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掌編小説「月夜の鼠」

✒️あらすじ

日中の暑さとは裏腹に、涼しげな風が吹く夜。
普通の住宅街に住む17歳の高校生男子は高校3年生。中学生の頃は塾に通っていたため有名な進学高校に合格したものの、授業や周りの学生のレベルについていけず、地を這うような成績を出し続けていた。
そんな彼も今年は大学受験が控えており、先日弓道部を引退した。しかし彼は、勉強する気が起きず、成績も良くないため、ある日母親に叱られてしまう。ベッドに横になっていると、そこに突然、一匹の鼠が机の上に現れる。



「判定E」と書かれている結果通知は、至るところにシワが付いている。夕食時に母から叱られた時にできたものだ。報告するタイミングを間違えたかもしれない。

地獄のような夕食を済ませ、すぐさま自室に逃げ込んだ。「志望校を変更してください」という文面を目にするたび、頭の中で肥大し、自重で脳の奥に沈んでいく。明かりのついてない部屋でそれと対峙する。自分にとって気持ちの良くないそれを、長年使っている勉強机に置いた。
沈んで重くなった体を一旦イスに座らせてみるが、怒られた反動で問題集に向かうほどの体質はなく、そのまま体を滑らせてベッドに横たわった。

いつもは差し込まない月明かりが自室をやさしく照らしていた。ベッドから見た机は青白い。窓から見えた隣の建物には、カーテン越しの明かりが見える。もしこんな家庭ではなく、もっと違う環境に身を置いていたらどうなっていただろう。
そんなことを考えていた、その時だった。

青白い机の上で白い塊が這い回っている。ぎょっとして目を凝らす。あたりの暗さもあってなかなか焦点が定まらない。それもこちらの目線に気づいたようだ。二つの目がこちらを見た。ちゅちゅちゅ、と鳴き声らしき音も聞こえてきた。

鼠。鼠だ。白い鼠。筆箱ほどの大きさの。鼠。

無機質な部屋の中に動物がいる。あまりにも現実味を帯びない状況に声すら出ない。耳や鼻やヒゲをひくひく動かし、時折、周囲を見回している。いつかこちらに飛び込んでこないか、と掛け布団にくるまって様子を伺った。

しばらくして、動かしていた耳や鼻やヒゲが止まり、ある一点を見つめ始めた。それは先日引退した弓道部で使用していた矢だった。鼠はそこに一目散に駆け寄り、その中に一本加えた。自分の使っていた矢とは違い、先端が膨らんでいる。その矢をくわえた鼠は、窓によじ登り外へ出ていった。

ピピピピ…

午前6時。置き時計の音で目が覚めた。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。断片的だが、鼠の夢を見たことは覚えている。自分の矢を盗られた気がしたので確認したが、矢の本数は合っていた。きっと鼠も困っていたのだろう。あの鳴鏑(なりかぶら)らしき矢を貸したツケはいずれ返して欲しいものだ。

それからというものの、実はとても縁起の良い夢だったのではないか、と思うようになった。相変わらず志望大学の合格基準は超えないが、前向きに挑めるような気持ちになり始めている。少し遅いが、これから少しずつ進んでいこうと思っている。

あれから鼠の夢は見ていない。

終。1,031文字。



✒️あとがき

第二作目をお読みいただきありがとうございました。今回は少しファンタジックな要素を入れてみました。ふとテーマを思いついた時に投稿したいと思います。

追伸
あの後鼠はどこに矢を持っていったのでしょうか。想像するとわくわくしますね。

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