これは1970年代の若者の寓話 『カリギュラ 究極版』
ローマ帝国第3代皇帝の狂気と没落を描いた歴史ポルノ大作の再編集版。実妹との禁断の愛や凄惨な権力闘争の果てに、全権力を掌握したカリギュラ。彼を待ち受けていたのは、さらなる虚無と暴走の日常でした。本作は単なる歴史劇に留まらず、かつての反逆児が目的を失い、旧世代の悪徳を再現していく「1970年代の若者像」の寓話としても読み解けます。稀代の暴君の姿を通して、自由と権力の危うさを浮き彫りにする衝撃の文芸超大作です。

■あらすじ
西暦37年。ローマ帝国第2代皇帝ティベリウスは、後継者指名のため孫のカリギュラをカプリ島の屋敷に呼び出す。皇帝は何年も政治から離れて淫蕩にふけっていたが、今は重い病に冒されていたのだ。皇帝は昏睡。カリギュラが意識不明の皇帝から帝位の指輪を抜き取ると、親衛隊長のマクロが息を吹き返した皇帝を絞殺した。
新たなローマ皇帝になったカリギュラは、以前から愛人だった実妹ドルシラに言われるまま、腹心の部下だったマクロを先帝暗殺の罪で処刑。これで恐れるもののなくなったカリギュラはドルシラとの結婚を望むが、実妹との結婚はローマの法で禁じられている。
ドルシラとの関係を続けるには、別の相手を見つけて法に従った結婚をする必要がある。カリギュラはドルシラの反対にも関わらず、離婚歴のあるカエソニアを妻に迎える。
この頃から、カリギュラの狂気はエスカレートしていく。しかし側近も元老院も、それを止められなかった……。
■感想・レビュー
1979年に公開されるや、過激な性描写がスキャンダラスな話題を呼び、世界中で大ヒットした文芸ポルノ超大作の再編集版だ。主演はマルコム・マクドゥエル。共演にヘレン・ミレン、ピーター・オトゥール、ジョン・ギールグッドなど。3時間近い波瀾万丈の物語には、飽きることがない。
物語はおおよそカリギュラ帝の史実に基づいて作られている。しかし描かれているのは、1970年代の若者像だろう。
主人公のカリギュラを演じたマルコム・マクドゥエルは、『if もしも…』(1968)や『時計じかけのオレンジ』(1971)で大人たちに反抗する少年を演じていた。1960年代は若者が大人たちに反抗して戦う時代であり、マクドゥエルは大人に戦いを挑む反逆のシンボルだった。
だが1970年代になると、この戦いは分裂して迷走していく。大人たちの作り上げた社会体制はあまりにも強固で、若者たちはあまりにも無力だった。一部の若者はより過激な政治闘争に身を献げ、国際テロ事件なども頻発した。一方でそうした活動に距離を置き、大人社会に順応しようとした人たちも多い。
反抗心を内に秘めながら皇帝ティベリウスのご機嫌とりに徹しているカリギュラの姿は、1970年代の若者たちのひとつの姿でもあったのだと思う。じっと我慢さえしていれば、老人たちはやがて社会から退場する。だがそこで、若者は何をすればいいのか?
10年前なら「大人に反抗する」という明確な目標があった。大人の作った社会を打ち倒せば、それが若者による改革の大義名分になった。だがいざすべての権力を手にしたとき、カリギュラが行ったのは、より大規模に先帝の淫蕩と暴力を拡大再生産することだけだった。
この映画でキーパーソンになっているのは、カリギュラの愛人になっている実妹ドルシラだ。兄と共に危険を乗り越えてきた彼女は、カリギュラにとっての「最後の良心」のような存在だったのかもしれない。
(原題:Caligula: The Ultimate Cut)
TOHOシネマズ シャンテ(スクリーン1)にて
配給:シンカ
2023年|2時間58分|アメリカ、イタリア|カラー
公式HP:https://synca.jp/caligula_kyukyoku_movie/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt29703523/
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップは映画代や書籍代に使わせていただきます!