世界観は魅力たっぷりだが…… 『果てしなきスカーレット』
細田守監督の最新作『果てしなきスカーレット』は、シェイクスピアの「ハムレット」を下敷きにしたダーク・ファンタジー。死後の世界で復讐を誓う王女スカーレットと、未来から来た救急救命士・聖の出会いと旅の行方を描く。世界観とキャラクターは光る一方、ストーリーには不可解なところが多すぎる。

■あらすじ
16世紀のデンマーク王国。国王アムレットは王弟クローディアスの陰謀によって無惨に処刑され、残された王女スカーレットは新王となった叔父への復讐を誓う。だが用心深いクローディアスは、スカーレットの復讐が果たされる前に彼女を倒した。
スカーレットが目を覚ましたのは、死の国だった。復讐を果たせぬまま、死の国から虚無に送られることを嘆くスカーレット。だが不思議な老婆から宿敵クローディアスも死の国に送られていると聞いた彼女は、今度こそ父の仇を討とうと決意する。
クローディアスは死者たちが目指す「見果てぬ場所」を手に入れるため、死の国の中でも屈強の兵士たちを身辺に集めているという。
たった一人で復讐に向けての旅をするスカーレットだったが、そこに不思議な青年・聖が加わって二人旅になる。遠い未来の世界の救急救命士だという聖は「自分は死んでいない」と言い張り、出会った人たちに戦いをやめるよう説くのだが……。
■感想・レビュー
細田守監督の新作は、シェイクスピア「ハムレット」を下敷きにしたファンタジー大作。解説では時代を「中世」としているものが多いが、16世紀のデンマークは既に近世になっている。もっとも映画に出てくるデンマークは実際のデンマークとは別物なので、これは「いまだ中世風の価値観を残す16世紀のデンマーク」という別世界の物語なのかもしれない。
本作は観客の中に否定的な意見を持つ人が多いようだが、つまらないわけではないし、駄作という評価は不当なものだと思う。おそらく否定的な意見の多くは、この映画に対する「戸惑い」が生み出したものだろう。
この映画は物語の組み立てが、通常の作劇術に沿っていないように思うのだ。主人公スカーレットは叔父クローディアスを殺そうとして返り討ちに遭い、死の国へと送られる。だがそこには、自分を殺したはずのクローディアスもいるのだ。この時点でもう、何だかよくわからない。
人は死んだ後でさえ憎み合い、殺し合う。既に死んでいるにもかかわらず、その世界での死(虚無)を恐れて怯える。死の国の人間たちは、生きている人間たちとなんと似ていることか。だがその中で、スカーレットの復讐が何を目指しているのかが不明瞭になる。だって皆さん、みんな死んでるんですよ?
ここに関わってくるのが救急救命士の聖だ。傷つけ合い、奪い合い、憎しみ合い、いがみ合う人間たちの中で、争いを止めさせ、命を救おうとする彼の存在を、スカーレットと対照的な人間として登場させたのは理解できる。この出会いによってスカーレットは変わる。だが聖はどうなのか。彼はスカーレットと出会って何か変わったのか?
ストーリー展開には何かと疑問を感じる本作だが、世界観とキャラクターは魅力的だ。前記の理由で聖のキャラクターが弱いのは残念だが、スカーレットは声をあてた芦田愛菜の好演もあり、十分魅力的な人物像に仕上がっている。天空のドラゴンも良い。
TOHOシネマズ新宿(スクリーン3)にて
配給:東宝、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2025年|1時間51分|日本|カラー
公式HP:https://scarlet-movie.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt35114460/
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