糖尿病と言われたら、好きなものは全部やめなきゃいけないの?

血糖値は高いと言われていたけれど、まさか自分が糖尿病だとは思わなかった——そう話してくれた方がいました。
「これから何を食べたらいいのか分からない」と困った顔をしたあと、
「好きなものが食べられなくなるなら、死んだほうがましだ」と、
半分冗談のような、でも本音に近い言い方をされたことがあります。

地域の管理栄養士いなほです。
糖尿病と診断されてまず伝えたいのは、好きなものを全部やめる必要はない、ということです。

糖尿病の治療は、食事・運動・薬を組み合わせて血糖値を整えていくのが基本です。必要な食事量や栄養バランスは、年齢や体格、活動量、腎臓の状態、飲んでいる薬によって一人ひとり違うので、ここでお話しするのは、診断されたばかりの方に向けた最初の考え方だと思ってください。

食事療法でまず押さえておきたいのは、自分に合ったエネルギー量をとること、栄養のバランスを整えること、食事の時間をできるだけ揃えることの三つです。食べ過ぎが続けば体重も血糖値も上がりやすくなりますが、逆に減らしすぎると体力や筋肉が落ちたり、薬を使っている方は低血糖を起こしやすくなったりします。少なければ少ないほどいい、という単純な話ではありません。

糖質だけを極端に減らせばいいわけでもありません。ごはんやパン、麺類は体や脳を動かすエネルギー源です。主食を減らした分、肉や脂の多いものが増えると、今度は別の問題が出てくることもあります。

毎日の食事で意識しやすいのは、主食・主菜・副菜をそろえることです。ごはんやパンが主食、魚や肉、卵、大豆製品を使った料理が主菜、野菜やきのこ、海藻を使った料理が副菜にあたります。焼き魚定食なら、ごはんが主食、焼き魚が主菜、おひたしやみそ汁の具が副菜、という具合です。一皿で済ませるより、この組み合わせのほうが全体のバランスは整いやすくなります。

朝、食パンだけで済ませている方なら、ゆで卵や無糖ヨーグルト、野菜スープを添えるだけでも変わります。昼が麺類になりやすい方は、卵や鶏肉、豆腐、野菜を足す方法があります。麺つゆの量や具材でエネルギーも塩分も変わるので毎回同じ食べ方が正解というわけではありませんが、完璧な献立を毎日続けることより、「主食だけ」「お菓子だけ」という偏りを少しずつ減らすほうが現実的です。

何を食べるかと同じくらい、どう食べるかも関わってきます。食事を抜いたあとにまとめて食べると、血糖値は大きく動きやすくなります。できるだけ決まった時間に、適量を食べる。早食いの癖がある方は、箸を置く回数を増やす、テレビやスマホを見ながら食べない、それだけでも変わることがあります。

野菜やきのこ、海藻に多い食物繊維には、食後の血糖値の上がり方をゆるやかにする働きがあります。「野菜から食べる」という方法もよく知られていますが、野菜だけ食べて主食を極端に減らすという意味ではありません。ドレッシングや炒め油の量も、案外エネルギーに影響します。

甘いものを一切禁止、というのも必須ではありません。大事なのは、何をどれくらい、どのくらいの頻度で口にしているかです。特にジュースや加糖の缶コーヒー、スポーツドリンクは、あっという間に飲めてしまう分、糖分をとりすぎていることに気づきにくいものです。普段の飲み物を水や無糖のお茶に変えるだけでも、見直しの効果は大きいです。

お菓子は、袋のまま食べ続けるのではなく、小皿に取り分ける。食べる時間と量をあらかじめ決めておくと、なんとなく食べ続けることが減ります。ただし薬の種類や血糖値の状態によっては間食のタイミングに注意が要るので、変えるときは主治医や管理栄養士に一声かけてもらえると安心です。

外食やコンビニでも工夫はできます。丼物や麺類の一品料理より、主食・主菜・副菜がそろう定食のほうが整えやすく、ごはんの量を最初から少なめにできるか聞いてみる手もあります。コンビニなら、おにぎりや菓子パンだけでなく、サラダやゆで卵、焼き魚、豆腐、無糖ヨーグルトを組み合わせる方法があります。「糖質オフ」「低カロリー」という表示だけで判断せず、栄養成分表示に目を通す習慣をつけておくと安心です。食べ過ぎた翌日に極端に食事を減らすと、かえって次の過食につながることもあるので、いつも通りの食事に戻すくらいがちょうどいいところです。

治療薬やインスリンを使っている方が自己判断で食事を抜いたり、薬の量を変えたりするのは危険です。薬によっては、食べないことで低血糖が起きることがあります。冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感、ふらつき、頭がぼんやりする感じ——それは体からのサインです。対応の仕方は薬によって違うので、主治医からの説明を確認しておくと安心です。

体調を崩して食事がとれないとき、下痢や嘔吐、発熱があるとき——いわゆるシックデイは血糖値が乱れやすくなります。こういうときこそ、早めに医療機関に相談することが安全につながります。

診断されたばかりの時期は、食事だけでなく薬や運動、検査値、仕事や家族との生活まで、考えることが一気に増えます。外食が多い、料理が苦手、家族と別メニューを作れない、仕事の都合で食事の時間が不規則——そういった事情があっても、それだけで食事療法ができないわけではありません。管理栄養士に普段の食事を話してもらえれば、生活の中で続けられる方法を一緒に探せますし、食事記録があれば、食べ過ぎているものだけでなく、すでにできている工夫も見えてきます。

最初に紹介した方には、こう伝えました。好きなものを一つ残らずやめる必要はない、と。ごはんもお菓子も、量と頻度を見直せば、食卓から完全に消す必要はないことがほとんどです。「死んだほうがまし」と思うくらいなら、それは治療の続け方が合っていないサインかもしれません。血糖値を整えることと、これまで通りの食事を楽しむことは、両立できます。次の外来までに、好きなものを一つだけ、量や食べ方を変えて試してみる。そこから始めるほうが、結局は長く続きます。

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