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黒沢映画としては不穏さが足りない 『黒牢城』

米澤穂信の直木賞受賞作を、黒沢清監督が初の時代劇として映画化。有岡城に籠城する荒木村重と、地下牢に幽閉された黒田官兵衛が、城内で起きる怪事件の謎に挑む。堂々たる風格を備えた戦国ミステリーだが、官兵衛の狂気や村重が破滅へ絡め取られていく恐怖を描くには、黒沢映画特有の不穏な気配がやや弱い。複数の事件をひとつの大きな物語へ束ねる力にも物足りなさが残り、惜しい仕上がりとなった印象は否めないところもある。

2026年6月19日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 天正6年(1578年)11月。織田信長に反旗を翻して有岡城に籠城する荒木村重のを、織田方の武将である黒田官兵衛が説得しようとしていた。だが村重は勘兵衛の言葉に耳を貸さず、彼を生かしたまま地下牢に押し込めてしまう。

 それから間もなく、城内で謎めいた変死事件が起きる。人質として城内の小部屋に監禁していた少年が、矢で射殺されたのだ。だが目撃者はおらず、現場に矢も残されていない。村重自ら関係者の聞き取りをし、現場も改めたが、人質がどのように殺され、現場からなぜ矢が消えたのか見当も付かない。

 村重はこれまでの取り調べ資料を手に、地下牢の勘兵衛を訪ねる。資料を一読した勘兵衛は、ある謎めいた和歌を村重に託す。それが事件解決への、大きな手掛かりになった。

 籠城は続く。頼みとする毛利の援軍が来ない中、村重は城のすぐ近くで織田軍が野営していると知り夜襲をかけた。だがこれが、新たな問題を生み出すのだった……。

■感想・レビュー

 米澤穂信の直木賞受賞小説を、黒沢清監督が映画化した時代劇映画。

 戦国時代末期、天下平定も間近と思われた織田信長を突如裏切った荒木村重。彼はなぜ信長を裏切ったのか? そしてなぜ、落城寸前の城に家族や家臣たちを置き去りにしたまま城を逃れたのか?

 これは戦国期の謎めいたエピソードのひとつで、最近の映像作品でも北野武の『首』(2023)や現在放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」で取り上げられている。本作は村重の裏切り直後から落城までの1年間を、村重と彼が牢につないだ黒田官兵衛の視点で描くミステリー映画だ。

 黒沢清監督は初の時代劇だが、なかなか風格のある作品に仕上がっていると思う。だが一方で、黒沢作品にしてはあまりにも普通の映画だという印象も持つ。多くの黒沢作品にある「不穏な気配」があまり感じられない。何度かその手前まで行くのだが、肝心なところに突っ込んでいかずに普通の映画の領域に引き返してしまう。

 ひょっとすると、これが「時代劇というフォーマット」の強靱さなのかもしれない。時代劇という形式の個性があまりにも強すぎて、黒沢清監督の個性が生かせないのなら残念だが、必ずしもそれだけが原因ではないだろう。

 物語は城内で起きた幾つかの怪事件を、荒木村重が黒田官兵衛の協力を得ながら解決していくというものだ。だが季節で区切られたエピソードの裏で動いているのは、荒木への復讐に燃える黒田官兵衛による用意周到な罠。荒木はそれに絡み取られて、最後は自分も破滅するとわかっていて破滅に向かって歩んでいくのだ。

 映画はたぶん、官兵衛の動機を見せる導入部が弱い。加えて最後に官兵衛が本心を明かすところも弱い。複数のエピソードを挟み込んで、大きなひとつの物語にする力が足りなかった。

 本木雅弘演じる荒木村重が官兵衛の「狂気」に飲み込まれ、妻の千代保の「狂気」に怯える。その恐ろしさを、いつもの不穏さで描かれていれば……。

ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場(9スクリーン)にて 
配給:松竹 
2026年|2時間27分|日本|カラー 
公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/kokurojo-movie/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt39602215/

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