江戸の芝居町で起きたあだ討ちの真相は? 『木挽町のあだ討ち』
江戸後期、芝居小屋が立ち並ぶ木挽町で起きた仇討ち事件。
その一年半後、一人の浪人が真相を探るため町を訪れ、芝居小屋の関係者たちから話を聞いて回る。そこで浮かび上がってくるのは、舞台で脚光を浴びる役者ではなく、芝居を支える裏方たちの姿だった。
立作者、立師、木戸芸者、衣装方——。彼らの静かな誇りを描くこの映画は、いわば「裏方の美学」の物語だ。新しい時代劇を目指した意欲作だが、もう一歩踏み込んでほしい点もあった。

■あらすじ
江戸後期の文化七年一月。芝居小屋が立ち並ぶ江戸木挽町の火除地で、若衆姿の伊納菊之助が、父の仇である博徒・作兵衛を討ち取る仇討ち事件が起きた。江戸中を騒然とさせたこの事件の後、本懐を遂げた菊之助は故郷に戻って家を継ぎ、やがて事件は人々の記憶からも遠ざかっていった……。
事件から1年半後、仇討ちを果たした菊之助の義兄だと名乗る美濃遠山藩の浪人・加瀬総一郎が、事件の詳細を知ろうと木挽町にやって来る。その目的は、事件の詳細を確かめると共に、生前面識があった作兵衛の埋葬場所を突き止めることだった。
菊之助は確かに本懐を遂げた。だが江戸の藩邸に彼が現れたのは事件の2日後で、その間に首はどこかに埋められたという。だがその場所が、まったくわからない。また首を失った体はどう処分されたのか。これもよくわからなかった。
加瀬は芝居小屋の関係者に話を聞いて回り、ついに事件の驚くべき真相にたどりついたのだが……。
■感想・レビュー
直木賞と山本周五郎賞を受賞した永井紗耶子の同名時代小説を、源孝志が脚色監督したミステリー時代劇。出演者は豪華で、江戸時代の芝居小屋や街並みを再現した美術にも力が入っている。斬り合いも人死にもあるが、登場人物の多くは心優しい善良な人々で、観終えた後は爽やかな気分になれる。
源監督は多くのテレビドラマや映画を手がけてきたベテランだが、本作は今後彼の代表作と呼ばれるようになるに違いない。登場人物たちのメイクや音楽(エンディング曲は椎名林檎の「人生は夢だらけ」)など細部にわたって、「これまでにない新しい時代劇を作ろう」とする意欲が伝わってくるのも好感が持てる。
この映画のテーマを一言で表現すれば、「裏方の美学」だと思う。江戸時代の芝居小屋で「表の顔」の代表は舞台に登場する役者たち。それに対してこの映画に登場するのは、同じ芝居者でも舞台で脚光を浴びない人たちばかりなのだ。立作者(脚本家)、木戸芸者(小屋の呼び込み)、立師(殺陣師)、衣装方、小道具方、黒子、奈落方(舞台下で働く)などだ。
こうした「裏方」への視線は、当時の武士階級についても同じだ。菊之助は元服前の若衆で、仇である作兵衛は武家奉公をしている下男。菊之助の母も、武家社会の裏方だろう。また武家社会からはみ出してしまった人たちもいる。立作者の篠田金治、立師の相良与三郎は元武士だし、探偵役の加瀬総一郎は藩を追われて浪人中の身の上。いずれも当時の社会では表舞台に出てこない人たちだ。
だが「裏方の美学」を描くなら、それと対比される「表舞台の華やかさ」をもっと描いてほしかった。芝居小屋なら、それは役者たちだ。日頃から世間の視線を浴びている役者たちの世界があった上で、同じ舞台を作るプロフェッショナルであっても、世間から見向きもされない裏方たちの世界がある。この対比があってこそ、映画冒頭にある「あだ討ち」の場面が生きると思うのだが……。
ユナイテッド・シネマ豊洲(4スクリーン)にて
配給:東映
2026年|2時間|日本|カラー
公式HP:https://kobikicho-movie.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt40224018/
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