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殺す相手は自分自身だった 『しあわせな選択』

失業という現実に追い詰められた男が選んだのは、同じ境遇のライバルを排除するという極端な手段だった。
彼が殺していくのは、単なる他人ではない。自分と同じ人生を歩んできた「もう一人の自分」である。本作はブラック・コメディの形式を取りながら、現代社会の競争構造が生み出す残酷さと、人間が自分自身を追い詰めていく構図を冷酷に描き出す。

2026年3月6日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 大手製紙会社に勤めるマンスは、長年に渡る功績で幾度か表彰もされた優秀な技術者だった。だが彼が妻や子供たちと築いた幸福な家庭は、彼が突然解雇されたことで終わってしまう。

 再雇用を目指して他社の求人に応募し続けるが、1年以上たってもその糸口は見つからない。失業給付は切れ、蓄えも底をつき、家計は苦しくなっている。妻も献身的に家庭を支え、子供たちにも協力をお願いしているが、早く仕事に就かなければ家庭が崩壊だ。

 だが製紙業界はどこも狭き門。転職先は同業他社しか存在せず、たった一件の求人に、大勢の応募者が殺到するのだ。マンスは自分の仕事に誇りも自信もある。だが世間には自分と同程度のキャリアの持ち主が何人も失業している。

 背に腹はかえられない。マンスはここで、ある計画を思いつき実行する。まず業界誌に架空の求人広告を出し、自分に似た経歴と実績を持つ応募者を集めよう。あとは上から順に殺せばいいだけだ……。

■感想・レビュー

 『オールド・ボーイ』(2003)や『渇き』(2009)、『別れる決心』(2022)などの作品で国際的な評価も高い、韓国のパク・チャヌク監督の新作だ。原作はドナルド・E・ウェストレイクの小説「斧」。日本でも2001年に翻訳出版されて、好評を博した作品らしい。

 映画の最後に「コスタ=ガブラスに捧げる」という献辞が出るのは、2005年に同じ原作をコスタ=ガブラス監督が映画化しているからだ。ただしこの映画は、日本では未公開になっている(映画祭上映はあり)。

 今回の映画はジャンルとしてはブラック・コメディなのだろうが、かなり陰惨な物語になっている。正直あまり笑えないのだ。「失業者である主人公が、自分のライバルである別の失業者を殺す」という、社会の底辺に暮らす者同士の争いが既に悲惨。本作はそれに加えて、主人公が「自分にそっくりな男」を殺害対象に選んでしまう悲惨さがある。

 人間は自分と無関係な赤の他人なら、死のうが生きようがあまり関心を持たない。戦争映画で殺されるナチスドイツの兵隊は、ヘルメットを目深にかぶって表情を見えにくくするのが常だ。そうすることで個性を殺し、人間性を剥奪するから、観客はドイツ兵が殺されることに拍手喝采する。

 だが本作『しあわせな選択』は、それと正反対のことをする。主人公は求人応募で自分のライバルになりそうな人物を探すため、自分と同じような職歴で、似たような実績を持つ男たちを殺害対象に選ぶ。主人公にとって彼らは、主人公の分身みたいな男たち。彼らのこれまでの苦労も、彼らの苦しみも、すべて手に取るようにわかってしまう。

 主人公は殺害対象者たちの人生に、自分の人生を重ねて感情移入する。彼らの人生は自分の人生とそっくりで、彼らは鏡に映った自分自身なのだ。主人公は赤の他人ではなく、自分自身を次々に殺している。たとえ就職して生活が元に戻ったとしても、殺した自分は元に戻らない。

(原題:어쩔수가없다)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン11)にて 
配給:キノフィルムズ 
2025年|2時間19分|韓国|カラー 
公式HP:https://nootherchoice.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt1527793/

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