「いや、それは違う」が口癖のリーダーがチームの成長を止めている話
これまで、九州の瀬瑠巣(せるす)社長のチームを一緒に立て直してきました。 失敗を出せるようになり、課題を絞れるようになり、ツールも少しずつ回り出した。
そんなある日、社長がまた渋い顔でやってきました。 今回は自分のことではなく、抜擢したリーダー志免木 莉子(しめき りこ)の話です。

「一番できる子を、リーダーにしたんです」
瀬瑠巣社長:よしださん、志免木(しめき)っていう28歳がおるんです。早◯田出て、うちに来てくれて。
よしだ:優秀そうですね。
瀬瑠巣社長:優秀なんです。仕事はきっちり、数字も出す。だから思い切ってリーダーに据えたんですよ。
よしだ:いいじゃないですか。
瀬瑠巣社長:それが……最近、会議で誰もしゃべらんようになってきまして。
よしだ:誰もしゃべらない。
瀬瑠巣社長:あの子が仕切るとピシッとするんです。ピシッとしすぎて、シーンとするんです。
よしだ:……一回、会議を見せてもらっていいですか。
見学して、わかったこと
会議に混ぜてもらいました。
志免木さんは、たしかに優秀でした。頭の回転が速い。
ただ、ひとつだけ、ずっと気になったことがありました。
メンバー「あの、この業種に絞ってアプローチしてみたらどうかと……」
志免木「いや、それは前に試して効果なかったです」
メンバー「訪問のタイミングを早めるのは……」
志免木「いや、それより先にやることあるでしょ」
メンバー「じゃあ、資料を……」
志免木「いや、そこじゃないです」
全部、「いや」から始まるんです。
しかも内容は、だいたい正しい。 だから誰も反論できない。
そして15分後には、誰も何も言わなくなりました。

1on1。まず、彼女の話を全部聞く
よしだ:志免木さん、お疲れさまでした。ちょっと話せますか。
志免木:はい。……何か、問題でも?
よしだ:いや、まず志免木さんの話を聞かせてほしくて。リーダーやってて今、一番しんどいことって何ですか。
志免木:……メンバーが、意見を出さないことです。
よしだ:出ないと、困りますよね。
志免木:困ります。私ばっかり考えてる。リーダーって、こんなに孤独なんですね。
よしだ:そうですね。それ、しんどいですよね。
志免木:……はい。正直、しんどいです。
「気づいてました?」
よしだ:志免木さん、さっきの会議、実はひとつだけ気になったことがあって。
志免木:なんですか。
よしだ:志免木さんの返事の一言目、全部「いや」でした。
志免木:……え。
よしだ:「いや、それは前に試した」「いや、そこじゃない」。全部、否定から入ってました。
志免木:……でも、筋の悪いことには悪いって言わないと。失敗が目に見えているんですから。
よしだ:言っていいんです。中身は正しかったので。
志免木:じゃあ何が問題なんですか。
よしだ:順番です。
否定から入ると人がやめること
よしだ:人って、一言目に「いや」って否定されると、何が起きると思います?
志免木:……不機嫌になる、とか。
よしだ:もっと手前です。次から、言わなくなるんです。
志免木:……。
よしだ:正しさで返されるほど、「言っても無駄」と学習していく。3回続いたら、もう口を開かないです。
志免木:……メンバーが意見を出さないのは。
よしだ:志免木さんが、そう教えてしまったんです。悪意なく。
志免木:……。
よしだ:しかも一番きついのは、志免木さんが今いちばん困ってることが「意見が出ないこと」だってことです。
志免木:……自分で、自分の首を。
実はこれ、型があります
志免木:じゃあ、どうすればいいんですか。ダメなものをダメって言うなってことですか。
よしだ:違います。順番を変えるだけです。しかもこれ、ちゃんと型があるんですよ。
志免木:型。
よしだ:もともと社会福祉の世界で確立された、相談援助の技法です。バイスティックの7原則っていうんですけど。
志免木:……福祉?営業の話ですよね。
よしだ:いま、ビジネスの世界で注目されてます。1on1が流行ったのも、たぶんこの流れです。
志免木:……。
よしだ:実は私、大学が社会福祉学部だったんです。今日は、相談援助技法のうち3つだけ持って帰ってください。
① まず聞く、まるごと受け取る
よしだ:一つ目。それは「傾聴と受容」です。
志免木:聞く、ですか。
よしだ:はい。相手が言い終わるまで、口を挟まない。そして「そう思ったんですね」と、いったん全部受け取る。
志免木:……間違ってても?
よしだ:受け取ることと、賛成することは別です。「わかった」は「その通り」じゃない。
志免木:……あ。
よしだ:志免木さん、たぶんそこが混ざってます。受け取ったら負けだと思ってません?
志免木:……思ってます。
よしだ:(笑)正直でいいですね。
② 「正しいかどうか」で、裁かない
よしだ:二つ目。非審判的態度。
志免木:……審判しない? でも、リーダーって判断する仕事ですよね。
よしだ:します。めちゃくちゃします。ただ、判断の中身が違うんです。
志免木:中身?
よしだ:志免木さんがやってる判断って、「その意見は正しいか、間違ってるか」ですよね。
志免木:……はい。合ってるなら通すし、違うなら却下します。
よしだ:リーダーの判断は、そこじゃないんです。「どっちに進んだら、より良い結果が出そうか」なんです。
志免木:……似てません?
よしだ:全然違います。正解は、やってみるまで誰にもわからないので。
志免木:……。
よしだ:志免木さんが「いや、それは違う」って却下したやつ、本当に間違ってたんですかね。
志免木:……効果が薄いと思ったから。
よしだ:思った、ですよね。やってないから、わからない。
志免木:……わからない、です。
よしだ:だから、正誤で裁いた瞬間に嘘になるんです。誰も未来を知らないので。
じゃあ、リーダーは何を判断するのか
志免木:じゃあ、全部やれってことですか。それは無理です。
よしだ:無理です。時間も人手も有限なので。だから優先順位をつけて選ぶ。そこがリーダーの仕事です。
志免木:……優先順位をつけて選ぶ。
よしだ:Aをやるなら、Bはできない。その中でどれが一番、全体として効くか。今月だけじゃなく、半年後まで見て。
志免木:……部分じゃなくて、全体。
よしだ:そうです。目の前の一案件じゃなくて、チーム全体。今週じゃなくて、中長期。それを見れるのは、リーダーだけなんです。
志免木:メンバーは、自分の担当しか見えてないから。
よしだ:はい。だから意見が部分最適になるのは当たり前で、それは能力が低いからじゃなくて、立ち位置の問題です。
志免木:……あ。
よしだ:だから、こうなります。意見は全部いったん受け取る。そのうえで、全体を見て優先順位付けをする。
志免木:……却下するのは、同じでは?
よしだ:伝わり方が180度違います。「あなたの意見は間違い」と、「今回は優先順位の関係でBを先にやる」。
志免木:たしかに……後者なら、次も意見を言えますね。
よしだ:そうなんです。裁かれてないので。しかも理由が優先順位なら、メンバーも全体を見る練習になります。
志免木:……却下の仕方で、育つかどうかが変わる。
よしだ:はい。志免木さん、飲み込み早いですね。
志免木:……当たり前です。
③ 最後は、本人に決めさせる
よしだ:三つ目。自己決定。
志免木:……決めるのは、私じゃなくて?
よしだ:答えを渡すと、その人は次も答えを待ちます。自分で決めた人だけが、自分で動くんです。
志免木:でも、間違った選択をしたら。
よしだ:そこがリーダーの腕の見せどころです。
志免木:どういう意味ですか。
よしだ:失敗しても大ケガしない挑戦に、そっと寄せるんです。禁止するんじゃなくて、傷が浅く済む形に調整する。
志免木:……許可じゃなくて、調整。
よしだ:はい。挑戦を止めるのがリーダーの仕事じゃない。挑戦のサイズを整えるのが仕事です。例えば資料の改善なら、まずは自分で作ってみて、自分の商談で試してみるとか。
志免木:そうすると仮に効果が無くても全体には影響しない……。
よしだ:そうです。そして、小さな失敗から学べることは大きな成功よりもたくさんあったりします。
挑戦と失敗が許されると、チームは勝手に育つ
志免木:でも……正直、甘やかしに聞こえます。
よしだ:逆です。挑戦と失敗が受け入れられるチームって、放っておいても伸びるんですよ。
志免木:なんでですか。
よしだ:試す回数が増えるからです。試す回数が増えれば、当たりを引く回数も増える。
志免木:……確率の問題。
よしだ:そう。逆に否定から入るチームは、試す回数がゼロに近づいていく。安全に見えて、一番負けます。
志免木:……。
よしだ:しかも、そのほうがメンバーは面白いんです。やりがいとか、心理的安全性とか、最近よく言われるやつ。全部ここにつながってます。
「別に、納得したわけじゃないですよ」
志免木:……よしださん。別に、納得したわけじゃないですからね。
よしだ:はい。
志免木:ただ、悔しいので。私が「いや」って言うせいで意見が出ないなら……それ、私が負けてるってことじゃないですか。
よしだ:まあ、そうですね。
志免木:……試すだけ、試します。一言目に「いや」を言わない。それくらいなら、できます。
よしだ:それで十分です。
志免木:言っときますけど、うまくいったら、よしださんのおかげじゃなくて私の実力ですから。
よしだ:(笑)もちろんです。
数週間後、社長から
瀬瑠巣社長:よしださん、志免木が変わりました。
よしだ:おお。
瀬瑠巣社長:この前の会議、あの子が「なるほど、それで?」って言うたんです。
よしだ:一言目が変わったんですね。
瀬瑠巣社長:そしたら、黙っとったメンバーがぽつぽつしゃべり出して。今までなかったアイデアが3つも出まして。
よしだ:出なかったんじゃなくて、出せなかっただけなんです。
瀬瑠巣社長:……私も、たぶん「いや」から入ってましたわ。ずっと。
よしだ:社長。それに気づけた時点で、もう大丈夫です。
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データドリブンコンサルタント 吉田 龍
営業・製造業・飲食店経営を経て、LINEヤフーグループの株式会社一休へ。関西支社長として30名規模の営業組織を統括し、前年比120%超の成長へと導いた。その後、介護・福祉領域のAI研究開発・DXコンサルティングを手がけるスタートアップで営業企画室長兼マーケティング責任者を務め、リード獲得10倍・商談数300%増を実現。音声認識AIを用いた新規事業開発を牽引。現在はフリーランスとして、企業・自治体・プロスポーツチームを対象に、営業戦略、マーケティング、データ分析、DX推進、組織改善を横断的に支援している。数字に基づく意思決定と、現場に根づく仕組みづくりが強み。私生活ではアルトサックス演奏、トレイルランニング、無農薬野菜づくりなど、身体感覚と長い時間軸を大切にした活動を続けている。
支援実績
☆自治体複業アワード2026 業務改善・DX部門賞 受賞
https://forseries.aw-anotherworks.com/public-award2026
・福岡県大刀洗町 ブランディング事業データ分析アドバイザー
・神奈川県藤沢市 市民意識調査データ分析アドバイザー
・長崎県佐世保市(Sasebo Growth)事業戦略コンサルタント
・宮崎県 ふるさと納税戦略支援パートナー
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