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猫1匹から死体の山 『コート・スティーリング』

隣人の留守中に猫を預かったばかりに、凶暴なロシア人とユダヤ人のギャング団から執拗に追われることになった青年の物語。罪も落ち度もない主人公が、理不尽にも血なまぐさい犯罪の渦に巻き込まれていくサスペンススリラーです。暴力の連鎖で次々と人が死んでいく話ですが、これが痛快な物語として成立しているのは、底流に「因果応報」という娯楽映画の鉄則があるから。過去の悪夢に縛られた男が、逃れられない運命と対決します。

2026/01/09(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 1998年、ニューヨーク。バーテンダーの青年ハンクは、病気の父を見舞うためロンドンに向かうアパートの隣人ラスから、留守中に猫の世話をするよう押し付けられる。だがこれが、とんだトラブルの元だった。ラスの留守を訪ねてきたロシア人ギャングに殴る蹴るの暴行を受け、腎臓破裂の大ケガを負う羽目になったのだ。

 女性刑事のローマンは、この出来事の裏には大掛かりな事件が潜んでいると告げ、ロシア人ギャングもやばいが、ユダヤ人ギャングはもっとやばいと警告して去って行く。その直後、ラスは預かっていた猫トイレから鍵を発見。どうやらギャングたちはこれを探しているらしい。ラスの部屋には、ユダヤ人ギャングもやって来た。これはだいぶやばい。ハンクは鍵を握ったまま自分の部屋を逃げ出す。

 間もなく酔っ払って帰宅したハンクは、ロシア人ギャングに捕まり尋問を受ける。だが彼は肝心の鍵をどこに隠したか、まったく覚えていなかった……。

■感想・レビュー

 ダーレン・アロノフスキー監督の新作は、オースティン・バトラー主演の犯罪スリラー映画。原作はチャーリー・ヒューストンの同名小説だが、同じ主人公が活躍する小説は三部作になっているので、ひょっとすると本作の続編があるかもしれない……。

 ストーリーの形式は典型的な「巻き込まれ型スリラー」だ。主人公が隣室の住民から、留守中の猫の世話を押し付けられる。たったこれだけのことで、主人公は殴る蹴るの暴行を受けて半死半生になり、あっちでもこっちでも死体の山が出来上がる。この映画の中で、いったい何人が死んだのかがさっぱりわからない。そのぐらいに大量の人が死んでいく。

 因果応報。人はその行いに応じて、それ相応の報いを受けねばならない。これが娯楽映画の鉄則だ。誰かが災いに遭うなら、それはその人が何らかの罪(犯罪とは限らず倫理的に好ましくない行いのこともある)を犯していたことが多いし、罪のない主人公が犯罪に巻き込まれたなら、巻き込んだ犯罪者たちはそれに応じた報いを受けねばならない。

 だが巻き込んだ規模が多くて、主人公の周囲で罪なき人たちが犠牲になったら? その時は、主人公が犠牲に報いねばならない。これもまた、娯楽映画の黄金律なのだ。理不尽ではあろうが、この世はそんな理不尽に満ちている。

 本作の長所は、物語にその理不尽を緩和するための装置が埋め込まれていることだ。主人公に襲いかかる過去の悪夢がそれで、彼はそれから逃れるために故郷のカリフォルニアから、アメリカ大陸の反対側であるニューヨークまで逃げてきている。彼は過去の出来事で、周囲に嘱望されていた未来を失った。彼がニューヨークで酒浸りのままくすぶっているのは、逃れたくても逃れられない過去にとらわれているからなのだ。

 事件は彼が過去と向き合うチャンスを生む。だが彼はそれによって、すべての過去をも失ってしまう。娯楽映画はつくづく、道徳的な教訓に満ちている。

(原題:Caught Stealing)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン2)にて 
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 
2025年|1時間47分|アメリカ|カラー 
公式HP:https://caught-stealing.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt1493274/


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