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封じられた四通の手紙 1-3

 第三節 編集部の闇

編集部の蛍光灯は、昼間の光に負けじと強く輝いていた。
だが、佐伯の目には、明かりは冷たく、硬質で、心の隙間を照らすことはできない。
机の上に積まれた書類はまるで迷路のようで、通路を探すたびに数字と文字が目を刺す。
奥の机に三上が座る。
深く黒いスーツに身を包み、煙草の煙が周囲に漂う。

「お前、また例の件か?」
「……ええ、ネット上の話です。都市伝説の類かもしれませんが……」

三上は肩をすくめ、書類に目を落とす。

「オカルトは数字になる。だが真実にはならん。アクセス数だろう、コメント数だろう、金と評価だ。だが、現実の死は数字じゃ計れんのだぞ」

佐伯は息をつく。
その冷たさに、背筋が少しだけ凍った。
編集部に流れる空気は、常に現実を優先させる。
だが、佐伯の胸には、もう一つの“声”があった。

――黒い影の囁き。

無意識のうちに、彼はその声に代筆されるようにblogを書き始めていた。
キーボードに指を置くと、文字が浮かび上がる。
自分が書いたつもりなのに、どこか他人の手が混ざったような感覚。

佐伯は画面に向かい、blogの下書きを開く。
タイトルはいつも通り、無機質で、冷静に見える文面。
だが、文章の端々に、不可解な予兆がにじむ。

「黒封配達、死を招く噂――」

指先が震える。
カーソルを合わせ、送信ボタンに触れる。
小さな振動が手に伝わる。
まるで、誰かが指先に息を吹きかけているようだ。
佐伯は一瞬、目を閉じた。

「……俺、何を書いてるんだ?」

 だが、閉じた目の奥で、影はさらに囁いた。

 ――“届けろ、選ばれし者に”

震える指で、彼は送信ボタンを押す。
画面上の数字が瞬時に跳ね上がる。
アクセス数、コメント、いいね。
その増加の速度は、まるで誰かが背後から数字を操っているかのようだった。

三上が低く笑う。

「やれやれ、記事を書くと数字は伸びる。だが、お前はただの数字屋だ」

佐伯は視線を下げる。
言葉の裏にある冷たさに、身を縮める。
数字の海の中で、現実の生はすぐに見失われた。

だが、数字を超えて、確かに存在する“何か”を、佐伯だけが感じていた。
振り返ると、窓の外には夜の街灯が濡れた路面に映り、揺れている。
その揺れの中に、かすかに黒い人影が見えた気がした。

いや、見えたわけではない。
でも、視界の端に、確かにそこにいるような感覚が残る。

佐伯は椅子に深く腰かけ、再びblogの画面を開く。

手はまだ震えている。
指先に、黒い影の冷たい空気を感じながら、文字を打ち込む。
無意識のうちに書かれた文章は、次第に“誰かの代筆”のように完成されていく。
文字は現実に呼応し、誰かを選ぶために存在しているかのようだった。
その夜、編集部の蛍光灯はいつもより冷たく光り、数字だけが静かに増え続けていた。

 ――佐伯の背後で、黒い影が動く。

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