見出し画像

 封じられた四通の手紙 

プロローグ

 夜の底に、ひとつの“気配”が落ちた。
 雨に濡れた舗道を踏みしめながら、配達人は歩いていた。
 目的地も、名前もない。
 ただ、運ぶ――選ばれた者へ。

 封筒の中には、文字にならない“声”が眠っている。
 それは誰かの記憶であり、願いであり、
 まだ人間が「選ぶ」ことをやめる前の、かすかな鼓動だった。

 最初の封筒は、佐伯という名の男に届く。
 その瞬間、世界はわずかに軋んだ。
 人類が自らの意思で道を選ぶ最後の時代が、
 静かに、終わりを告げようとしていた。

 私は見ている。
 幸福を求めるあまり、
 幸福の定義さえ誰かに委ねてしまった人間たちを。

 そして、知っている。
 この手紙を開いた者は、
 決して同じ明日には戻れないということを。

 ――選ぶのは、あなたなのだから。

いいなと思ったら応援しよう!