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素材は悪くないが脚色が弱かった 『開戦前夜』

日米開戦を前に、官民の若きエリートたちが日本の総力戦をシミュレーションし、敗戦という結論にたどり着く。
実在した総力戦研究所は、未来を知ってしまった人々が歴史を変えられるのかという、タイムスリップ物にも通じる魅力的な題材だ。密室劇としても大きな可能性を秘めていたはずだが、物語を外側へ広げた脚色がかえって緊張感を弱め、素材の面白さを十分に引き出せていないように思う。

2026年7月31日(金)公開 全国公開

■あらすじ

 昭和16年(1941年)春。東京永田町の首相官邸脇に作られた「総力戦研究所」に、官民問わずに選抜された日本の若きエリートたちが集結した。メンバーたちはそこで模擬内閣を作り、日本がこれから戦うことになる総力戦の模擬演習を行ったのだ。

 模擬内閣の総理大臣を拝命したのは、産業組合中央金庫の調査課長だった宇治田洋一。彼は軍や各省庁、報道機関などから集められた海千山千の男たちを前にして、「日米もし戦わば」という想定演習をはじめる。

 日米の国力の差は圧倒的で、戦争になればまず勝ち目はない。日本に勝機があるとすれば、奇襲攻撃による圧倒的な勝利で戦争の主導権を握ることだ。天候その他の条件を考えると、対米戦争開始のタイムリミットは今年の12月初旬。

 「これなら勝てる可能性がある!」と研究所のメンバーの過半数は開戦に傾いていく。だが怒声が飛び交うメンバーたちの中で、総理の宇治田は一人数字と格闘していた……。

■感想・レビュー

 映画に登場する「総力戦研究所」は実在し、日米開戦の少し前に「アメリカと戦えば日本は必ず負ける」という結論を導き出していた。だがその研修結果を知りながら、当時の政治家や軍人たちは勝利の目算なき日米開戦に突き進んでいく。

 原作は猪瀬直樹のノンフィクション小説「昭和16年夏の敗戦」(1983)。これは1991年にも一度テレビドラマ化されているが、今回は昨年放送された「NHKスペシャル『シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜』」のドラマパートを再構成した内容になっている。脚色・監督は石井裕也。

 総力戦研究所は、物語的な創造力を掻き立てる素材だと思う。研究メンバーたちは当時の日本が持ち得るありとあらゆる情報を駆使して、日米開戦後の日本の運命を正確に予測した。彼らは日米開戦前の世界にいながら、日米開戦後とその後の敗戦を見てきた時間旅行者のような立場に立たされてしまったのだ。

 未来から過去にタイムスリップした人間が、過去の重大事件を防ぐことができるのか? 総力戦研究所の日米開戦シミュレーションには、そんなファンタジー映画的な趣向がある。

 だからこの物語は、もっと面白くなるはずなのだ。なぜこの程度の映画になってしまったのだろうか?

 密室内でのドラマなら『十二人の怒れる男』(1957)があるし、密室での戦争映画なら、日米戦争の終結を描いた『日本のいちばん長い日』(1967)という傑作がある。こうした歴史的な傑作と比べるのは新作に分が悪いとは言え、『開戦前夜』はそれに迫れる素材だったはず。なぜそれができなかったのか?

 それはサスペンスやアクションの不足を、物語を外側に拡張することで補おうとした戦略の失敗だったように思う。だが『開戦前夜』のサスペンスやミステリーは『十二人の怒れる男』に及ばず、『日本のいちばん長い日』の宮城事件に匹敵するアクションもこの映画にはない。平板で少し退屈な映画だった。

ユナイテッド・シネマ豊洲(2スクリーン)にて
配給:東京テアトル
2026年|2時間18分|日本|カラー
公式HP:https://kaisenzenya.com/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt43657576/

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