「プレステージ」はマジシャン対決映画ではない!“人間とは?”という哲学問答
【 手品の3つのパート 】
①「最初のパートは“確認(プレッジ)”。何でもない物を見せる。
カードや鳥や、あるいは人。何かを見せて本物かどうか観客に
確かめさせる。タネも仕掛けもないと。だか、もちろんタネはある」
②「2番目は“展開(ターン)”。その何でもない物で驚くことをしてみせる。
タネを探しても観客には分からない。実は観客は何も見ていない。
何も知りたくない。騙されていたいのだ。だが、拍手はまだだ。
消えるだけでは十分じゃない。それが戻らねば…」
③「だからどんなマジックにも3番目がある。もっとも難しい。
復活だ。人はそれを“偉業(プレステージ)”と呼ぶ」
【 クリストファー・ノーランの手品映画 】
実はこの映画は観ていなかった。
『メメント』『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』
『インセプション』『インターステラー』『ダンケルク』
『TENET テネット』『オッペンハイマー』
ノーラン作品はみんな観ていると思っていたのだが
これ(プレステージ)は観ていないどころか “知らなかった”。
マジシャンが出てくる映画を検索していたら
「ん?ノーラン?もしかしてクリストファー・ノーラン?」
“あの” クリストファー・ノーランだった。
ノーランのマジシャン映画とはどんなものだろうか…?と
さっそく配信で観てみた。
2人のマジシャンの対決映画!・・・ではなかった。

【 送電方式規格争いの時代 】
トーマス・エジソンと二コラ・テスラが送電方式を直流か交流かで
争っていた1880年代後半から1990年代前半の時代が背景になっている。
発明家だろうがマジシャンだろうがその世界で一番になろうとすれば
やることはそんなに変わらない。ライバルとの足の引っ張りあいだ。
エジソンもテスラも技術確立・事業拡大のための資金を得るために
騙してでも投資家を募って金を調達することに奔走した。
技術者は「このテクノロジーは絶対安全だ」と豪語した。
手品師は「このマジックはとても危険だ」とつぶやいた。
どちらも自分が提供する物の価値を最大限高く見せるための演出だ。
その裏では互いの技術を盗み、真似し、揶揄し、貶める。
エジソンとテスラの争いについては映画「エジソンズ・ゲーム」を
是非観てもらいたい。ベネディクト・カンバーバッチがかなり癖ツヨの
エジソン役を演じていて平均的日本人の持つエジソン像が変わります。

【 突き詰めた先にあるものは…? 】
この劇中でハリーから「本物が見たければテンリー劇場に行け。あの中国人
奇術師(チャン・リン・スー)は本物だ」と言う。実際のチャン・リン・スー
は、アメリカ出身の奇術師ウィリアム・エルズワース・ロビンソンの芸名。清朝風の衣装をまとい、中国人魔術師を演じることで名声を得た。劇中で
アルフレッドが行っていた「弾丸キャッチ」を得意演目としていたが1918年3月にロンドンのウッドグリーン・エンパイア劇場の銃弾事故で死亡した。彼はヨーロッパの興行界が「中国人奇術師」を求めていたことを知り、頭を剃り、中国風の衣装を身に着け、舞台上では英語を話さず徹底して中国人として演技し、報道対応でも通訳を介し最後まで中国人として振る舞った。
この映画の2人の主人公、ロバートは最初の妻を演技中の事故で失い、助手としてスカウトされたオリヴィアにはアルフレッドの瞬間移動のタネを盗む
ため「アルフレッドの助手になれ」と命令し、愛想を尽かされる。
アルフレッドは “瞬間移動” の “タネ” を徹底的に秘匿する。その “秘密” の
ために妻のサラは次第に精神的に追い詰められ、自らの命を絶ってしまう。
残された幼い娘の行く末はどうなるのか・・・。

※「ロープ」を使った手品は数多ある。
この映画での「ロープ」は象徴的な使われ方をしている。
冒頭でロバートの妻が演技中の事故死はロープの縛り方が原因だ。
アルフレッドの妻のサラの自殺はロープで首を括っている。
アルフレッドの刑は “death by hanging”
そしてロバートとアルフレッド、サラやオリヴィアの関係性は
まさに “tightrope” だ。
【 ノーランの手品映画は歴史とSFと哲学の融合だった 】
“ アルフレッド(クリスチャン・ベール)が少年に語りかけるセリフ ”
「タネは内緒だ。みんな知りたがるけど教えたとたん、みんな去る。
みんな、、、去る。わかるかな? タネで人は喜ばない。
それを使う手品こそが全てだ。」
“ ハリーがロバートに言ったセリフ ”
「彼はマジシャンだ。信用はできんよ。」
“ アルフレッドの独白 ”
「いや、難しかった。2人でひとつの人生を生きるなんて。」
「僕らは半分の人生でよかった。満足だった。」
「完璧なトリックには犠牲も必要だ。」
“ ロバートの独白 ”
「自分は落ちて死ぬ方なのか、現れる方なのか…
その恐ろしさがわかるか?」
「観客は真実を知っている。世界は単純で、みじめで、すべて決まり切っている。だから彼らを騙せたらたとえ一瞬でも驚かすことができればその時君も素晴らしいものを見る。知ってるだろ。観客のあの表情」
“ ハリーのモノローグ ”
「タネを探しても観客には分からない。観客は何も見ていない。
何も知りたくない。騙されていたいのだ。」
最後に映るシルエットは・・・
【 余談 】
①クリスチャン・ベールのチャイナ・リングが見れる貴重な映画
開始30分と53分のシーンで演じている(全然受けてないのが悲しい)
②ハリーが考案した新しい鳩のバニッシュとアピアリングのギミックが
まるで星飛雄馬の大リーグ養成ギプス!
③テスラの実験に猫を使うシーンが、時代的に “シュレジンガーの猫” を
想像させる。そう、あの思考実験だ。
「光が左を通ったら毒ガスが出て、右を通ったら毒ガスは出ない仕掛けを
ネコと一緒に箱の中に入れる。外でスイッチを押したら光が放出される
ようにしてスイッチを押して箱を開けてみる。ネコは生きてる?それとも
死んでる? それともどちらの可能性も残される?もし左も右も光の行方と
して可能性が残るのであれば、箱の中のネコは生きている可能性も死んで
いる可能性も残されるという状況になる・・・。
この思考実験の重要なポイントは『区別ができるかどうか』。
※まさにこの映画の重要なテーマだ。だから “猫” でなければならない。

ノーラン作品はどれもみな上質のマジックだ。
観客は騙されることを楽しみにしている。
どの映画もおもしろいなぁ〜!
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