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209. 「Slackの投稿をAIでCRMに落とす」で失敗する理由。SIerの差別化を分ける『Why(真の目的)』の深掘り

前回のnoteでは、AIというテクノロジーが1995年の「Windows95やExcel」と同じ歴史を辿り、誰でも扱えるインフラへとコモディティ化していく未来についてお話ししました。

「AIを実装できます」「高度なプロンプトが書けます」といった作業は、できて当たり前の前提(ゼロ地点)となり、近い将来、あっという間に激しい価格競争に巻き込まれていきます。

では、AIが前提となる世界において、SIer(システムインテグレーター)は一体どこで他社との「本当の差別化」を生み出せばよいのでしょうか?

その答えの一つは、これまでもこのnoteで何度も繰り返してきた、「課題抽出の深さ」「なぜそれをするのか(Why)という課題設定力」に他なりません。

AIという強力な計算機が誰もが手に入る時代になったからこそ、「何を解決するためにAIを使うのか」という課題と解決策の結びつき(Why)が、かつてないほど重要になってくるのです。

【実例】AIでSlackとCRMを繋いだのに、なぜ失敗したのか?

この「目的を見失った技術実装」の恐ろしさを象徴する、最近私が実際に関与した事例(失敗談)をご紹介します。

ある企業では、社内の日常的なコミュニケーションをすべて「Slack」に集約していました。 営業現場では、お客さまからの問い合わせや案件の進捗報告が、日夜Slack上にどんどん書き込まれていきます。しかし、チャットのフロー(流れる情報)の悲しさで、次第に案件のステータスが不明になったり、顧客の連絡先や受注金額といった重要な情報が抜け落ちたりする課題が発覚しました。

そこで彼らは、最新の「AIエージェント」を導入しました。 「Slackに商談の書き込みがされたタイミングで、AIが内容を読み取り、自動でCRM(顧客管理ツール)へデータを転記・登録する仕組み」を構築したのです。

一見すると、営業の入力手間が省けて「すごく業務が効率化した!」と思える素晴らしいAI活用に見えます。

しかし、運用を始めてしばらく経つと、現場は深刻なジレンマに陥ることになりました。 いくら時間が経っても、経営やマネジメントに『使えるデータ』がCRMに一向に溜まらなかったのです。

なぜなら、Slackで交わされるやり取りは、あくまで断片的な会話のラリーです。どれほど優秀なAIであっても、元の会話(インプット)の情報が断片的でゴミだらけであれば、CRMに溜まるデータ(アウトプット)も粒度がバラバラな「ゴミデータ」にしかならない(Garbages in, Garbages out)からです。

「言われた通りに作ったSIer」の決定的な罪

なぜ、このような悲劇が起きてしまったのでしょうか。

顧客(ユーザー企業)からSIerに対して、次のような仕様のオーダー(要求)が入りました。

「Slackに案件情報が書き込まれたら、それをトリガーにしてAIで文脈から情報を抜き取り、CRMの関連項目に自動入力するように実装してほしい」

従来の「要求仕様通りに開発することが技術力の高さだ」と勘違いしているSIerは、「わかりました!」と二つ返事でその通りに綺麗なシステムを構築して納品します。

しかし、顧客が「本当に実現したかったゴール(真の目的)」は何だったのでしょうか?

顧客が喉から手が出るほど欲しかったのは、「Slackの文章を自動でコピペすること」ではありません。 彼らが真に求めていたのは、次のような「営業活動全体を俯瞰して正しく判断するための可視化」だったはずです。

  • 今、社内でどのような案件が動いているのか?

  • 最も優先度の高い案件はどれで、どこにボトルネックがあるのか?

  • 今期、確実に獲得すべき案件はどれなのか?

もしSIerの側が、「Slackから自動転記したい」という顧客の目先のリクエストに対して、「どうしてその仕様にしたいのですか?」「本当に実現したい営業課題は何ですか?」と一歩深く問いかける能力を持っていれば、「それならSlackからの自動転記ではなく、BANTの確認項目をベースにした別の運用プロセスをご提案します」と、全く違う筋の良い提案ができたはずなのです。

「仕様書の清書屋」から「Whyを問えるパートナー」へ

以前のnoteでも書きましたが、「どうしてその仕様になっているのか?」を深掘りできないSIerは、顧客から言われるがままに無理な仕様やイレギュラーな例外処理をどんどん実装してしまい、結果として誰も使えない複雑なシステムを作り上げてしまいます。

今回の「AIによるSlackとCRMの連携」も、技術的には正解に見えますが、本質的な課題解決には1ミリも繋がっていません。

顧客の言葉をそのまま鵜呑みにするのではなく、

「お客さまが真に解決すべき『課題』は何なのか?」

を泥臭く見極め、時に顧客自身も気づいていない潜在的な課題を「問い直す」力。これこそが、ITがどれほど進化しても絶対にコモディティ化しない、SIerにとっての『真の差別化(生き残りの道)』になります。

そして、この「Whyを問う力」は、これから社会に出てくるAI世代の若手だけに求められるものではありません。 人月ビジネスの終焉と中抜き(内製化)の波に晒されている、現代のすべてのSIerにとっての「必須要件(生き残りルール)」だと思います。

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