【午後4時50分の奇跡】#虹色創作部:ショートショート
◇3時30分 美咲
公園一面にイチョウの葉が降り積もり、黄金の絨毯になっていた。
私は憧れの田中先輩への告白の返事を、このベンチで待っている。約束の時間は午後4時。今は3時30分。あと30分
「早く来すぎたかな…」
美咲は手元の文庫本『プライドと偏見』 (ジェイン・オースティン)愛の物語を読んで待つことにした。
「なんだよ、先客かよ…」
どこからともなく声が聞こえた
声のする方に顔を上げると、そこにいたのはクラスメイトの光希だった。「じゃんけんには、3つの鉄則があるんだ!」と熱く語る、元気と騒がしさだけが取り柄の単細胞。
芸術・文学を理解するには程遠い性格だ。話したことはない。
ー頼むから、出て行ってほしい
美咲は無言で手元の文庫本に目を落とし、文字を追うふりを続けた。
◇3時30分 光希
俺は憧れの北条先輩にラブレターを出して、このベンチで4時に待ち合わせしている。何で美咲がいるのかは不明。
こいつ弁当箱が小さすぎる奴だ。
ー頼むから、出て行ってほしい
◇3時40分 美咲・光希
光希は文庫本を読んでいる美咲のすぐ横にわざと座った。
「なんで隣に座るのよ!読書の邪魔しないでよ!」
「どこに座ろうが勝手だろ!お前こそどこかに行けよ!」
《ここから見るイチョウの景色が一番綺麗なの!》
二人同時に叫んだ。
◇3時45分 美咲・光希
約束の4時が迫ってくる。お互いにどこかに行く気配はなく焦り出した。光希は膝をガクガク揺らす。美咲はページの端を何度も折り返した。
「俺、今日はカレーなんで、カロリー消化します!」
「はぁ?」
「ダンソン!にーだち! ふぃーざきーとぅーざてぃーさーざこんさ」
光希は手足や地面を叩いてベンチの周りを踊り出した。
「ちょっと・・やめてよ!」
こいつ…絶対に出て行かない気だ…。私も退けない。これは試練だ。覚悟を見せなければならない。美咲は心の中で糸が切れる音がした。
「えー、私、合唱部なので『ライオンキング』歌います」
「なに?」
こうして、「ダンソンなる踊り」と「ライオンキング」のミュージカルが公園に響いた。
◇4時30分 美咲
スマホのLINEの着信音が鳴った。田中先輩からだ。
「楽しそうだね。彼氏とお幸せに」
しまった、見られていた!歌に夢中になり過ぎて、約束の時間が過ぎていることに気付かなった。
ー誤解されてフラれた。
イチョウの金屏風の世界が、モノクロに変わり、私はうなだれてベンチに腰を下ろした。
◇4時35分 光希
美咲が歌うのやめてベンチに腰を下ろしている。俺は勝ったのだ。いや・・まて、俺は何に勝った?時間を見ると約束の時刻はとうに過ぎている。
ーそうか、俺はフラれたのだ
この日の為に準備していたサプライズも無意味になった。
◇4時50分
ふたりは無言で、イチョウ並木を眺めていた。
その時に、ふたりの間にひらひらとイチョウの葉が舞い落ちた。
美咲はイチョウの葉を何気に拾い上げると、そこには文字が書かれていた。
【北条先輩 好きです。付き合ってください 光希】
美咲の瞳がくるっとした。「どんな確率でサプライズしてんのよ!っていうか、あなた、ロマンチストだったの?似合わないわー」
「うるさいよ。ほっとけ」
美咲はケラケラ笑って涙を拭いた。「『金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に』与謝野晶子ね!」
「えっ?他所のアンコが何だって?」
黄金のベンチで笑い声が重なる。
気づけば、ふたりの肩がほんの少し触れていた。
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
今や、noteの第三極になるほどの勢いのある、#虹色創作部 虹くりっぷさんの企画に参加しました!
今回は、企画「読書」と「イチョウ並木」を合わせた作品です。サムネイル画像は「イチョウ並木」のイラストを拝借しております。
虹くりっぷさん(虹色創作部)の活動と精神は純度が高いですね。虹色創作部ーそれはみんなと一緒に成長する「共創」の世界。
今までひとりで黙々と書いてましたが、虹くりっぷさんのコラボ企画「挑戦」「共創」ーその世界で、自分の感性が磨かれる気がします。
これぞnoteで活動する”クリエーター”達が待ち望んでいた形ではないでしょうか!今後の進化が楽しみです。虹色創作部のこれからの活躍を期待しております。
おまけ
すいません。ついでの宣伝申し訳ありませんが
イチョウと並木で過去作で描いたショートショートがありますので、よろしければご覧ください
