伝統的左派では極右に対抗できない
「エキストリーム・センター(極中道)」という言葉が中道政治への批判として使われることが増えた。タリク・アリがこの言葉で問題にしたのは、左右の主流政党が市場中心の政策へと収斂し、有権者に実質的な選択肢を与えなくなる政治だった。
中道政治は、「右でも左でもない」として時に理念的に賞賛される一方、左右の対立を乗り越えた理想的な政治ではなく、既存の秩序を維持するために、異なる選択肢を排除する政治、と批判される。
他方で、世界的にも階級対立を前提にする伝統的左派のモデルでは、エスタブリッシュメント型の保守には対抗できても反グローバル思想の極右には対抗できない。以下にその理由を述べていく。
コービンとスターマー
例えば、イギリスの労働党について考える。前首相のキア・スターマーは労働党内の中道派の典型とされた。対して、前任者であるジェレミー・コービンは労働党の中でいわゆるオールド・レフトに属していた。
労働党は歴史的に、ブレア以降のニュー・レイバーとオールド・レイバーの対立が激しかった。コービンは一時総選挙で議席を増やしたもののその後迷走し、労働党を追われた。
コービンは二つの点で異なる方向性で批判されていた。一つは反ユダヤ主義であるという点、もう一つは親ロシアかつ、ウクライナに十分な支援をしようとしなかったのでは?という点だ。一点目については後ほど述べるとして、まずは対露関係について考える。
伝統左派とロシア
左派とロシアの関係性については複雑だ。かつては東側諸国が社会主義をとっていたこともあり、日本社会党のようにソ連との関係が深い政党もあった。現在は「東側」という概念自体が存在しないが、それでもフランスのメランション、ドイツのヴァーゲンクネヒトなどは親露と称されることが多い左派政治家は少なくない。コービンも、公的にはロシアを非難するものの、軍事的支援に関しては消極的な姿勢を示した。
日本でも、共産党を例にとると、ロシアのウクライナ侵攻を批判する一方、武器輸出に対しては反対してきた。他方、理念としての平和主義と、目の前で起きている独裁国家による侵略にどう対応するかという点では一定の矛盾がある。いわば「消極的平和主義」とも言えるだろう。
興味深いのは、極右・急進右派と極左・急進左派は、部分的に政策が接近することだ。AfDやリフォームUK、果てはドナルド・トランプまで、極右・急進右派政党の多くは親ロシア的姿勢を見せてきた。そこにあるのは、NATOやEUといった既存の国際的枠組みに対する不信感だ。
コービンも長年のEU懐疑派として知られた。コービン時代の労働党は、離脱派と残留派の間で方針が変遷し、最終的には再国民投票を掲げたものの、離脱と残留の間で右往左往した。
反グローバル、反EU、反NATO的傾向、あるいは軍事支援に対する消極さが結果的にロシアや中国など東側諸国の軍事行動に対して融和的な姿勢を生む、という点ではこの点伝統的な左派は伸び続ける極右・急進右派への対抗勢力としては非常に弱いものになっている。これもまた、有権者の投票行動に影響を与えていると言えるだろう。
フランスでは結果的に中道派が社会党を割って政権を樹立したが、次回の大統領選挙では急進右派のルペンと急進左派のメランションの対立となることが予想される。
中道派とパレスチナ
他方、中道派のネックとなってきたのはパレスチナに対する態度だ。アメリカでも穏健保守のバイデン政権が倒れ、オカシオ=コルテスに代表されるSquadなど左派グループやサンダースが注目を集めているのは、イスラエル支援とパレスチナに対する姿勢を明確にしない民主党執行部への苛立ちが有権者の中でも高まっていることが一因に挙げられる。
長年欧米社会においてはイスラエル批判が「反ユダヤ主義(アンチセミティズム)」と批判されることが多かったが、ガザにて行われている人道的に極めて問題のある攻撃は、もはや多くの有権者の記憶に深く刻まれている。
オカシオ=コルテスやサンダース、マムダニを極左と呼ぶ論者も多いが、欧州の極左・急進左派政治家と立ち位置は異なる。アメリカでは皆保険すら社会主義と共和党から批判される国である。
サンダースは民主党に所属していない民主社会主義者だが、彼は市長の経験があり、バイデン大統領とも関係の深い政治家である。内政面で国有化などのやり方が急進的ではないか、という議論はあるものの、外交や国際協調については一貫しているとも言える。
この点で興味深いのは、緑の党だ。緑の党は国際組織としてグローバルグリーンズ、欧州の組織として欧州緑の党を持つ国際的な左派政党である。
気候変動対策には国際協調を必要とする。各国の濃淡はあるものの(例えばスウェーデン緑の党は2008年までEU離脱を主張していた)、欧州の緑の党はNATOを重視し、米国などとの協調による中国・ロシアへの圧力も辞していない。ドイツなどでは特にそれが顕著である。
この点、右派がネオリベラリズム・ネオコンに代表される国際協調路線から退場し、各国が国際的枠組みを壊す中で、むしろ左派がグローバルイシューに対応するためにグローバル化を進める責任を負っているとも言える。
極右・急進右派への対抗勢力
日本では自民党を包括政党とし、どう自民党に対抗する軸を立てるか、という点で野党勢力はアイデンティティを模索してきた。憲法や原発などのイシューはまさに自民党との対抗軸の一つだった。
また、日本における左右の対立は伝統的に太平洋戦争をどう評価するかという点に力点が置かれており、戦後左派は戦争への反省と日本の侵略国家化を防ぐことを軸にアイデンティティを構築してきた。
しかし、戦争からすでに80年が過ぎ、日本は民主国家として抑制的に活動し、世界的にも平和国家として一定の地位を得るに至った。戦後左派の設定するイシューはすでに時代に適合していない印象を与える。
また、「何かを止める」ことに集中し、時に守旧派との印象を与えた。特にデジタル施策では、誰も取り残さないことを重視するあまり、大胆な変革の障害と見られることもあり、このような姿勢が若年層離れと支持層の高齢化を生んだ一因とも言える。
トランプ政権、リフォームUK、国民連合やAfDなどの台頭を踏まえると、今後伝統的右派を極右・急進右派政党がリプレースする流れになるだろう。
たとえば、高市政権もこれまでの自民党政権の継続にある政権と捉えるべきか、疑わしい部分がある。いわゆる「保守本流」、岸田総理や石破総理に近い政治家が再度自民党総裁になった時に、高市政権を支持する層がそのままスライドするとは考えづらい。
反グローバル的急進右派・極右は、ネオコン・ネオリベ的なエスタブリッシュメント右派よりもはるかに危険な存在だ。アメリカは陰謀論と汚職までが政府で蔓延し、展望のない戦争と非科学的なワクチン批判が罷り通っている。
日本においては、伝統的な右派の対抗軸としての共産党など左派政党が衰退し、中間政党をまとめようとした中道政党が総選挙後に崩壊。その他の政党も一貫した政策的ビジョンを提示できていない。この点、欧州型の中道政党や、環境などを論点にした近代型左派政党が存在しないと言えるだろう。
れいわ新撰組は急進左派政党と言えただろうが、山本代表の知名度に依存しており、頓挫した。他方で、日本にも参政党という、ある意味でグローバルの流れを汲んだ急進右派政党が台頭してきたことを考えると、この状況が変わる余地があると言える。
日本では、これまで政策軸は伝統的左派の許容・回帰か中道化か、という二つの軸で語られてきた。いわゆる野党共闘などの議論や「自民党と同じ政党を作ってもダメだ」「いや、ウイングを広げるべきだ」という論である。
すでに世界は伝統的右派vs伝統的左派の対立ではなくなっている。自民党かそれ以外かという議論も時代遅れである。有権者の入れ替わりとともに、いずれ戦後的な枠組みへの投票行動の影響は消散する。その時極右・急進右派の対抗勢力になりうるのは近代化した中道やグローバル左派政党になり得るのではないか。
そのような勢力の構築は至難の業にはなるだろうが、いずれにしてもすでに自民党vs野党という構図が通用しなくなっている以上、大きく政界の構図が変わる可能性があるだろう。
