幸四郎が放つ徹底した悪の魅力 『シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼(幸四郎版)』
松本幸四郎が放つ「純度100%の悪」が炸裂! 劇団☆新感線の名作を歌舞伎化した話題作が、シネマ歌舞伎として登場しました。本作の白眉は、冷酷な悪党・ライと、中村時蔵演じる凛とした将軍・ツナによる宿命の対決。歌舞伎の様式美と新感線らしいスピード感が融合した壮大なアクションスペクタクルは、観る者を圧倒するはずです。現代のエンタメと伝統芸能が火花を散らす唯一無二の傑作。その魅力を詳しく解説します。

■あらすじ
戦国乱世。大国エイアンは武力によって次々と周辺の小国を平らげ、今まさに、山の民たちが暮らす小国オーエを飲み込もうとしていた。だがそんな国同士の争いの中で、落ち武者を狩り、武具や金品を奪い取ろうとする賤民たちがいた。
ライは弟分のキンタと落ち武者狩りをしていたが、より大きな獲物を求め、魔物が住むという朧の森に踏み込んでいく。ライがそこで出会ったのは、森の魔物である3人のオボロたち。「命と引き替えに、お前を人の国の王にしてやろう」と言うオボロたちに、「俺が俺に殺されるときが来たら、俺の命をくれてやる!」とライは応じる。
オボロの剣を与えられたライは、そこで出会ったエイアン四天王の一人ヤスマサ将軍を倒し、彼を味方に引き入れようと接触していたオーエの長シュテンに「自分こそヤスマサだ」と名乗る。シュテンと血人形の契りを交わしたライは、ヤスマサの従卒だと偽ってエイアン国へと乗り込んでいくのだが……。
■感想・レビュー
本作は2024年に上演された『歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼』の舞台を収録した「シネマ歌舞伎」の1本。原作は2007年に上演された、劇団☆新感線の舞台『朧の森に棲む鬼』。主演は当時市川染五郎だった、現松本幸四郎。歌舞伎NEXT版は原作舞台を踏襲しながら、歌舞伎上演用に役柄を手直ししたり、演出を調整したりしているようだ。ただし僕は原作未見なので、その違いはよくわからない。
それでも明らかにわかるのは、これが紛れもない歌舞伎であることだ。原作舞台では女優が演じていた役を、歌舞伎NEXT版ではすべて女形が演じている。シュテンの役は女性から男性に変更したようだが、四天王の一人でヤスマサの未亡人でもあるツナと、エイアン国の王オオキミの妾シキブは男性(中村時蔵と坂東新悟)が演じている。
原作を知らないので比較のしようがないが、今回の歌舞伎NEXT版ではこのツナが良かった。ツナは女でありながら国を支える将軍の一人。ある意味では、男装の麗人のようなポジションだ。男装の麗人を男性が演じるという、どちらが虚でどちらが実だかわからない微妙なキャラクター設定。これが物語全体の虚実と相まって、悪の限りを尽くすライに負けない力強いキャラクターになっている。
この物語の中では、ほとんどのキャラクターが裏表のある屈折した人物像になっている。裏切り者の将軍や、腹黒い奸臣、虎視眈々と敵の隙をうかがい爪を研ぐ悪党たち。だがそんな中で、ライには裏表がない。彼は物語に登場してきたときから悪党で、その悪辣ぶりを観客は一度たりとも疑わない。彼は100%混じり気のない純粋な悪なのだ。これと対決するツナは、逆に100%の正義。これもまた揺るがない。
主役格の人物を複雑化し、周辺人物を単純化するのが作劇術の常套手段。だが本作はそれを逆転させ、主役格が裏表なき悪党と正義に描かれているのが面白い。幸四郎の悪党ぶりはことに見事!
東劇にて
配給:松竹
2026年|3時間22分|日本|カラー
公式HP:https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/2850/
IMDb:https://www.imdb.com/name/nm9534605/
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