異世界で大人は救われない。
面白いから観てみてよ、と言われて、今週「異世界転生もの」をがんばって観た。
Netflixに登録して、毎晩、何作も観た。
面白いから、と、薦めてくれた人は、あなたの人生が変わるかもよ、というような、宗教じみた善意が滲み出る恐ろしくピュアな目をしていたので、感想を言わなかったら必要以上に落ち込むと思ったし、関係もおかしくなるのが目に見えていた。さらに「観た?どこが面白かった?」と、近日、無邪気に聞いてくる姿が容易に想像できたので、歯を食いしばって観た。
なので、気の利いた感想を言うために、夜、眠気が全身に回って耐えきれなくなる限界まで観た。面白かったシーンや深みのある言い回し、扱っているテーマの現代性や、物語構造の斬新さなどを探しながら、とにかく目を凝らして集中して観た。
でも、だめだ。
ものすごく、気持ち悪い。
大変申し訳ないと思っておりますが、感想以前の話。
異世界もの全般に言えることだが、社会性をまったく感じない。
世界のすべてが、ゲームや学校や家族とかいう狭い世界からしか発想されていない。総じて、社会経験のない子どものシナリオな印象。世の中の本当の理不尽と向き合ったことのない世界観。作者はたぶん社会にまみれていない。ゲームの中に入って無双したいという社会に出る以前の、社会を拒絶したファンタジーへの幼稚な逃避を恥ずかしげもなく表現して恥ずかしくもないのか。
気の利いた感想を探すために観ていたのに、いつしかおれは、この構造は何かに似ている、と難しい顔をして画面を睨みつけていた。
この、欲求を最短で満たすためのご都合主義に、全く罪悪感や羞恥心を感じていないプロット。
これは、あれだ。
イメクラだ。
イメージクラブとは、風俗嬢と呼ばれる女性従業員が様々なコスチュームを着て性的なサービスを提供する風俗店。異世界転生とは、パーティーやライバルや敵と呼ばれる登場人物が様々なコスチュームを着て欲求を提供する風俗店。ではないか。
こんなところにも、効率化の波がきていたのか。
あくまでも個人的な感想だが、異世界転生ものって、欲求を最短で満たす風俗的構造を持っている。
しかも、何作もぶっつづけでみたからこその発見だったのが、多くのストーリーが「マズローの欲求階層説」を順に満たしていく展開だったことだ。
さて、マズローの説を置いておく。
生理的欲求:
生存のために必要な基本的な欲求(食事、睡眠、排泄など)。安全の欲求:
身体的、精神的な安全を求める欲求(健康、経済的安定など)。所属欲求:
家族や友人、組織などに所属し、愛着や愛情を求める欲求。承認欲求:
他者から認められたい、自分に自信を持ちたいという欲求。自己実現欲求:
自分の能力や可能性を最大限に発揮し、自己を成長させたいという欲求。
転生して生まれて間もない赤ちゃん的存在から大抵の物語はスタートするのだが、まず「生理的欲求」がアイテムや親の庇護、生まれた瞬間与えられる特殊能力で満たされる、場合が多い。次に、「安全の欲求」。モンスターが倒せるようになっていく過程が描かれ、外敵に脅かされない力をつけていく、場合が多い。そして、「所属欲求」。チート能力を持って生まれた主人公は、ギルドや軍隊や王国に所属しようとする。これは、能力の相対化、つまり優れていることを証明するための下地になる。そして、「承認欲求」である。ここから先は無双状態で、ぐんぐんマズローの階級をのぼりつめ、これが社会のために立つ、王国の平和を救うという自己実現に向かっていく。
うーん。なんだこれ。
欲求を最短距離でダイレクトに表現していくと、この図をなぞることになるわけだ。逆に言えば、この図を丁寧になぞっていけば、素晴らしいイメクラができる。もしかして、このジャンル、マーケの人がデータ解析して男性の欲望分析してつくってるんじゃないか説まである。
異世界転生もの視聴シーズンを抜けた今、朦朧としながら、煌々と瞬くNetfrixのトップ画面を眺めている。
観終わって残ったのは、面白さじゃなかった。欲望が「処理された感じ」だけ。
それって、たぶん風俗なんだと思う。
もはやおれにはNetfrix全体が、ネオンの光輝く風俗街みたいに見えている。
異世界転生ものが、駅前に立ち並ぶ常連店だとすると、そんなわけない展開が連続の韓国恋愛ドラマは、女性専用風俗。ゾンビドラマはSM専門店だし、ドキュメンタリーは、ダイレクトに欲求を解放するのに罪悪感がある人が遠回しに欲求を解消する出張マッサージだと言える。
どれもこれも「本来なら長い道のりを経て得られるはずの結果を、お金や死やチートという裏口から得るイメクラ風俗的装置」である。
そして、我々は、そんな装置をときどき欲しがるわけだ。
今日はどんな気分か。何が足りていないか。優しくされたいのか、戦いたいのか、泣きたいのか、現実を忘れたいのか。欲望の棚から、都合よく「物語」を取り出して、擬似的な快楽に浸って眠る。みんなこんなに疲れているのか。
疲れているとき、傷ついたとき、努力せずに肯定されたいとき。欲望を、物語のかたちで包んだ瞬間、それはエンタメとして消費できるようになる。娯楽というか、これは手取り早い欲求の「処理」だと言える。
だから、異世界転生だけを悪者にしてはいけないんだろうな。
気持ち悪いのは、「異世界転生ものが埋め尽くす」という、男性専用の欲望が支配的な量を占めているところ。女性の欲求は、もうちょっとオブラートに包まれて作品化されているのに、男ってやつは。。。
おれが異世界転生を観まくったから、異世界転生大好き人間として、アルゴリズムは認定して、さらなる異世界をおすすめしてくる。無限にあるのか、欲望底なしか、勘弁してくれよ。
まだ、朦朧としてる。なんだ、このおびただしいイメクラの店舗数は。みんなこんなに手っ取り早くてうすっぺらい癒しを求めてるのか。
たぶん、異世界アニメを見る人は、風俗に行かないと思う。
なぜなら、もっと手軽に、もっと無痛で同じような快感が手に入ってしまうから。風俗ですら、もはやめんどくさいのだ。予約、移動、お金、相手、緊張、予想外の展開――それ全部が、異世界には存在しない。挫折があったとしても、成功が約束されたイニシエーションとしての挫折だ。
異世界とは、「風俗すら行けないほど干渉を恐れている誰かの世界」なのだ。
承認されたい。でも誰にも触れたくない。そういう矛盾を抱えた人が、いま「苦労せず手に入る、手っ取り早い快楽」を必要としているのだと思う。
これ以上、傷はえぐるまい。
おれは、正直な感想を言わずにおこうと思う。
「観ましたよ!面白かったです!無自覚的にマズローの欲求構造をなぞっていく羞恥的なストーリー展開が金太郎飴的でした。もちろん世界観の違いはありますが、男の欲望が最短で処理できるような風俗的構造で、どれもコスプレ風俗の域を出ません。端的に言えば、イメクラ。今日は、誰になりきって欲求を解消しようかなー、と風俗店を選ぶように、みんな世界観を選んでいるのだと思います」
なんて言ったら、間違いなく関係は壊れる。
一週間かけたが、社会で使えるまともな感想を出せていない。ただ、ただ、嫌悪感と戦っていた。
おれを救える異世界は、どこにもないわけだ。
いま、もう大人になっちゃったんだなあ、という虚しさの中にいる。
さて、きょうの音楽は、The Offspring / Why don’t you get a job?
My friends got girlfriend, man,he hates that bitch
おれの友達には彼女がいる。おれはその女が嫌いだ。
He tells me everyday
毎日あいつに言ってるんだ。
というデクスター・ホーランドの忠告からこの曲ははじまる。
以下、悪い女に尽くすな、給料日に金を渡すな、という忠告の連続。
Well,my friend,you gotta say
I won't pay. I won't pay ya,no way-ay-ay
Na-na,I Don't you get a job?
さて友よ、お前はしっかり言わねばならん
払いません、払いません、ダメですよって
というかナナ、お前は仕事を見つけろ
と言っといて、最後にこう歌う。
Hey, that's something everyone can enjoy
それも含めてみんな楽しんでるんだけどな
これはナナに向けた台詞であり、自分へのブーメラン。搾取構造に怒りながらも、まあ、そこも含めて笑い話だよねって感じ。
おれは、異世界ものが嫌いなわけだが、異世界ものが嫌いなおれを含めて市場はまわってる。欲求直行にPAYするのを非難するのはかんたんだけど、まあ、人間ってそんなもんか、という気もする。
だから全否定なんてできない。
everyone can enjoyって感じである。
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正直、なんでこんなことしてんのかなって思うこともあります。「続けていいよ」って思ったら、チップください。