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みいちゃんと山田さん 最終話

「みいちゃんと山田さん」が最終回を迎えたのだが、どうも終わり方が適当だとか肩透かしだとかで、不評8 : 好評2といった風情だ。
概ね不評のようなのだが、私は予想を遥かに超える良い結末だったと思う。
しかし何故、これほど世間の評価と乖離しているのだろうか。

以下ネタバレを含むため、未読の人はご注意願いたい。



みいちゃんを喪った山田は、みいちゃんをモデルとした漫画を描き始め、小ヒットして8年連載を続ける。
山田は母親から無償の愛を得る事を諦めるが、唯一の友人であったみいちゃんを喪った苦しみだけは消えず、ストレスや摂食障害により激ヤセと激太りを繰り返すようになる。母親も娘が漫画家になった事を失敗だと断じる一方で、娘の健康状態を案じるようになる。
山田の本名は「美咲」であり、彼女のあだ名も「みいちゃん」だった。みいちゃんとの別れ際にその話をした事を思い出す山田だったが、直後、机に突っ伏して亡くなってしまう。


これは円環の物語なのだと思って読んでいた。
物語のラスト、山田はプロの漫画家として、みいちゃんを主人公とした漫画の連載を始める。その漫画のタイトルは「みいちゃんと山田さん」。
そして1巻の冒頭に繋がるのではないか……と。

作者の亜月ねねは、みいちゃんは昔の知人がモデルであると公言しているのだが、この結末であれば、山田 ≒ 亜月であり「機能不全家庭で育った山田の成長物語」としてきれいに閉じられたはずだ。
みいちゃんは生前、いずれ自分の事を漫画に描いてほしいと頼んでいるのだが、それによって山田 ≒ 亜月がみいちゃんの願いを叶え、「みいちゃんと山田さん」の漫画が誕生した…という伏線になっていると思っていたのだ。(作中、山田は漫画家として7巻の単行本を出版した事が明かされており、みいちゃんと山田さんも全7巻の物語になる。)

ところが、みい山は敢えてそのような予定調和の結末をぶち壊してきたのだ…。

山田というのは、夜職に就ける程度には美人なのだが、母親の過干渉により生育過程で歪んでしまい、適切に人間関係を築けず友人がいないという設定の人物だ。
彼女は漫画家になると吹聴しながらも、実のところ1本もまともに仕上げた事がなく、作中で初めて仕上げた漫画も言い表しようがないほどの駄作なのだが、本人はこのままデビューするのだと自信満々で出版社に持ち込んでおり、年齢の割に大きく客観性や社会性に欠けている。

とは言え、登場時の山田は大学生であり、まるで幼児的万能感のような根拠のない自信については若気の至りだと言えなくもない。
みいちゃんと比較すると常識の範疇に収まる程度のブレなのだが、みいちゃんとの同居解消後から、やや範疇外だと思えるような異常性が垣間見えるようなっていく。

このような人物が若気の至りで終わらず、亡き友人をモデルとした漫画を描き、8年もの間連載を続けてぼちぼち売れるというのは傍目には十分に成功と言えるだろう。山田は夢を実現するのだが、反面、多大な負荷がかかり健康問題を抱えるようになってしまう。
そして、山田の漠然とした「漫画家になりたい」という夢を実現に向けて後押ししたのはみいちゃんの存在なのだが……つまり、みいちゃんという初めての友人を得た事をきっかけに早死にするという非常に皮肉的な結末になっている。

みいちゃんと出会わなければ、山田は本気で漫画家を目指す事もなく、そのまま成り行きで就職し、それなりに葛藤を抱えつつも、やがては欠落した社会性を補うようになっていったのではないだろうか?
また、会社員としての生活が合わず、鬱や適応障害を発症した場合でも、そこで初めて精神科を受診する事が出来、福祉に繋げられたはずだった。
しかし、漫画家としてそれなりに食える作家になった事により、一般社会との適切な接点を失い、福祉に繋がる事もなく心と身体を病んで亡くなってしまう。

みいちゃんにしろ山田にしろ、お互いに出会わなければあれほど早く死ぬ事はなかったのだ。
みいちゃんについてはあまりに多くの問題があり過ぎるため、数年の先送りぐらいにしかならなかったかもしれないが、山田はある程度普通に生きられただろう。
しかし、漫画家という特殊な仕事を選んだ事により、誰からも救われず破滅に向かってしまう。

家庭環境によって精神に歪みを抱えた子供に初めての友人が出来、夢を叶えるというのは、一般的には非常に望ましいはずの希望ある展開なのだが、みい山ではそれらが全て致命的な結果に繋がるという無情のラストを迎えるのだ。

こんな結末が用意されていると、誰が予想しただろうか。

「みいちゃんと山田さん」の物語としては非常に巧く、また経過を見ると納得の行くものであり、あの結末が妥当であり最も適切であったと思うのだが、おそらく希望ある終わり方ではなかった事や予定調和を崩している事、読者側が山田の持つ問題を見抜けていなかった事(※)、勧善懲悪や意義を求め過ぎている事などで駄作だと感じた人が多かったのではないだろうか。

私は「敢えて読者のぬる甘い期待を裏切った」事にこそ意義があり、非常に良かったと思っているのだが。


※どうも山田が賢いムーブをしており、みいちゃんの事をバカにしているので不快だと読んでいる人がかなりいたようなのだが、言動の端々に山田という人物の問題点が見え隠れしており、それとなく山田もみいちゃん側の人だと示唆されている。
が、そこに気付かない人が相当数おり、みいちゃんと山田さんの評価が割れる原因の一つとなったようだ。
ハイコンテクストな物語は読み手のアンテナが試されるので、どうしても誤読されがちにはなるのだが、本来そうした物語が向かない人にまで届いてしまった事が最大の誤算だったのではないかと思う。


(追記)現実に、問題のある家庭に育ったが見事克服したという人には一人も出会った事がない。そうした人たちは、還暦過ぎてもなにかしら問題(各種パーソナリティ障害、愛着障害等)を抱えており、生まれや育ちの悪さに呪われながら生きている。
しかしそれすら生存者バイアスに過ぎず、福祉の網から零れ落ち、若年で亡くなった者も少なくなく、それが「みいちゃんと山田さん」なのだろうと思う。


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