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山田洋次監督が倍賞千重子に贈る花束 『TOKYOタクシー』

2022年のフランス映画『パリタクシー』を、山田洋次監督がリメイクしたハートウォーミングなロードムービー。タクシー運転手が乗せたのは、東京から葉山の老人ホームへ向かう85歳の女性でした。車内で語られるのは、戦中から戦後を生き抜いた彼女の壮絶かつ気高い半生。長年「寅さんの妹」を演じてきた倍賞千恵子へ、盟友・山田監督が贈る「感謝の花束」とも言える一作です。二人が共に歩んだ60年の映画人生が重なり合う、至高の人間ドラマ。その魅力を、劇中を彩る名曲の背景などと共に紐解きます。

2025年11月21日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 タクシー運転手の宇佐美浩二は、娘の高校進学にかかる費用について頭を悩ませている。「学費のことは心配するな」と娘に大見得を切ったものの、他にもあれこれ出費が重なる時期で家計は火の車なのだ。

 その彼がたまたま乗せた客が、85歳の高野すみれだ。葛飾の自宅を引き払って葉山の老人ホームに入居する彼女は、最後に東京の街をあちこち見ておきたいのだという。

 東京大空襲で父を亡くした言問橋を振り出しに、すみれの人生の足跡をたどっていくタクシー。母子二人きりで過ごした戦後の貧しい暮らし。朝鮮人青年との短くも激しい恋。恋人との別れ。新しく授かった命。そして母子の運命を一変させることになった、新しい恋との出会い。そして結婚。

 すみれの語る激動の人生を聞きながら、浩二もまた自分の事を少しずつ彼女に語る。打ち解けていく二人。だがタクシー運転手と乗客の関係で偶然始まった二人の旅は、間もなく終わりの時を迎えるのだ……。

■感想・レビュー

 2022年のフランス映画『パリタクシー』を、山田洋次監督が日本の東京を舞台に翻案リメイクした作品。僕は本作を見た後にAmazon Prime Videoで原作映画を観たが、これは物語の骨組みをほぼ踏襲し、エピソードや会話の構成までそっくり同じ部分がある忠実なリメイク作だった。

 主演は倍賞千恵子と木村拓哉。おそらくこの映画の発想は、『パリタクシー』のヒロインを倍賞千恵子に演じさせたいという、ただその一点から出発しているのだと思う。

 山田洋次監督と倍賞千恵子と言えば、『男はつらいよ』シリーズ(1969〜2019)50本でコンビを組んでいる間柄だ。だが二人の仕事上の付き合いは、1963年の『下町の太陽』から始まっている。そのコンビの最新作がこの映画。これは山田洋次から倍賞千恵子に贈る、感謝の花束のような映画だと思う。

 山田監督はこの映画を通して、倍賞千恵子を「寅さんの妹」から引き離す。物語のスタートは寅さん映画の舞台である葛飾柴又の帝釈天前だが、高野すみれは長年暮らしたこの街を離れるところ。これはそのまま、寅さん映画への別れだ。

 さくらとすみれは、似ているところと、異なるところがある。名前は花の名で、年齢はほぼ同じ。二人とも結婚して、息子が一人いる。だがさくらの結婚は幸せなものだったが、すみれの結婚は違った。不幸な結婚に区切りを付けるため、すみれはある大きな決断をする。

 高野すみれは、同じ時代を生きたもう一人のさくらなのだ。山田洋次監督はこのヒロインの人生を『男はつらいよ』シリーズに重ね、さらに自分と倍賞千恵子が共に歩んできた、1963年からの長い映画人生に重ね合わせる。

 映画のラストに流れる「とても静かな夜だから」は、倍賞千恵子が1963年に録音した曲。劇中歌の「星屑の町」は、同じ1963年に公開された同名映画の主題歌だった。甘ったるい映画だが、これこそ山田監督の青春なのだ。

ユナイテッド・シネマ豊洲(5スクリーン)にて 
配給:松竹 
2025年|1時間43分|日本|カラー 
公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/tokyotaxi-movie/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt35521394/

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