく見ている子もいます。だからこそ、社交的であることだけを「望ましい姿」として語りたいわけではありませんし、あいさつや会話が苦手な子の可能性を小さく見たいわけでもありません。

ここで見たいのは、声の大きさや元気のよさではありません。

その子が、相手や場面をどのように受け取り、それにどう応じているかです。日々のやりとりの中には、その子なりの受け取り方や返し方の特徴が表れます。そしてそこに、学び方の手がかりが見えることもあるように思います。

あいさつで見えているのは、礼儀だけではない

ここで言う「あいさつができる」とは、ただ元気に声が出るということだけではありません。相手の顔を見て、ひと言やりとりができることまで含めて考えています。

たとえば、こちらが「今日のおやつはなんだったの?」と聞けば、「クッキーだった」と返せる。

「日曜日のサッカーの試合、どうだった?」と聞けば、「1点決めたよ」「負けたけど楽しかった」と返せる。

そうした、問いかけを受け取り、それに合う形で返す短いやりとりまで含めて、ここでは「あいさつができる」と考えています。

そこには、単なる礼儀以上のものが表れているように思います。

相手に注意を向けること。
話を聞いて、意図をくみ取ること。
場に合う返答をすること。

あいさつの短いやりとりの中には、こうした力が含まれています。そしてこれは、勉強にもかなり近い力ではないかと思うのです。

相手が「人」か「問題」かの違いだけかもしれない

あいさつと勉強は、一見するとまったく別のものに見えます。一方は人とのやりとりで、もう一方は問題とのやりとりです。

でも、よく見ると、どちらにも共通していることがあります。

それは、問われたことを受け取り、それに対してずれずに答えるということです。

勉強もまた、何が問われているのかをつかみ、それに合った形で返していく営みの積み重ねです。

国語の読解でも、算数の文章題でも、ただ目の前の言葉を読むだけでは足りません。

何を聞かれているのかをつかむ。
どこに答えればよいのかを考える。
求められている形に合わせて返す。

この流れが必要です。

その意味で、あいさつのときにひと言やりとりができる子は、学力とは別の力を見せているようでいて、実は学びの土台に近い力をすでに使っているのかもしれません。

研究でも、近い力が学力と結びついている

こうした見方は、子どもの社会的コミュニケーション力やソーシャルスキル、自己調整に関する研究とも重なります。

「あいさつ」そのものを直接扱った研究は多くありません。ただ、相手や文脈に合わせてやりとりを成立させる力や、場に応じて自分の行動を調整する力が、学業達成と関わることは、さまざまな研究で示されています。

たとえば、就学前から幼稚園期にかけての子どもを追った研究では、語彙の多さだけでなく、相手や文脈に合わせてやりとりする力の伸びが、その後の学業達成や自己調整と関わっていたと報告されています。

また、教師が見取った社会的なふるまいのよさが、その時点の学力を考慮したあとでも、その後の教科学力を予測していたという研究もあります。

つまり、「いま成績が高いかどうか」だけではなく、他者とのやりとりや、場に応じたふるまいのよさそのものが、後の学習の伸びと関わっている可能性があるということです。

もちろん、これは「社交的な子ほど伸びる」という単純な話ではありません。大切なのは、人との関わりの中で、相手の意図を受け取り、自分の行動を調整できることです。

その力は、教室で学ぶうえでも、問題に向き合ううえでも、大きな支えになります。

人との関係が、学びを支えることもある

あいさつや短いやりとりができることには、副次的な効果もあります。先生や友達との関係が作りやすいことです。

あいさつでひと言やりとりができる子は、教室の中でも人との接点を作りやすいのだと思います。先生に声をかけられたときにも反応しやすい。友達とのあいだでも関係がつながりやすい。

そのことは、授業への入りやすさにもつながります。

説明を聞く。
問いかけに反応する。
わからないときに助けを借りる。
注意を受けたあとに切り替える。

こうしたことはすべて、学力そのものとは少し違うようでいて、実際には学びを支える大切な条件です。

学びは、机の上だけで完結しているわけではありません。教室の中で、誰かの言葉を受け取り、誰かに見守られながら、自分を少しずつ動かしていく。

その積み重ねの中で、子どもは伸びていくのだと思います。

小3・小4では見えにくくても、あとから差になる

この力は、すぐに点数になるとは限りません。小3や小4では、まだ勉強の得意不得意のほうが目につくことも多いです。

計算が速い。
漢字をよく覚えている。
テストで点が取れる。

そうした力のほうが、わかりやすく見えます。

一方で、学年が上がるにつれて、問われたことを正しく受け取り、必要な形で返す力の差は、少しずつ学力にも表れやすくなります。

小さいうちは「感じがいい子」「話しやすい子」と見えていたものが、学年が上がるにつれて、「先生の話を正確に受け取れる子」「問題の意図を外さず答えられる子」「自分の状況を伝えられる子」として表れてくる。

現場で感じる「あと伸び」は、そのあたりに理由があるのかもしれません。

あいさつを「感じのよさ」で終わらせない

だから、あいさつができるというのは、単に「感じがよい」ということではないのだと思います。

とくに、相手を見て、ひと言やりとりができるところまで含めて見ると、そこには、相手や場面に応じて受け取り、考え、返すことができるという大事な力が表れています。

子どもが伸びるとき、私たちはつい、解く力や覚える力だけを見がちです。ただ実際には、その前段階として、相手や場面から何かを受け取り、それに応じて自分を動かす力があります。

だから私は、あいさつができる子を見ると、「この子は人あたりがいいな」だけで終わらせないようにしたいと思います。そこには、学びの土台になる力が、すでに動いているかもしれないからです。

そして同時に、あいさつが苦手な子についても、「この子は人との関わりが苦手だから」と簡単に決めつけないようにしたいと思います。

声の大きさや反応の速さだけでは見えない、その子なりの受け取り方があります。

大切なのは、あいさつができるかどうかで子どもを評価することではありません。子どもの何気ないふるまいの中に、どんな学びの芽があるのかを見ようとすることです。

あいさつは、その入口のひとつなのだと思います。

参考にした研究・論文

Ramsook, K. A., Welsh, J. A., & Bierman, K. L. (2020).
“What You Say, and How You Say It: Preschoolers’ Growth in Vocabulary and Communication Skills Differentially Predict Kindergarten Academic Achievement and Self-Regulation.”
Social Development, 29, 783–800.

Gustavsen, A. M. (2017).
“Longitudinal Relationship between Social Skills and Academic Achievement in a Gender Perspective.”
Cogent Education, 4(1), Article 1411035.

Wentzel, K. R., Jablansky, S., & Scalise, N. R. (2021).
“Peer Social Acceptance and Academic Achievement: A Meta-Analytic Study.”
Journal of Educational Psychology, 113(1), 157–180.

Hajovsky, D. B., Mason, B. A., & McCune, L. A. (2017).
“Teacher-Student Relationship Quality and Academic Achievement in Elementary School: A Longitudinal Examination of Gender Differences.”
Journal of School Psychology, 63, 119–133.

※本記事では、上記の研究をもとに、あいさつそのものではなく、社会的なやりとり・自己調整・教師や友人との関係と学業達成の関係を参考にしています。

いいなと思ったら応援しよう!