第四話 陰
3人目の面接を誰が担当するか。その話になったとき、僕は少しだけ考えた。
紋谷の面接は、とーまといちろーとこはく。
三刀の面接は、てったとみつるとかなた。
なら、残っているのは僕とれおんとけーと。別に綺麗に三人ずつ分ける必要はなかったのだけれど、結果としてそうなった。
「この三人、面接向いてなくない?」
面接開始十五分前
僕が言うと、けーとが手元の紙から顔を上げた。
「誰がですか?」
「僕ら」
「俺は向いてると思いますけど」
「けーとが?」
「少なくとも嘉孝さんよりは」
「なんで?」
「さっきから質問考えてるだけで、全然まとまってないじゃないですか」
言われて、僕は手元を見る。大学ノートを一枚破っただけの紙に、思いついた質問が並んでいる。
勤務可能日
アルバイト経験
キッチンでも大丈夫か
年末年始
志望動機
ここまではいい。その下。
最近ハマっていること
自分の長所と短所
友達からどんな人と言われるか
自分を動物に例えるなら
「最後の方いらないっすね」
れおんが横から覗き込んだ。
「やっぱり?」
「動物とか聞いて何が分かるんすか」
「面接っぽいかなって」
「面接っぽくする必要あります?」
「僕ら面接官だよ?」
「面接官っぽく振る舞ったところで、俺ら全員バイトじゃないですか」
「それはそうなんだけど」
れおんが僕の紙を取った。
「そもそも、こっちが変に構えたら向こうも構えるでしょ。勤務条件だけちゃんと確認して、あとは普通に喋ればよくないですか」
「普通に喋って人柄って分かる?」
「面接用の答え聞くよりは分かるんじゃないですか」
なるほど。れおんは、こういうところで妙にまともなことを言う。
「けーとは?」
僕が聞く。
「何がですか」
「聞きたいこと」
「遅刻するかどうか」
「『します』って答える人いないでしょ」
「じゃあ、どうやって見分けるんですか」
「分かんない」
「それが一番大事じゃないですか」
「確かに」
けーとは本気で悩み始めた。
「前のバイトで遅刻したことありますか、とか」
「正直に答えるかな」
「『ないです』って言われたら?」
「信じるしかない」
「意味ないですね」
「面接ってそういうもんじゃない?」
「難しいですね」
「でしょ?」
少しだけ勝った気がした。けれど、そもそも何の勝負なのか分からない。
「俺、一個聞きたいことあります」
れおんが言った。
「何?」
「なんでエニあし選んだか」
「志望動機ね」
「いや、そんな大げさなのじゃなくて。駅前だけでも居酒屋いっぱいあるじゃないですか。なんでここなのかなって」
「それは僕も気になる」
「時給じゃないですか」
けーとが言う。
「夢ないなあ」
「バイト選ぶ理由なんてそんなもんじゃないですか」
「けーとは何でここ入ったの?」
「家から通いやすかったからです」
「ほら時給じゃないじゃん」
「時給も見ました」
「結局見るんだ」
「大事ですよ」
そのとき、入口の扉が開いた。三人とも、同時にそちらを見る。
「あの……」
黒い服を着た男の子が、扉の前に立っていた。
「すみません。今日、アルバイトの面接で来たんですけど」
僕は時計を見る。予定の五分前。
「奥谷くん?」
「はい。奥谷です」
三人目 奥谷夕が来た。
*
最初に目についたのは、髪だった。黒くて、少し重たい。特に前髪が長く、目の半分くらいまで隠れている。だから、どこを見ているのかが少し分かりづらい。
服装もかなりラフだった。暗い色のスウェットに、ゆったりしたパンツ。僕らが服装を指定していなかったので、何も間違ってはいない。
ただ、面接に来たというよりは、大学の空きコマにコンビニへ来た人のように見えた。
「どうぞ。こっち座って」
「失礼します」
奥谷は僕らの向かいに座った。
僕 れおん けーと
三対一。座ってから気づいた。
「……ごめん」
「はい?」
「三人並ぶと圧あるね」
奥谷が僕らを見る。
「ちょっとあります」
正直だった。
「ですよね。俺でも嫌ですもん、この並び」
「お前も面接官側だろ」
「だから分かるんですよ」
けーとが椅子を少し後ろへ引いた。
「これでちょっと減りました?」
奥谷がけーとを見る。
「……あんまり変わらないです」
「ですよね」
けーとは椅子を元の位置に戻した。
「まあ、そんな堅い面接じゃないから」
僕は言った。
「僕が鹿目。こっちが白石で、こっちが田中。全員大学生で、ここでバイトしてる」
「社員の方じゃないんですか?」
「違うよ」
「店長さんは?」
一瞬だけ、三人とも黙った。
「……いない」
僕が答えた。奥谷が顔を上げる。
「今日だけですか?」
「いや。今、店長自体がいない」
「そんなことあるんですか?」
「僕らもそう思う」
れおんが少し笑った。
「ちょっと事情があって辞めちゃったんですよ。今は本社の人に助けてもらいながら、俺らで店回してる感じです」
「じゃあ、面接も皆さんで?」
「そう」
僕は頷いた。
「だから僕らも慣れてないんだよ。変な質問しても許して」
「変な質問する予定なんですか」
「一個消された」
「嘉孝さんが『自分を動物に例えると何ですか』って聞こうとしてました」
けーとが言った。
「言わなくていいよ」
奥谷が僕を見る。
「それ、答えた方がいいですか」
「答えなくていい。二人から不評だったから廃止になった」
「ちなみに嘉孝さんは何なんですか」
れおんが聞く。
「僕?」
「自分で考えた質問なんだから答えられるでしょ」
「……フクロウ?」
「なんでですか」
「なんとなく」
「一番ダメな答えじゃないですか」
奥谷が少し俯いた。口元が動いた。たぶん笑ったのだろう。最初に入ってきたときより、少しだけ肩の力が抜けている。
「じゃあ、普通の質問からいこうか」
僕は履歴書を見る。
「コンビニでバイトしてたんだね」
「はい。高校のときです」
「どれくらい?」
「一年半くらいです。大学入る前に辞めました」
「なんで辞めたの?」
奥谷は少し考えた。
「大学始まったら生活変わるかなと思って。一回何もない状態にしてから、新しく探したかったんで」
「ああ、それは分かるかも」
「あと、単純にちょっと飽きました」
「そっちが本音?」
「半々くらいです」
れおんが笑う。
「コンビニって何するんですか? レジ以外」
「品出しとか、掃除とか、揚げ物作ったり。あと宅配便とか、公共料金とか。覚えること結構ありました」
「忙しい?」
けーとが聞いた。
「時間によります。朝とか夕方は結構。でも、暇な時間は本当に暇でした」
「じゃあここも似てるかも」
僕は店内を見る。今はまだ開店前で、当然客はいない。
「居酒屋も差がすごいから。火曜日とか、今日店開ける意味あるのかなってくらい暇な日もあるし、金曜日は店燃えてるのかなってくらい忙しい」
「燃えてるんですか」
「比喩ね」
「分かってます」
「あ、分かってた?」
「はい」
「嘉孝くん、たまに出るこういうの本当に分からないから」
れおんが言った。
「僕そんなに信用ない?」
「ちょっとだけ」
奥谷の口元が、また少し動く。笑いのポイントが低いのか高いのか、まだよく分からない。
「じゃあ」
れおんが少し前に身体を寄せた。
「なんでここに応募したんですか?」
奥谷は少し考えた。
「家から近いからです」
「どのくらい?」
「自転車で十五分くらい」
「めっちゃ近いじゃん」
「雨だと嫌ですけど」
「それはみんな嫌だよ」
「あと、時給が悪くなかったんで」
けーとが僕を見る。
「ほら」
「何が?」
「時給でした」
「けーとの予想当たったね」
奥谷が少し首を傾げる。
「なんか賭けてたんですか」
「面接前に、なんでこの店選ぶんだろうって話してた」
「他に理由あった方がいいですか」
「いや、全然」
れおんが答える。
「むしろ普通で安心しました。『エニあしの経営理念に共感して』とか言われても、俺らも経営理念知らないんで」
「ないんですか」
「あるのかな」
三人で顔を見合わせる。
「知らない」
僕が言う。
「俺も」
れおん。
「聞いたことないです」
けーと。
「……大丈夫なんですか、この店」
奥谷が言った。
「二回目だね、それ聞かれるの」
「今のところは大丈夫」
「今のところ」
「便利だよ、この言葉」
「不安になるんですけど」
さっきより、奥谷の返事が長くなってきた。僕はそれが少し嬉しかった。
「ちなみに、飲食店は初めて?」
「はい。居酒屋もあんまり来たことないです」
「お酒飲まない?」
「まだ十九なんで」
「そりゃそうか」
「でも、飲み会とかもあんまり行かないです」
その言葉に、れおんが反応した。
「人多いの苦手?」
「苦手っていうか……」
奥谷は少し考える。
「ずっと人といると疲れるんですよね。別に嫌いとかじゃないんですけど、一人の時間がないとしんどいというか」
「分かる」
れおんがすぐに言った。
奥谷が顔を上げる。
「分かります?」
「俺も一人で映画行ったりするし。一人の方が楽なことある」
「ですよね」
「でもこいつら、一人でいたいって言っても誘ってくるから」
「こいつらって誰?」
僕が聞く。
「エニあしの人たち」
「僕も?」
「嘉孝くんはそんなでもないですけど。哲太とか彼方とか琥珀とか」
「琥珀は特に距離近いね」
「誰にでもくっつくんで」
奥谷が少し不安そうな顔をした。
「……そういう感じなんですか」
「あ、嫌?」
僕が聞く。
「嫌というか、俺、あんまりそういうノリ得意じゃないかもしれないです」
「じゃあ断ればいいよ」
「普通に?」
「普通に」
「空気悪くならないですか」
「ならないと思う」
僕は少し考える。
「てった……金木っていう人がいるんだけど、たぶんめちゃくちゃ誘ってくる」
「はい」
「『今日飯行こう』『明日暇?』『麻雀しよう』『飲み行こう』って」
「結構嫌かもしれないです」
「でも断ったら、『そっか、じゃあまた今度』で終わる」
「また誘われるんですか」
「うん」
「断ったのに?」
「一回断ったからって、永遠に行きたくないわけじゃないでしょ」
奥谷が黙った。
「……まあ、そうですけど」
「だから、行きたいときだけ行けばいい。僕らも全員いつも一緒にいるわけじゃないし」
「それなら大丈夫かもしれないです」
「逆に」
けーとが初めて少し身を乗り出した。
「一人でいるの、そんな好きなんですか?」
奥谷がけーとを見る。
「好きですね」
「何するんですか」
「別に何も」
「何もしない?」
「カフェ行ったり、散歩したり。家にいるときもありますけど」
「一人でカフェ行くんですか」
「行きます」
「何するんですか」
「だから、別に何も」
けーとは本気で分からなそうだった。
「何もしないためにカフェ行くってこと?」
「まあ、そんな感じです」
「家じゃダメなんですか」
「家でもいいですけど、家とは違うじゃないですか」
「何が?」
奥谷が少し考える。
「……空気?」
けーとは黙った。奥谷も黙った。
「今のはちょっと分かる」
れおんが言う。
「僕も」
けーとだけが、
「俺にはまだ分からないです」
と正直に答えた。奥谷が少し笑った。
「別に分からなくてもいいと思います」
「そうですね」
けーとも頷いた。不思議な会話だった。
でも、面接が始まったときよりずっと、夕という人間が見えてきた気がした。
*
「今、人が足りないのがキッチンなんだよね」
僕は話を仕事に戻した。
「料理する方ですか」
「そう。最初は簡単なところからだけど。包丁使ったことある?」
「普通には」
「普通ってどれくらい?」
れおんが聞く。
「野菜切るくらいです。料理もたまにしますけど、人に出せるほどじゃないです」
「何作る?」
「炒飯とか、パスタとか」
「十分じゃない?」
「味は保証しないです」
「いちろーがいるから大丈夫」
僕が言う。
「一郎?」
「奥一郎。キッチンの三年生。料理めちゃくちゃ上手い」
「店長より?」
「店長いないから」
「あ、そうでした」
「そこ忘れてくれるの助かるな」
「いいんですか」
「よくないけどね」
「一郎さんは優しいですよ」
けーとが言う。
「怒らないし、料理もちゃんと教えてくれると思います。ただ、何言ってるか分からないときがあります」
奥谷が止まる。
「料理の説明が?」
「滑舌が」
「ああ」
「『これ切っといて』が聞き取れなくて、俺、一回違うもの切ったことあります」
「それ彗斗が悪くない?」
れおんが言う。
「一郎さんが指差してたのと違うの取ったんで、多分俺が悪いです」
「じゃあ一郎関係ないじゃん」
「でも聞き取れてたら間違えなかった」
「人のせいにするなよ」
「人のせいにはしてないです。事実です」
奥谷が笑っていた。
さっきより、はっきり。前髪の奥の目も、少し細くなっているのが見えた。
「奥谷くん」
僕が呼ぶ。
「はい」
「最初より笑うようになったね」
奥谷の表情が止まった。
「……そうですか」
「うん」
「別に普通です」
「そういうことにしとこうか」
「お願いします」
この子はたぶん、自分から輪の真ん中へ入っていくことはない。でも、輪の外側から眺めているのが嫌いなわけでもない。
誰かが少し場所を空ければ、そこに座る。そんな人なのかもしれない。
もちろん、三十分話しただけで人のことなんて分からない。さっきまで僕自身がそう思っていた。だからこれは、ただの第一印象だ。
「勤務は週三くらいいける?」
「はい。大学の時間割まだ変わるかもしれないですけど、それくらいなら」
「金土は?」
「毎週両方は難しいかもしれないです。でも、どっちかは入れると思います」
「年末年始は?」
「実家が近いんで、予定なければ入れます」
「お盆は?」
「大丈夫です」
「深夜営業の日、二十七時くらいまでになることもあるけど」
「三時ですよね」
「そう」
「次の日一限じゃなければ」
「いいね」
僕は紙に丸をつける。条件面では、ほとんど問題がなかった。
「けーと、他に聞きたいことある?」
「あります」
けーとは夕 奥谷を見る。
「遅刻します?」
あまりにも直球だった。奥谷も少し固まった。
「……しないようにはします」
「今までのバイトでは?」
「二回くらいあります」
「あるんだ」
「寝坊で」
「正直ですね」
「ないって言った方がよかったですか」
「いや」
けーとは少し考えてから、
「俺は今の方が信用できます」
と言った。
奥谷はけーとを見る。
「田中さん、結構厳しい人ですか」
「普通です」
「絶対厳しい」
れおんが言った。
「普通ですよ」
「さっき俺らにも遅刻する人を見分けたいってずっと言ってた」
「大事じゃないですか」
「大事だけど」
「仕事なんだから、時間守るの普通じゃないですか」
奥谷は少し考えた。
「……田中さんとは一緒に働くとき緊張しそうですね」
けーとの顔が少し固まった。
「怖いですか?」
「ちょっと」
「別に怒らないですよ」
「でも今、顔怖いです」
「元からです」
「けーと、それフォローになってない」
れおんが笑う。けーとは少しだけ困ったような顔をしていた。
*
必要なことは、だいたい聞いた。時計を見ると、面接を始めてから三十分近く経っている。
「じゃあ最後に、奥谷くんから何か聞きたいことある?」
僕が言った。
「店についてでも、仕事についてでも。さっきみたいに人間関係でもいいよ」
奥谷は少し黙った。今日何度目かの沈黙。でも、不思議と気まずくはなかった。
この子は、答えがないから黙っているのではなく、言葉を選ぶときに少し時間がかかるのだと思う。
「……一個いいですか」
「もちろん」
「皆さんって、なんでここで働いてるんですか」
予想していない質問だった。
「なんで?」
僕が聞き返す。
「さっき店長いないって言ってたじゃないですか」
「うん」
「忙しい日もあるし、時給もめちゃくちゃ高いってわけじゃないですよね」
「そうだね」
「白石さんも田中さんも、結構長いんですよね」
「俺は二年ちょいです」
れおんが答える。
「嘉孝さんはもっと長い」
けーとが付け足す。
「だったら、他のバイトに変えることもできたんじゃないかなって」
僕は答えられなかった。れおんも、けーとも黙っている。
奥谷は少し焦ったように、
「すみません。別に辞めたいなら辞めればいいのに、とかじゃなくて」
と言った。
「分かってる」
僕は笑った。
「ただ、考えたことなかった」
どうしてまだ、ここにいるのか。時給が特別いいわけでもない。仕事が楽なわけでもない。金曜の夜なんて、何度辞めたいと思ったか分からない。Tさんがいなくなってからは、以前ならしなくてよかった仕事まで増えた。
それでも僕らは、ここにいる。
「僕は」
口にしてから、少し考える。
「多分、今さら辞める理由がないからかな」
「辞める理由?」
「うん。ここに来れば誰かいるし。僕が休んだ日に何かあったら、次の出勤で誰かが教えてくれるし。営業終わったらまかない食べて、たまにそのままどっか行って。そういうの全部なくしてまで、別の場所に行く理由が今のところない」
奥谷は静かに聞いていた。
「俺は、楽だからですね」
れおんが言った。
「仕事がですか?」
奥谷が聞く。
「いや、人間関係が。別に無理して喋らなくていいし、喋りたいときは誰かいるし。哲太みたいに面倒くさい人もいるけど、それも含めて慣れたんで」
「俺は」
けーとが続ける。
「まだ、ちゃんとできてないことあるからです」
「1年やってもですか?」
「ありますよ」
けーとは当たり前のように言った。
「仕事って、全部できるようになったと思ったら、別のできてないところ見つかるんで。だから多分、まだいるんだと思います」
奥谷は三人を見る。
「……結構ちゃんとした答え返ってくるんですね」
「失礼だな」
僕が言う。
「動物に例えようとしてた人なのに」
「まだ引っ張る?」
奥谷が笑った。その笑顔を見て、ああ、この子はたぶん大丈夫だと思った。何をもって大丈夫なのかは、僕にも分からない。
仕事ができるかなんて、まだ分からない。忙しい金曜日に耐えられるかも。キッチンを覚えられるかも。人間関係に馴染めるかも。何一つ分からない。
ただここに座って、もう少し話してみてもいいと思えた。僕らにとって採用とは、案外それくらいのものなのかもしれない。
*
面接が終わり、奥谷は入口で頭を下げた。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。結果はまた連絡するね」
「はい。お願いします」
「気をつけて帰って」
「ありがとうございます」
扉が閉まる。奥谷の姿が見えなくなる。
三人で席へ戻った。僕が椅子に座る。
「どうだった?」
れおんはすぐに答えた。
「俺はいいと思います。ちゃんと喋れるし、思ってたより普通でした」
「普通って褒めてる?」
「褒めてます」
「けーとは?」
「いいと思います」
「遅刻二回してるよ」
「正直に言ったんで」
「そこ評価するんだ」
「嘘つかれるよりいいじゃないですか」
「じゃあ、採用でいい?」
「いいっす」
れおんが頷く。けーとも頷いた。
三人目が決まった。
これで、紋谷、三刀、奥谷、三人が揃う。
僕は面接用の紙を折り畳んだ。
「でも」
れおんが言った。
「奥谷くん、大丈夫ですかね」
「何が?」
「人付き合い。結構一人でいたそうだったじゃないですか」
「本人が一人でいたいなら、それでいいんじゃない?」
「まあ、そうですけど」
けーとが言う。
「仕事さえちゃんとしてれば、別に全員と仲良くする必要ないですからね」
「そうだね」
僕も同意した。
友達を作るために、ここへ来るわけではない。働くために来る。それだけでも十分だ。
本人が一人でいたいなら、無理に輪の中へ引っ張る必要なんてない。そう思っていた。
「ただ」
れおんが言う。
「哲太と彼方と琥珀がいるんですよね」
三人で黙る。
「ああ」
僕は言った。
「いたね」
「絶対誘うでしょ」
「誘うね」
「断ればいいんじゃないですか」
けーとが言う。
「奥谷くんも断るって言ってたし」
「そうだね」
僕らはそのとき、本当にそう思っていた。奥谷は、一人でいるのが好きだと言った。誘われても、行きたくなければ断ると言った。だから、きっとそうするのだろう。
ただ僕らは、まだ知らなかった。奥谷夕という人間は、誘いに乗り気な姿を見せないことと、誘いを断ることだけは妙に上手いくせにらそのあと本当に一人で帰ることについては、案外そこまで上手ではない、ということを。
