なぜおしゃれなCMは無駄なのか。選ばれるブランドが実践するマーケティング術
何千万もかけた「お洒落なCM」が、誰の心も動かさなかった日
僕が初めてプロモーションの担当になった時、頭の中はお花畑でした。
「誰もが息を呑むような、めちゃくちゃオシャレでクールなCMを作ってやるぞ」と意気込んでいました。
当時の僕は、本気でそう思っていたのです。有名なタレントを呼んで、クリエイティブを細部までこだわり、抽象的でカッコいいキャッチコピーをつけます。それを見たお客様は感動し、こぞって商品を買ってくれます。そう信じて疑いませんでした。
でも、現実は想像以上に冷酷でした。
何億円という予算を突っ込み、社内では「お、なんか今っぽいね」とチヤホヤされた映像が世に出た結果。
売上は、ピクリとも動きません。
とても焦りました。なんで?こんなにお洒落で、こんなにお金をかけているのに、、、
エゴサをしてみると、そこにあったのは無反応です。あるいは「動画見てる時に流れてきて邪魔」という声ばかり。
そう、お洒落な映像は、はただの「ノイズ」でしかなかったのです。
自分が家でYouTubeを見ている時のことを、完全に棚に上げていました。広告が流れてきたら、5秒待って即座にスキップボタンを連打している自分自身の姿を、都合よく忘れていたのです。
「好感度が高いから買う」は嘘? 誰もがプッチンプリンを選ぶ理由
ある日、先輩から一言。
先輩:好感度が高いから買うって、誰が決めたの?
僕:えっ。いやいや、好感度が高かったら買いたくなるじゃないですか。普通。
先輩:お前さ、コンビニでお菓子買う時、どうしてる?『このブランドはお洒落だから買おう』って思って選んでる?結局、色々迷った挙句、いつも食べてるプッチンプリン買ってない?
僕:確かにおっしゃる通りで、お洒落なパッケージを眺めてセンスいいなとは思います。でも、結局レジに持っていくのは、見慣れたプッチンプリンです。おしゃれだなって素通りして、プッチンプリンを買いますよね。みんな、プッチンプリンが好きですよ。でもそれは「お洒落だから」じゃありません。
先輩:自分が買ったことのあるものの好感度が上がることは観測されているんだけど、好感度が高いから買うってことは、実はあんまりないんだよね。
みんな自分のお母さんが好きだよね。でも、お母さんが好きだからそこに生まれてきたわけじゃない。身近なものになったから好きになってる。それと同じで、買って使ってみたら良かったから好きになるんだよ。最初の一歩に好感度なんて、実はあんまり関係ないんだよね。
売れる広告は「連呼」と「ダサさ」でできている
じゃあ、あのお洒落な広告は何だったのでしょうか?
映像を駆使してすっごく技ありな方法で美味しさを表現するより、ただ画面のど真ん中で「うまい!うまい!」って連呼させた方が、結果的に売上が大きく伸びたというお話です。
行動経済学には、自分が所有したものや経験したものの価値を高く見積もるエンダウメント効果という概念があります。先輩が言っていた「身近なものになったから好きになる」もまさにこれです。
つまり、お客様に「好き」になってもらうためには、何よりも先にまず一度手に取って、試してもらう必要があるのです。
そして、その最初の「手に取らせる」というハードルを越えるために、お高くとまったお洒落なイメージは意味がないのです。
当時の僕は、商品の連呼なんてめちゃくちゃダサいと思いました。
そんなのクリエイティブじゃありません。バカにしてるのかとすら思いました。でも、数字は残酷なほど正直だったのです。
結局、みんな僕の作った「カッコいいブランド」なんか好きじゃないのです。ただの自己満足です。
脳のバグを突け!お客様を動かす最強の仕掛け
じゃあ、僕たちはどうやってお客様に選んでもらえばいいと思いますか?
悩み抜いた末にたどり着いたのは、すごくシンプルな事実です。
お客様が求めているのは「この企業は素敵ですよ」「安心安全ですよ」というフワッとしたアピールじゃありません。
「いつ、どんな時に、これを使えばいいのか」という具体的なシチュエーションなのです。
・誕生日会があった時、何を買っていきますか?
・子供に何かを買い与えようと思った時、何を選びますか?
お客様の頭の中でニーズが生まれた時に、パッと名前が出る商品ほど売れるのです。
例えば、「本を売るなら…」「バイト探しは…」と聞かれたら、パッと特定の会社名が浮かびますよね。
当たり前のようだけど、これこそが最強の作戦でした。
「もし〇〇したら、〇〇する(If-Then Planning)」という人間の脳のクセにも、ピタッとハマっています。心理学の世界でも最強の習慣化テクニックと言われている形です。
【要注意】ターゲットを絞りすぎると売上が落ちる罠
ただし、ここで一つ落とし穴があります。ターゲットを絞りすぎるとダメだということです。
「肩こり専門の〇〇」とか「クリスマスには〇〇」と狭くしすぎると、それ以外の時に思い出してもらえなくなってしまいます。
だから「仕事で疲れた時も」「週末のご褒美にも」と、覚えられる範囲で色々なシチュエーションを欲張って提示します。
「こういう時に使えばいいんだ」と思い出してもらえる回数が多ければ多い方が、結局は選ばれますから。
今回はCMに限ったお話ですが、
もし今、あなたが一生懸命何かを発信しているのに届かないと悩んでいるなら。一度、カッコつけるのをやめてみてほしいです。
相手の日常の「どの瞬間」に寄り添えるのか。それをただ、愚直に伝えるだけで、きっと景色は変わるはずですよ。
あなたは、自分が発信しているものが「いつ」使われるものか、相手の頭にパッと浮かぶように伝えられていますか?
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