【番外編②】日系社会の光と影——在住7年が語るコミュニティの実態

パラグアイ日系社会の光と影——80年の歴史が作ったコミュニティの実態
番外編② / 無料公開



定期的に行われている日本風のお祭り

前回の第6回で、こんなことを書いた。

「現地の日系人は、日本から来た日本人ではない。顔が日本人に見えても、価値観・商習慣・人間関係の作り方は南米のものだ」

この一文に対して、いくつかの反応をもらった。「もう少し詳しく聞きたい」という声が多かったので、今回はこのテーマを丸ごと一本書くことにした。

移住を考えるなら、避けては通れない話だ。


パラグアイ日系移民の歴史——まず知っておくべき背景

パラグアイへの日本人移民の歴史は1936年に始まる。

戦前・戦後にわたって多くの日本人が入植し、ラ・コルメナ、コロニア・イグアス、ラパスなどの農業移住区を切り拓いた。彼らは荒地を耕し、大豆・小麦・綿花の農業で基盤を築いた。その苦労と功績は、本当に頭が下がるものだ。

現在のパラグアイには約3万5千人の日系人(日本人+日系2〜4世)が暮らしており、南米の中でもブラジル・アルゼンチンに次ぐ規模の日系社会を形成している。

ただし、ここで重要なことを理解してほしい。

今のパラグアイ日系社会の中心は、日系3世・4世だ。
彼らの多くはスペイン語とグアラニー語で育ち、パラグアイの文化の中で生きてきた。日本語を話せる人は少数派になっている。
「日系人=日本人的な価値観を持つ人」という前提はもはや成り立たない。


コロニア・イグアスの日本人学校の様子

日系コミュニティが持つ「光」の部分

まずポジティブな面から書く。
日系コミュニティには、移住者にとって本当に価値のある資産がある。

農業インフラとノウハウ

80年以上かけて築いた農業基盤は本物だ。
日系農協、農業技術、流通ネットワーク——これらは移住者が農業に関わろうとするとき、大きな助けになる。

日本語環境

日本語補習校、日本語新聞(ニッポン)、日本文化センター——こうした施設が今も機能していることは、特に子どもを持つ移住者にとって貴重だ。「子どもに日本語を学ばせたい」という移住者には、日系移住区が選択肢になる理由がここにある。

移住初期のサポート

コロニア・イグアスなどの日系移住区では、移住者を受け入れる土壌がある。右も左も分からない移住初期に、日本語でコミュニケーションできる環境があることの安心感は大きい。


日系コミュニティが持つ「影」の部分——ここが本題だ

光があれば影もある。
ここからが、日本のネットやブログには書かれていない話だ。

「日本人だから安心」という思い込みが最も危険

日系3世・4世は、南米で生まれ、南米の文化で育った「南米人」だ。日本の「和」の文化、「建前と本音」の使い分け、「損をしても関係を大切にする」という価値観、いわゆる「道徳」だ——こういったものを共有している保証はない。

商取引において「相手が日本人の顔をしているから信頼できる」という判断は、パラグアイでは通用しない。
実際に私の周囲で、日系人との金銭トラブルに巻き込まれた日本人移住者を複数見てきた。

閉鎖的なコミュニティの構造

長い年月をかけて形成されたコミュニティは、外部からの人間に対して慎重だ。「日本から来た」というだけではコミュニティの中核には入れない。
人間関係は濃く、噂が早く広まる。一度信頼を失うと、そのコミュニティの中で生きていくことが非常に難しくなる。

世代間・派閥間の対立

どのコミュニティにも内部の対立はあるが、長い歴史を持つ日系社会も例外ではない。「○○家と△△家は仲が悪い」「あの農協とこの農協はライバル関係にある」——そういった内部事情は、外から来た人間には見えにくい。
知らずに片方に肩入れすると、もう片方との関係が壊れる。
実際にコロニア・イグアス内でも日系人同士での村八分的なことを聞いたことがある。

「日本人移住者」を都合よく使おうとするケース

残念だが、これも現実として書いておく。
「日本から来た移住者」を、ビジネス上の利益のために利用しようとする人間が、日系社会の中に存在することも事実だ。
現に私も事業を開始する際の土地購入時にとんでもない金額を吹っ掛けられた。もちろん断ったが驚くべきことにその土地は海外企業にさらに高い値段で売られていたのだ。
親切にしてくれる人が、実は何かを期待している——というケースを経験した移住者は少なくない。


私がコミュニティと距離を置いた理由

第6回でも書いたが、私はいわゆる日系人コミュニティから意図的に距離を置いてきた。

理由はシンプルだ。

「同じ顔だから安心」という先入観を持ったまま行動すると、判断が鈍くなる。私はパラグアイで生きていく上で、「日本人」であることを特別な切り札にするのではなく、現地の人間として一から信頼関係を作る道を選んだ。

7年間かけて構築した現地パラグアイ人とのコネクションは、今の私の生活の基盤になっている。スペイン語でのコミュニケーション、パラグアイの文化への理解、現地の人間関係のルールを体に染み込ませること——これが結果的に、日系コミュニティに依存するより安定した基盤を作ってくれた。

これは「日系人と関わるな」ということではない。
ただ、「日本人の顔をしているから信頼できる」という思い込みを捨てることが、パラグアイで長く生きる上では重要だということだ。


熱気あふれる市場はたくさんの人とのコミュニケーションの場だ

では、日系コミュニティとどう付き合うか

距離を置くことと、完全に切り離すことは違う。日系コミュニティとの適切な距離感を持つことが重要だ。

うまく活用できる場面

  • 農業・農地に関する情報収集(日系農協のネットワークは本物)

  • 子どもの日本語教育環境(日本語補習校)

  • 移住初期の生活立ち上げのサポート(日本語が通じる環境)

  • 日本の食材・日用品の入手(日系スーパー・輸入食品店)

慎重になるべき場面

  • 金銭が絡むビジネス・取引(相手の素性を十分に確認してから)

  • 不動産の紹介・仲介(紹介者の利益が絡んでいる可能性を常に念頭に)

  • 「いい話がある」という誘い(特に移住初期は慎重に)


日系社会を正しく理解することが、移住の成否を分ける

パラグアイの日系社会は、80年以上の歴史と努力の積み重ねによって作られた、本物のコミュニティだ。その存在自体はパラグアイでの日本人移住を支える大切な財産であることは間違いない。

ただし、そのコミュニティを「日本の延長線上にあるもの」として捉えると、必ずどこかでギャップに直面する。

「パラグアイの日系社会は、南米の文化の中で生きてきた人たちが作ったコミュニティだ」——この理解を持った上で関わることが、移住者として正しい姿勢だと私は思っている。

日系社会を過度に期待せず、過度に警戒せず、適切な距離感で付き合う。これが7年間で私がたどり着いた答えだ。


次回予告

第7回「パラグアイ移住——向いている人・向いていない人」(有料 ¥980)

シリーズを通じて書いてきたことの集大成として、「結局、どんな人がパラグアイ移住に向いているのか」を正直に書く。
移住を決断する前に読んでほしい記事だ。


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