焦点のぼけた戦後80年映画 『雪風 YUKIKAZE』
本作は太平洋戦争中に実在した駆逐艦のエピソードを基にしつつ、創作した登場人物によるドラマを展開するフィクション。物語は戦中だけでなく、戦後から1980年代にまで広がり、時間軸も行き来するため焦点がぼやけてしまった。ドラマの演出も稚拙で、観客を惹きつける機会を逃している。

■あらすじ
太平洋戦争中の主要な海戦に数多く参加し、多くの僚艦が傷つき海の藻屑となる中で、致命的な損傷を受けることなく生還した駆逐艦・雪風。
海戦では小型艦のメリットを生かして素早く動き、敵艦に魚雷を放ち、潜水艦に爆雷を投下する。敵の攻撃を受けた味方の船から投げ出された仲間がいれば、それを救出するのも駆逐艦の役目だ。
1943年。必ず生還することから海軍内で「幸運艦」と呼ばれている雪風に、新しい艦長として寺澤一利が配属される。前年のミッドウェー海戦以降、日本軍は連合国に対して完全に守勢に回り、雪風にとっても厳しい戦いが続いている。だが寺澤の判断は的確で、部下たちからの信頼も厚かった。
先任伍長の早瀬幸平は、艦内下士官や兵のまとめ役でありムードメーカー。新たに配属されてきた水雷員の井上壮太は、ミッドウェー海戦で彼に命を救われたこともあり、早瀬を兄のように慕う。
だが日本の戦況はますます悪くなっていく。
■感想・レビュー
雪風は太平洋戦争中に実在した駆逐艦で、映画で紹介されている内容はほぼ実在の雪風の活動に沿った内容になっているようだ。その点で、映画のキャッチコピーである「史実に基づく物語」というのは正しい。
ただし寺澤艦長以下の登場人物たちは、すべて映画のために創作されたキャラクター。エピソードの中には史実を基にした部分もあるが、ドラマ部分の大半は「史実に基づく物語」から遠い。
実話に材を取った実録映画で、登場人物の名前を変えたりエピソードを改変することはよくあるし、それが悪いわけではない。NHKの朝ドラはモデルがいても名前を変え、エピソードを変えるが、それを「実話と違う」と言うのは野暮だろう。
「戦記映画」というジャンルでそれをやることの是非は議論があってもいいかもしれないが、僕自身はそれをとやかく言おうとは思わない。問題は作られた映画の中で、作り手が何をやりたいかだからだ。
だがこの映画に関しては、肝心のそれがよくわからない。物語は戦時中のエピソードから、戦後の雪風の活動、1970年の大阪万博、さらに1980年代の大雨災害にまで視野を広げる。この時間の広がりにどのような意味があるのかが、映画を観ていてもよくわからない。焦点がぼけて散漫になるだけではないのか。それに加えて、映画の中で複数の時間を行き来する理由もわからなかった。
それに加えて気になるのは、劇中の個々の演出が下手くそなことだ。例えば水中の不発弾を回収してくるエピソードは、「水の中で5分息が持ちます」とせっかくタイムリミットを切っているのに、水に入った次のカットで「もう3分たったぞ」には苦笑する。この場面はその後も時間の経過を省略して、観客をハラハラドキドキさせるチャンスを台無しにしてしまった。一事が万事この調子で、気の抜けた眠い演出の連続なのだ。
映画が最も引き締まるのは、中井貴一が登場した「史実エピソード」の部分だった。
ユナイテッド・シネマ豊洲(5スクリーン)にて
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、バンダイナムコフィルムワークス
2025年|2時間|日本|カラー
公式HP:https://www.yukikaze-movie.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt37545636/
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